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晴れて婚約者になったアレクサンドルとオリビアだったが、其々に多忙の為、二人の休日が合わずなかなか思うようには会えずにいた。
大体会えるのは、アレクサンドルが仕事の合間に、リーテンベルク家を訪って、オリビアが領地に行っていなければ会える。
そんな予定もなしの行き当たりだったり的な逢瀬だった。
その日もニコルとの打ち合わせで、オリビアは領地に赴いていた。
それというのも、ニコルの薦めで、今年は領地での冬籠りはしない方向に話が進んでいたからだ。
あの衝撃的な日から、もうすぐ一年になる。
それまでは約三ヶ月ほど毎年領地に籠っていた。
今年は既にその期間を一ヶ月押している。
あと二ヶ月の雪の対策に最善の打ち合わせをして、何かが起こった時は、ニコル推薦の執事に動き回ってもらうことになった。
その最後の打ち合わせの日だった。
領地から帰ってきたら、その日の昼にぽっかり隙間の空いたアレクサンドルが、侯爵家を訪ねてきたという。
リバーから恭しく渡されたのはアレクサンドルからの手紙だった。
オリビアは頬を染めてそれを受け取った。
領地からタウンハウスまでは、馬車で凡そ8時間かかる。
一眠りすれば着く時間ではあるが日帰りは厳しい。
近いけど遠い、遠いけど近い、リーテンベルク侯爵領はそんな所に位置していた。
部屋で手紙を開くと、どうやらアレクサンドルは話があったようだ。
今日を逃すとゆっくり話す事ができないからと、手紙を認めてくれたらしい。
内容は主に、ある侯爵家のご令嬢に関してだった。
「はぁ、まだ諦めていなかったのかしら?」
あの議会の時、真っ先に側妃候補に名乗りを上げた侯爵家。そこのご令嬢の次の婚約者候補に、どうしてアレクサンドルを求めるのか、オリビアはこの些か不可解な手紙の内容に憤りを感じずにはいられなかった。
アレクサンドルにはオリビアがいる。
しっかり議会の承認も得ているというのに?
その手紙は、ご令嬢の戯言を信じる貴族がいて、噂になっていると教えてくれていた。
この手紙を急ぎで書いてくれたのは、おそらく三日間はアレクサンドルが自由になる時間がないことを意味している。
何故なら四日後に、公爵家のお茶会があり、オリビアはその茶席に参加することになっているからだ。
それまでここに来ることができるなら、この手紙は書かずにアレクサンドルが口頭で教えてくれただろうと思えるからだ。
きっとその茶会に件のご令嬢一派が、参加予定であるのは想像に難くない。
多勢に無勢とは言い得て妙で、オリビアが女侯爵と言えども正体不明な“噂”には太刀打ちできないときもある。
だが事前に分かっていれば対処可能なのだ、主に心の腹積もりに関してだが。
「ひょっとしてアレク様、どこかで見初められちゃったのかしら?」
ご令嬢とアレクサンドルの出会い、そんな事を思わず想像してしまったオリビアは、その不快な光景を掻き消そうと頭をブンブンと振り続けた。
◇◇◇
「オリビア、あの席のご令嬢よ。白いユリの髪飾り」
「あのディドレス」
「何を考えていらっしゃるのかしらね。若いと無鉄砲ってセット?」
「ふふっ」
今日の茶会は公爵家主催だったから、重立った参加者は、トルサー王国の高位貴族の夫人やご令嬢などで締められている。オリビアのように爵位を継承した女当主は珍しい部類になる。
そもそもが女性の継承者が珍しいのだから、分母自体が少ないのだ。今日の参加者の中では、もう一人だけだった。
主催者に挨拶に行き、当たり障りのない時候などをつらつら並べ立て、取りあえずの体裁を整えたあと、スススっと音もなく近付いてきたのは、オリビアの学園生時代からの数少ない友人だった。
オリビアは、あまり好んで友人を作らなかった。
それは自身が侯爵を継ぐことが決まっていたからに他ならない。
『学生時代の友人は、親しくしていて枷になる事が往々にしてある』
そんな父の持論をオリビアは忠実に守っていた。今思えば父ユリウスが爵位継承後に友人と何かあったのかもしれないが、そんな父の戯言を、その頃のオリビアは父寄りの思考だったから守っていたのだ。
だから友人が本当に少ない。
いま隣に来てくれたのは、ジェイド侯爵家の次女で王太子妃を姉に持つアイリスだ。
因みに彼女の婚約者はレオナールで、二人は婚姻したらジェイド侯爵家の従属爵位であるマキシ伯爵を、アイリスが継承することになっている。
レオナールはアレクサンドルとオリビアが婚姻するまで、アイリスとも婚姻しないと宣言していたが、近々籍を入れる事になっていた。
それは不埒なレオナールがアイリスを妊娠させたからだ。
先日のアレクサンドルの手紙でそれを知ったオリビアは、直ぐにアイリスに会いに行き、心からお祝いを言うと彼女は涙ぐんで抱きついてきた。
オリビアの心の傷みを我が事のように感じて、王太子妃に働きかけてくれた、友人思いの優しい女性だから、オリビアを気遣って自分からは言えずにいたのだろうと推測される。
そんなアイリスと今日は付かず離れずで一緒にいようとその時打ち合わせた。
『フィリア・ロージュ侯爵令嬢』
日に透けると金にも見える色素の薄い茶色の髪に、濃い緑の瞳はエメラルドを思わせる。
かつて、第一王子の婚約者候補だった姉を彷彿とさせる美しい顔を持つ彼女は、高位貴族の令嬢らしく背筋を伸ばし、堂々とそこに佇んでいた。
