あなたならどうなさいますか?

maruko

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「こ、これは一体、何をしているんだ!!」

 セスカ公爵ディビットは、発した言葉は怒りだったが内心は非常に焦っていた。
 (これは⋯どうすれば正解か?)
 本当は正解は分かっている。
 分かっていはいるが、それは長年連れ添った妻と可愛い娘を切り捨てる行為なのだ。ここに来て妻子を甘やかしたツケが回ってきた。
 こんなに愚かだったとは⋯ディビットは心で葛藤しながらも先ずは、と口を両手で押えてる伯爵令嬢へと目を向けた。

 セスカ公爵家は五代前の王弟が興した公爵家だ。元の血の流れは王家であるから当然王族派である。

 最近貴族派が調子に乗ってきた事もあって、ここらで一度粛清でもしなければならないなと思ってる矢先に、王族派の一画リーテンベルク侯爵家で騒動が起こった。
 これ自体は本来なら騒動でも何でもなかった。
 内々の話だし、離縁すれば問題ない。オリビアが傷つく事をあまり考えないディビットだったが、噂にならなければそれで良かった。
 だが、これこそ貴族派が、これ幸いと噂を大げさにバラ撒いて王族派を牽制した結果だった。

 だからこそ、それ以降は王族派は一枚岩になって邁進しなければならないと、世代の代わる伯爵家、侯爵家の若き当主達を取り込もうとしていた。
 その後押しを、先日王都まで来られたメロウ伯爵にもしてもらったし、自身の働きを労ってももらった。

 その苦労が妻子の浅慮で今崩れそうなのだ!

 ディビットはツカツカと足音も荒くそのテーブルへと近付いた。
 よりによって令嬢達の罵声を浴びているのが、リーテンベルク侯爵オリビア。

 (そもそもどうして侯爵がこの席なのだ?)

 もう何も考えたくないと思考が閉じるのを、辛うじて防ぎ、ディビットはオリビアに軽く一礼した。

「君達は自分たちがどれほどみっともない事をしているかわかっているのか?」

 ディビットの睨みに令嬢二人はガタガタと震えている。片方の令嬢が前のテーブルに縋るように振り向こうとした時、愚かな令嬢がまた一人声を上げた。

「お父様!エリンもマリアも悪くないわ!侯爵の非道な振る舞い「黙れ!」を」

 ここに来てディビットの娘ミルチェルまでが、愚か者の仲間に名乗りを上げてしまった。地を這う様な低い声がサロンに響く。
 誰も自体を収束出来ない空気の中、立ち上がったのはアイリスだった。

「セスカ公爵、それ以上はお止めください」

「⋯ジェイド侯爵令嬢⋯貴方が何故そこに?」

 後ろから声をかけられて、その事にも憤慨して振り向いたディビットの目に映ったのは、王太子妃殿下の妹であるアイリス。
 王族派のお茶会で彼女が末席にいる事を知り、あり得ない自体に思わず“何故”と発してしまった。

「セスカ公爵、別室でよろしいかと」

 座ったままのオリビアに補足され、ディビットはそこでやっと我に返った。
 端に控える使用人達を見回し目線で指示を出し、令嬢二人を連れ出した。

 そして自分の席を令嬢二人が座っていた席に、新たに作らせた。

「ジェイド侯爵令嬢、よろしかったらあちらへ」

 アイリスの座るテーブルへと自ら赴き、彼女に手を差し出して誘った。

「ありがとうございます公爵」

 淑女の微笑みで、差し出されたディビットの手に自分の手を添えてアイリスは立ち上がる。
 ディビットはオリビアの隣にアイリスを導いた。

 ディビットが、リマ伯爵夫人とオリビアの間に座るとそそくさと侍女が二人やってきて、テーブルのお茶を注いだ。

 途端に話術に長けたセスカ公爵が中心となって、前から四つ目のテーブルがサロンの主役になった。

 一番前のテーブルでは主催者の公爵夫人が、青い顔のまま言葉もなく呆然としていた。
 結婚してから夫にここまで無視された経験がなく、どうしていいかわからなかったのだ。
 娘のミルチェルは父に怒鳴られたことがなかった。先程の声に怯えて震えていた。
 役に立たない二人をチラリとだけ見て、元凶のフィリアは何事もなかったように表向きは澄ましていた。

 そのうち他のテーブルも何もなかったように、お茶会は進み、公爵が現れてから一時間ほどで参加者は皆帰路につくことになった。

 帰り際の馬車、何故か態々見送りに来たディビットにフィリアは振り返り尋ねる。

「ご令嬢方はどうなるのですか?」

「⋯ロージュ侯爵令嬢、貴方の気にする事では御座いません」

 公爵のその冷たい声の響きにフィリアは馬車に乗ったあと震えた。
 間違いなく自分が扇動したと思われている。その事にどうしていいか分からない。

 フィリアは今年学園を卒業したばかりの18歳。
 2年ほど前から、父であるロージュ侯爵に、王族に嫁ぐのだと言われていた。
 ただ王族とだけ言われていた為、単純にアレクサンドルに嫁ぐのだとフィリアは思い込んでいた。
 何故なら王太子妃の競争に、実姉が敗れているのだ。それなのに格下になる側妃に自分が充てがわれる事はないと思っていた。
 よっぽど王太子がフィリアを見初めたのでなければ、絶対に嫁ぐ事はないし、フィリアも二番手なんて絶対に嫌だった。

 だから王太子妃が次の子を授かるまで、自分はのんびり王子妃教育でも受けるのだろうと思っていた。
 周りは皆、卒業するとそれまで婚約者だった者と婚姻していく。
 卒業してからは、婚約者のいなかった令嬢だけが、フィリアの周りに侍っていた。

 学園生の時から、濁しながらも王族に嫁ぐ様な匂わせをフィリアはしていた為、周りの令嬢達もそのつもりで、何れ王弟妃になるフィリアに侍っていたのだ。

 卒業後は当然お茶会の様相も変わる。
 今までは、フィリアに対して礼節を以て参加していた同級生が、夫人や若夫人に変化した。
 ただの侯爵令嬢のフィリアとは、一線を引いて接してくるようになり、寂しくもあり腹立たしい気持ちもあった。

 (早く、決定してくれないかしら?いくら次の子の誕生が遅くても婚約くらいはできるのではないのかしら?)

 フィリアは焦れていつの日かそう思うようになっていた。

 そんな時にアレクサンドルとオリビアの婚約が発表された。

 その発表を聞いたフィリアは、有り得ないと思った。





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