あなたならどうなさいますか?

maruko

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 カントリーハウスの地下牢に入れられたマイナは、こんなはずでは無かったと意気消沈していた。
 ここに入れられた始めのうちは、日付を数えていた。リーシャがここに入れる時、刑罰を決めるのはオリビアだと言ったから、自分は直ぐにされることはないと思ったからだ。

 だが、食事の回数で指折り数える日付は、1ヶ月、2ヶ月過ぎた頃には、マイナにはもう数える気力はなくなっていた。

 メロウ伯爵家でマイナは、母と父の背を見て育った。母は3日に1度は侍女長として仕えるメロウ伯爵家に泊まり込みがあった。
 そんな日は、メロウ伯爵家の夜間警備として従じる父が休みで家に居た。
 マイナは家で独りぼっちになることはなくて、両親の愛に包まれて育った。二人の子だと信じて疑っていなかった。

 二人の子供ではない事、少なくとも父の子ではない事を知ったのは9歳の時だ。父の母、マイナが祖母だと思っていた人と父の会話を偶然聞いた時だった。
 マイナの祖母への印象は気難しく母を虐める最低ババアだった。
 その日祖母が休みの父を突然訪ねてきた。母が居ないのを態と狙ったようにマイナは思った。
 マイナ達家族が住んでいたのは、メロウ伯爵家から程近いところに建てられた、小さいが2階建ての家だった。
 忙しい母の為に通いの家政婦がいて、食事の支度や洗濯、掃除などをしてくれた。
 宛らマイナはお嬢様のようではあったが、使用人はその人のみで自分の身の回りのことは自分でしていた。
 苦手な祖母が突然来たため、マイナは早々に2階の自分の部屋に閉じこもった。

 祖母が来なければマイナはその日父と一緒に、街に買い物に連れて行ってもらう予定だったのに、意地悪ババアがマイナにまで意地悪をしに来たと部屋で憤っていた。
 そもそも、いつも来た時は家族の愚痴を言いに来るから、マイナはまたかとウンザリしていた。そしてそのついでに母の事もコケ下ろす事も知っていた。
 マイナは今日こそ祖母に文句を言いたくて、勇気をだして階下に降りて行った。
 小さな家の1階には部屋は2つしかない。
 キッチンを兼任している食堂と家族で寛ぐ居間だけだ。
 その日二人は食堂の方で話していた。

「出ていくなんて思わなかったのよ!あの嫁だけ出ていけばよかったのに!まさかヒュースまで出ていくなんて!親を捨てるとは思わなかったわ」

 祖母の大きな声は、そんなに近付かなくても、食堂を突き抜けて廊下まで聞こえてきた。
 それでもマイナは近付いてその五月蝿い声を聞きにいった。

「母さんが五月蝿く言うからだろう。それに嫌がらせだって酷いもんだったよ、兄貴にいつも怒鳴られてたじゃないか。懲りない母さんが悪いんだからな」

「でも!せっかくメリアさんが子を儲けてくれたのに!」

「メリアを本当に兄貴の愛人だって信じてんのか?ただの幼馴染だぞ」

「でも、飲み屋で会ったって言ってたわよ」

「会っただけだろう?なぁもういいか?帰ってくれよ、今日はマイナと出かける予定だったんだ」

「冷たい子ね!あんたも私を捨てるの?」

 祖母の金切り声に混じって泣いてる声も聞こえたから、ババアが泣いてると思ってマイナはいい気味だと廊下で聞き耳を立てながら思っていた。

「ねぇ!あんたもう一人作ってよ!男の子がいいわ。マイナなんかちっとも私に似てないから可愛くないし、男の子だったらうちを継がせるわ!」

 意地悪ババアのその言葉にマイナは益々憤る。
 両親に似ていないのはなんとなくマイナも気にしていた。髪も瞳の色も顔立ちも違うからだ。だが母が、今は亡き母方の祖父に似ているのだと言っていたから、安心もしていたのに、その忘れかけていた傷を思い起こさせたババアを許せないと思った。
 その先の話が、二人が急に小声になったのか、聞こえなくなってしまったから、そろそろ文句でも言おうかとドアを開けようとしたその時、父の怒声がこちらにも響いた。

