あなたならどうなさいますか?

maruko

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 それぞれの家が主催する茶会の席順は、その家の客に対しての重要度を物語っている。そこには家としての繋がりが主に反映されるはずだが、こんなふうに、偶に夫人の思惑によって決められている事がある。

 今日のオリビアの席は、五つ並べられたテーブルの、後ろから二番目だった。
 当然、前というのは主催者の席だ。
 そしてその前のテーブルにはフィリアが座っていた。

 この公爵家は王族派である。
 母の実家がメロウ伯爵家であるオリビアと、ここの当主は割と懇意にしていた。
 家の意向が反映されているなら、こんな席順はあり得ない。アイリスに至っては主催者から一番遠い席だ、王族派の公爵家が王太子妃の妹を末席に置くなど信じられない所業だった。

 オリビアは案内された席に座って直ぐに、アイリスを見ると、彼女もこちらを見て苦笑していた。

 気の毒なのは同じ席に座っているご夫人だった。オリビアと同じテーブルに案内されたのは五名。
 令嬢が二名、夫人が二名、そしてオリビアだ。

 このご令嬢方が先程からオリビアへチラチラと視線を送っている。
 どちらも伯爵家のご令嬢で王族派である。夫人の方の家はどちらも中立派だ。おそらくこの二人の出席は公爵の指示によるもので、今後の事を考えて公爵が派閥に引き入れようと、それぞれの当主を口説いてる途中だとオリビアは知っていた。

 それならばここはオリビアが、夫人たちにそれ相応の対応をしなければならない。
 そう思って話題を提供しようと口を開きかけたときだった。

「オリビア・リーテンベルク女侯爵様、どういうおつもりなのですか?恥ずかしいとはお思いになられませんか?ご自身のされていることみっともないと思わないのですか?アレクサンドル様は何れ王弟になるのですよ」

 伯爵家のご令嬢が、オリビアに鋭い眼差しを向けていた。もう一人の令嬢も同じ様な眼差しでこちらを見ている。
 予想していたのか、夫人たちは戸惑いを隠せていなかった。夫人と言っても、おそらくオリビアよりも一つか二つ下の夫人だろうと思えた。
 夫たちはそれぞれ若くして家督を継いだ。彼等を支える若夫人だ。どちらもまだ議会に出席する家ではないから、夫達の方にオリビアは面識がなかった。
 それでも公爵の思惑がわかったから、この場を和やかに会話をして、繋がりを持ち公爵の考えを後押ししたかった。

 今、王族派を王都で長年率いてくれた公爵の苦労を、二人の伯爵令嬢が潰そうとしていた。

 公爵夫人は、この二人がこの愚行を犯すことが分かっていて、この席順にしていたのだろうか?
 もし分かっていたならばとんだ悪妻と言わざるを得ない。

 以前茶会の席でオリビアは、同じ様に責められた事が何度もある。あの時はマリウスとサミルの不貞を、勝手に純愛だの真実の愛だのにすり替えて、何も知らない風を装って皆が口々にオリビアを責めた。
 オリビアが流産したことで、それをあの席で言ったご令嬢はそのまま修道院に入れられたと聞いた。だが、責めていたのはあのご令嬢だけではなかった。
 あの席で偶々オリビアが流産して、その責任をその令嬢が取っただけだ。罪で言うならばそれまでの令嬢達も同じのはずだった。

 今回も社交に慣れないご令嬢の戯言など年長者はサラリと流すべき?

 あの時周りにいた夫人が確かそう言っていた。

 だが、今回はそういうわけにはいかない。
 派閥の中で片付けるには、少々罪が重すぎることになりかねない。
 令嬢達の家を守る為オリビアは手を上げた。

 音もなく給仕の役目を担う侍女がオリビアに近寄ってくる。

「あちらのご令嬢方がご気分が悪いそうなの、別室に下がられたほうがよろしいと思うの。そう公爵夫人に伝えてくれる?」

「⋯⋯畏まりました」

「なっ!何を勝手な事を!」
「酷いわ!身分を嵩に着て!」

 大人しく下がればいいのに、令嬢達が騒ぎ出した。

 オリビアは深く息を吐く。

「リマ伯爵夫人、ゼットラン伯爵夫人。お聞き苦しくさせて申しわけありません」

 オリビアは令嬢を無視して夫人たちに詫びた。
 すると二人は顔を見合わせて、それぞれが首を横に振ってくれた。

「リーテンベルク侯爵、お気になさらずに。私達は彼女達とは同級なのです。ですが、早くに嫁ぎましたので、自分の役割は理解しております」

 オリビアは驚いた。
 四人が同級だったなんて思いもよらなかった。
 それでも夫人たちは、オリビアに対して礼節を弁えてくれていたと知り、オリビアは安堵する。

「何よ!何だって言うの?貴方達もフィリア様の辛さはわかっているでしょう?私達は手を取り合ってこの人に弁えさせなければならないはずよ」

 尚も罪を重くするご令嬢だが、ここまで声を荒げれば、オリビアには如何することも出来なくなった。他の列席者もこちらに注目している。せめて同じ派閥の者たちだけなら良かったが、この会は途中顔出しで、公爵が参加する予定でもあった。

 だからこそオリビアとアイリスは参加する事にしたのだ。

 公爵夫人だけの主催なら丁重に断っていた。

 段々オリビアを罵る言葉が大きく酷くなって来た。

「身の程をしれ」
 (フッ)
「ツンとすまして可愛げがない」
 (大きなお世話だ)
「女侯爵がそんなに偉いの?」
 (偉いのよ、少なくとも今の貴方達よりも)
「石女のくせに」
 (⋯⋯)

 心の中でいちいち反論しながら、オリビアは耐えた。
 どうやら公爵夫人はこの場を収束する気がないようだった。
 いいのだろうか?
 もうすぐ公爵が来るのではないの?
 それとも公爵は参加を夫人に伝えていないの?

 オリビアが黙っている事を幸いに思ったのか、ご令嬢方は自分達が知り得る汚い言葉を投げ付けてくる。

 この令嬢たちが言っていたフィリア様は、彼女達を助ける気はないのだろうか?

 こんな騒ぎなど握り潰せるつもりでいるのだろうか?

 先程からアイリスが、立ち上がってこちらに来ようとするのを、オリビアは手で制しながら時が来るのを待っていた。

 そしてとうとうその時が来た。

「こっこれは一体。何をしてるんだ!!」

 壁紙はアイボリー、床は大理石。
 壁には有名画家の大作が飾られている。
 置かれた彫刻も、飾られた花も参加者の目を和ませるには充分に役目を果たしている。
 少し広めの会場には大きなテーブルが五つ。
 白いテーブルクロスに映えるような陶器のティーセット。
 そこには香りも口当たりも良いお茶が、公爵家の優秀な侍女たちによって淹れられていた。
ティースタンドには、美味しそうな茶菓子とケーキが並んでいる。

 そんな格調高く、品のあるおもてなしをハリボテしたサロンに、公爵の怒声が響きわたった。





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