その身に纏うディドレスはアレクサンドルの瞳を思わせる、装飾されたレースも見事なブルーだった。
大体会えるのは、アレクサンドルが仕事の合間に、リーテンベルク家を訪って、オリビアが領地に行っていなければ会える。
そんな予定もなしの行き当たりだったり的な逢瀬だった。
その日もニコルとの打ち合わせで、オリビアは領地に赴いていた。
それというのも、ニコルの薦めで、今年は領地での冬籠りはしない方向に話が進んでいたからだ。
あの衝撃的な日から、もうすぐ一年になる。
それまでは約三ヶ月ほど毎年領地に籠っていた。
今年は既にその期間を一ヶ月押している。
あと二ヶ月の雪の対策に最善の打ち合わせをして、何かが起こった時は、ニコル推薦の執事に動き回ってもらうことになった。
その最後の打ち合わせの日だった。
領地から帰ってきたら、その日の昼にぽっかり隙間の空いたアレクサンドルが、侯爵家を訪ねてきたという。
リバーから恭しく渡されたのはアレクサンドルからの手紙だった。
オリビアは頬を染めてそれを受け取った。
領地からタウンハウスまでは、馬車で凡そ8時間かかる。
一眠りすれば着く時間ではあるが日帰りは厳しい。
近いけど遠い、遠いけど近い、リーテンベルク侯爵領はそんな所に位置していた。
部屋で手紙を開くと、どうやらアレクサンドルは話があったようだ。
今日を逃すとゆっくり話す事ができないからと、手紙を認めてくれたらしい。
内容は主に、ある侯爵家のご令嬢に関してだった。
「はぁ、まだ諦めていなかったのかしら?」
あの議会の時、真っ先に側妃候補に名乗りを上げた侯爵家。そこのご令嬢の次の婚約者候補に、どうしてアレクサンドルを求めるのか、オリビアはこの些か不可解な手紙の内容に憤りを感じずにはいられなかった。
アレクサンドルにはオリビアがいる。
しっかり議会の承認も得ているというのに?
その手紙は、ご令嬢の戯言を信じる貴族がいて、噂になっていると教えてくれていた。
この手紙を急ぎで書いてくれたのは、おそらく三日間はアレクサンドルが自由になる時間がないことを意味している。
何故なら四日後に、公爵家のお茶会があり、オリビアはその茶席に参加することになっているからだ。
それまでここに来ることができるなら、この手紙は書かずにアレクサンドルが口頭で教えてくれただろうと思えるからだ。
きっとその茶会に件のご令嬢一派が、参加予定であるのは想像に難くない。
多勢に無勢とは言い得て妙で、オリビアが女侯爵と言えども正体不明な“噂”には太刀打ちできないときもある。
だが事前に分かっていれば対処可能なのだ、主に心の腹積もりに関してだが。
「ひょっとしてアレク様、どこかで見初められちゃったのかしら?」
ご令嬢とアレクサンドルの出会い、そんな事を思わず想像してしまったオリビアは、その不快な光景を掻き消そうと頭をブンブンと振り続けた。
◇◇◇
「オリビア、あの席のご令嬢よ。白いユリの髪飾り」
「あのディドレス」
「何を考えていらっしゃるのかしらね。若いと無鉄砲ってセット?」
「ふふっ」
今日の茶会は公爵家主催だったから、重立った参加者は、トルサー王国の高位貴族の夫人やご令嬢などで締められている。オリビアのように爵位を継承した女当主は珍しい部類になる。
そもそもが女性の継承者が珍しいのだから、分母自体が少ないのだ。今日の参加者の中では、もう一人だけだった。
主催者に挨拶に行き、当たり障りのない時候などをつらつら並べ立て、取りあえずの体裁を整えたあと、スススっと音もなく近付いてきたのは、オリビアの学園生時代からの数少ない友人だった。
オリビアは、あまり好んで友人を作らなかった。
それは自身が侯爵を継ぐことが決まっていたからに他ならない。
『学生時代の友人は、親しくしていて枷になる事が往々にしてある』
そんな父の持論をオリビアは忠実に守っていた。今思えば父ユリウスが爵位継承後に友人と何かあったのかもしれないが、そんな父の戯言を、その頃のオリビアは父寄りの思考だったから守っていたのだ。
だから友人が本当に少ない。
いま隣に来てくれたのは、ジェイド侯爵家の次女で王太子妃を姉に持つアイリスだ。
因みに彼女の婚約者はレオナールで、二人は婚姻したらジェイド侯爵家の従属爵位であるマキシ伯爵を、アイリスが継承することになっている。
レオナールはアレクサンドルとオリビアが婚姻するまで、アイリスとも婚姻しないと宣言していたが、近々籍を入れる事になっていた。
それは不埒なレオナールがアイリスを妊娠させたからだ。
先日のアレクサンドルの手紙でそれを知ったオリビアは、直ぐにアイリスに会いに行き、心からお祝いを言うと彼女は涙ぐんで抱きついてきた。
オリビアの心の傷みを我が事のように感じて、王太子妃に働きかけてくれた、友人思いの優しい女性だから、オリビアを気遣って自分からは言えずにいたのだろうと推測される。
そんなアイリスと今日は付かず離れずで一緒にいようとその時打ち合わせた。
『フィリア・ロージュ侯爵令嬢』
日に透けると金にも見える色素の薄い茶色の髪に、濃い緑の瞳はエメラルドを思わせる。
かつて、第一王子の婚約者候補だった姉を彷彿とさせる美しい顔を持つ彼女は、高位貴族の令嬢らしく背筋を伸ばし、堂々とそこに佇んでいた。
その身に纏うディドレスはアレクサンドルの瞳を思わせる、装飾されたレースも見事なブルーだった。
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