「だから!俺にも兄貴にも子種がないんだよ!何度言えばわかるんだ!もう母さんとは絶縁だ。兄貴とは血の繋がってないメリアの子に、その小さな雑貨屋を継がせればいいだろ!そんな雑貨屋ごときの跡継ぎ跡継ぎって五月蝿いんだよ!母さんは、自分の贅沢させてくれる持参金目当てで、姉さんを兄貴の嫁にしたくせに、子ができないっていじめ抜いたバチが当たったんだ!もう出ていってくれよ!」

「そんな!じゃあマイナは何なのよ!」

「あの子は伯爵様が、子を持てない私達のために遣わせてくれた天使だ!この事をあの子に一言でも漏らしてみろ、雑貨屋を火の海にしてやるからな!」

 マイナは廊下に呆然と佇んでいた。
 だが椅子が引いた音が聞こえ、反射的に不味いと思いそっと2階に駆け上がった。

 父さんには子種がない
 伯爵様が遣わした?

 マイナは信じていた幸せな家族が、急に色褪せて見えてしまった。
 だが、そんな話を聞いても、両親はいつもと変わらないから、マイナは聞かなかった事にして忘れようと思った。
 父は本当の娘のようにマイナに接してくれるし可愛がってくれるから、知らないふりをしようと心に決めた。

 10歳の時、マイナは初めてリーシャに会った。
 それまでも何度かメロウ伯爵家には、母に連れられて訪れていたが、主に応接室に連れて行かれて数人の子達と一緒に読み書きを習う物だった。そこに集められたのは皆、伯爵家で働く使用人の子たちで、将来は伯爵家に仕えられるように最低限の教育を施されるのだと聞いていた。
 そして、マイナはリーシャ付の侍女候補としてお目通りする事になったのだった。

「マイナ、お嬢様はとっても可愛い女の子よ。マイナのひとつ下だから優しく接してね。でも私達はあくまでも使用人よ、そこを履き違えてはいけないから、粗相のないようにね」

 マイナは母の言葉にしっかりと頷いた。

 リーシャは金髪に青い瞳の可愛いというより、綺麗な女の子だった。とても自分と同じ人間には見えないと、初めて会った時は、震えてしまった。

 その日から通いで伯爵家に母とともに伯爵家に行くことになった。
 だが何度めかの時に、マイナは母の同僚のリーマからとんでもない事を聞かされる。

 “リーシャは奥様の子じゃないかもしれない”

 そんな話を聞かされた子供のマイナは、どうしてリーマは自分に言うのだろうと不思議に思った。

「あんたもさぁ旦那様がどこからか連れてきたのよね、知ってた?」

 ニヤニヤ顔のリーマはマイナにそう言った。

「あんた達同じところから来たんじゃない?そういえばあんたが連れて来られる前に、侍女が一人やめてるのよねぇ。リーシャ様もあんたも旦那様とその侍女の子かもしれないわね。あんたも気の毒ね。一人は侍女に宛てがってもう一人は奥様に、旦那様も子供に差なんかつけなくてもよかったのに、あんたが金髪じゃなかったからかもねぇ」

 マイナは呆然とその話を聞いた。
 1年前の祖母と父の会話、子種がないと怒鳴る父。似ていない親子。

 私は旦那様の子だったの?
 じゃあどうして私は侍女の子にしたの?
 どうしてリーシャだけお嬢様なの?

 マイナの母と侍女長の座を競って負けたリーマが、度々の失態でメイドに降格されそうになり、その腹いせに適当な話をでっち上げたとは思っていないマイナはその話をすっかり信じ込んだ。
 リーマが知っていたのは、リーシャが伯爵夫人の子ではないかもしれないという実しやかな邸内の噂とマイナが突然侍女長の子になったことだけだった。
 どちらも妊娠中と思われる時期にお腹が膨れていなかったという事からの推測に過ぎない。

 だが状況的に歪なピースが当て嵌まってしまい、マイナは彼女の言う事を信じてしまった。既に亡くなったリーマだったが、とんでもない置土産を残していたとはメロウ伯爵家では誰も気付くことがなかった。

 そして、自分が信じていたそれら全てがリーマの嘘だとマイナが知ったのは、牢に入れられて3ヶ月経過した頃、子爵家からやってきた実兄が、戸籍謄本とともにやってきた時だった。
 マイナが伯爵家に引き取られた事の経緯をぼんやり聞かされながら、その話をマイナは素直に信じた。何故なら初めて会った実兄はすべてがマイナにそっくりだったからだった。

嘘に踊らされた者がここでも一人後悔の涙を流していた。






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