あなたならどうなさいますか?

maruko

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 リバーからアレクサンドルの突然の訪問を聞いて、オリビアは急いでサロンに向かった。

「どうしたの?アレク様」

「やぁオリビア、ごめんよ。来ちゃった」

「来ちゃったって⋯⋯」

 オリビアは軽く答えるアレクサンドルに面食らう。外はかなり強めの雨が降っていて、気まぐれで来るには悪路過ぎる。
 雨が強ければいくら王室お抱えの腕の良い馭者でも、視界が悪すぎて事故に繋がり兼ねない。
 こんな日に王族が外出するのは、緊急な理由でもなければあり得ないことだった。

 そしてオリビアは気付いた。
 以前の鈍いオリビアなら気付かなかったかもしれない。だが、今のオリビアは気付いてしまった。

「アレク様⋯私が怖がってると思ったのね?」

「ん?なんのことだ?」

 空々しい顔で、何でもないことのように言っているが、気付いたオリビアには、意味がなかった。だけどこれ以上追求するのは、野暮というものだ。アレクサンドルが素知らぬ顔をするのなら、オリビアはそれを快く受け入れよう、そう思った。それに彼の行動はオリビアを気遣っての物だと、オリビアにはもう分かっていた。

「ふふっ外の雨は冷たいでしょう、温かいお茶で温まって」

 そうしてオリビアはアンヌが用意してきた茶葉で、アレクサンドルの為に心を込めてお茶を淹れた。
 アレクサンドルの匂いのシトラス、今日のお茶にはレモンを一滴。今ではオリビアが一番心を落ち着かせられる匂いだった。

「ふぅ美味い!オリビアのお茶は美味いなぁ」

「ふふっ」

 お世辞と分かっていても、オリビアにはとても嬉しい言葉だった。誰かが自分のした事を認めてくれることが、嬉しいと感じられる。それがとても希少だった。
 女侯爵になるのだからこれくらいは出来て当たり前、そう言って父には習った。
 きっと本当はそうなのかもしれないけれど、そうじゃないかもしれない。

 “跡取りを絶対産まなければならない”

 そんな固定概念をあの時捨ててしまえば、良かったのかもしれない。
 でもそれは考えても仕方がない。過去は元には戻らない。
 オリビアは、今度こそ本当の“石女”になってしまったかもしれないけれど、今はそれがどうしたと思えるようになった。

 アレクサンドルやアンヌ、レオナールが壊れた心をあの旅で修復してくれた。
 オリビアは今はとても楽に息ができている。

 だからこそアレクサンドルの言葉に胸が詰まされた。

「本当に王太子様がそう言ったの?」

「あぁ今日王太子妃様も交えて」

「でも、タイミングだってあるじゃない?王太子妃様はお一人生んでいらっしゃるわ」

 今日、午後のお茶の時間に、王太子から話があるとアレクサンドルは誘われた。
 そこで話されたのは側妃を検討するというものだった。
 王子の婚姻は事細かに決められており、その全てに議会の承認が必要になっている。
 王太子の子が二人以上生まれなければ、スペアの王子は婚姻しても子供を持てないのだ。
 スペアの王子、今それは第三王子のアレクサンドルの役目だった。

 アレクサンドルがオリビアと婚約、そして婚姻したいと陛下に告げた時、王太子もその場にいた。

 本来アリスンの生んだリーシャは王女の資格があるにもかかわらず、前国王の醜聞と失態の追求を避ける為、リーシャは生まれを偽った。
 その血を王家に戻したいのが、前国王と陛下の願いでもある。
 今度こそそれを実現したいのだが、婚姻に関して問題が発生する。
 それはオリビアの歳だった。

 今オリビアは21歳、あと数ヶ月で22歳になる。
 既に一度流産も経験してしまったオリビアに、このままだと高齢出産の可能性が出てきてしまう。

 今アレクサンドルとオリビアの婚約は議会さえ通せば可能になる。
 相手がオリビアだから、アレクサンドルは、リーテンベルク侯爵家に婿に入ることになるが、それ自体は問題はない。普通に臣籍降下ならばオリビアが再婚というのは問題になるが、アレクサンドルは、婿入りする為生まれてくる子は全てリーテンベルク家の子になる。即ち王位継承権も発生しない。

 一番の問題は、王太子に子が現在一人しかいないという事だった。その為にアレクサンドルは、今婚姻して王族を抜ける訳には行かない状態であった。

 オリビアがまだ今の時点で10代であれば、気長に待てるが、実際は既に20歳を超えてしまっている。王太子妃が次の子を儲けるまで、悠長に待つ事ができない。それが王家の懸念だったし、それが議会の反対する理由になるかもしれないと陛下と王太子は危惧していた。

 だから、早々に王太子が側室を持つという流れになってしまったようだった。

 そんな話を、アレクサンドルに聞かされたオリビアは、自分のために王太子妃が嫌な思いをするのは“違う”と感じた。

 そもそも、オリビアは次の子を持てるかどうかは分からないと医者に言われている。

 親戚と言っても、リーテンベルクの少ない家系の中から養子を取るのも難しい。
 それでもオリビアは、かなり楽観視していた。
 気負ってもいいことはないと。
 それは王太子妃にも言える事、プレッシャーなど与えたくはなかった。

「ねぇ、アレク様と私が結婚しても王家に嫁ぐわけでもないから、お母様の血が王家に交じるわけではないわ。だって私の生む子は継承権は発生しないもの」

「まぁそうなんだけどね、父上がねぇ。その辺も画策してるみたいで」

「陛下が?何を考えていらっしゃるか考えたくはないけれど、だからといってそれで側室なんてあんまりだわ。その⋯妃殿下は何か言っていた?」

「うーん、王太子妃様は王家に嫁ぐと決まった時に覚悟はしていると仰ってたけど」

「それはそうかもしれないけど。それは子が持てなかった場合でしょう?先ほども言いましたけど、妃殿下はお一人無事に生んでいます!もう一人も妃殿下が健やかにしていれば、そのうちお生まれになると思うわ。プレッシャーを与えて健康な妃殿下に物思いを与えたくないわ、ましてや私の為になんて、そんなの嫌よ」

 夫を他の女と共有する辛さ、後で分かっただけでも心が痛かったオリビアには、王太子妃にそんな傷みを持って欲しくなかった。

「とりあえず、その案は却下で!変更してくれなければお母様に出てもらうわ、そう陛下にお伝えしてねアレク様」

 国王は、リーシャに滅法弱かった。
 念願の妹が出来たと聞いた時は、既に王家ではなく別の家で育っていた。

 学園に入る為に、リーシャが王都に来た時、必ず幸せの後押しをしようと思っていたのに、公務で忙しくしている間に、リーシャが嫁いだ先でとんでもない事になってしまって、陛下はその事をとても悔やんでいる。
 だからリーシャのお願いは、陛下にとって、絶対に聞き届ける一択しか答えはないのだ。

 オリビアは自分がアレクサンドルと結ばれる事で、他の誰も不幸にしたくはなかった。



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こちらは昨日更新予定でした。
作者のミスで予約設定を間違えてしまっていました、申し訳ありません🙇‍♀

それに伴いまして本日は3話更新予定です
よろしくお願いします
( ⑅ᴗ͈ ᴗ͈)𓈒𓏸𓈒𓐍   

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