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「はぁ~~」
公爵家にはそれぞれの馬車でやってきていたが、このまま帰れないアイリスが、オリビアの馬車に同乗した。ジェイド侯爵家の馬車は後ろから馭者と共に付いて来ていた。
馬車に乗り込んだ途端、大きな溜息を吐いたのはアイリスだった。
「あの家のお茶会には先代の時に参加して以来だったから、あそこまで落ちてるとは思わなかったわ」
「そうね、驚いたわ」
アイリスの言葉にオリビアも同意した。
二人の母達は、同年代だった。だからこそ貴族家のお茶会の“格”は共有していた。
リーシャがいつしかセスカ公爵家のお茶会には出席していないと、リバーに初めて聞かされたのは、オリビアが爵位を継承した後だった。
理由は“格”が落ちたからだと聞かされ、オリビアも公爵家の茶会には多忙を理由に出席していない。
今回出席したのは、招待状をディビットから直接渡されたからだ。
そしてその際に、伯爵夫人二名の参加を聞かされた。
彼の妻が夫の意向を考慮したのは、夫人二人とオリビアの席を一緒にしたことくらいだろう。
どれだけ妻を信じていたのか、オリビアはディビットに同情してしまう。
「同情の予知なしよオリビア」
オリビアの心の中を見透かしたように、アイリスがオリビアに釘を刺す。
「ふふっアイリスって。相変わらずね」
この友人はオリビアをいつも楽しませてくれる。そして慮ってくれる。
彼女の性格なら、この一件でディビットを切ろうとするだろう。だが、それは違うとオリビアは言わなければならない。
「アイリス、人は失敗するわ。公爵の今後の対処を見て決めましょう」
失敗の度に切り捨てていたら、この国に貴族は一人もいなくなる。自分たちは王族ではないのだから、その後の対処を見てからでも、切り捨てるのは遅くない。
しかも今日の彼の失敗はすでにオリビアとアイリスで修復してしまっている。
切り捨てるのは今更なのだ。
まだ、アイリスは当主ではないから、おそらく潔癖なのだとオリビアは理解している。
かつてのオリビアなら、彼女と同じ様に思っていただろう。
オリビアは、アイリスに当主の考えを告げる。
「そうなのね。私もまだまだね。妃殿下にも先日頭が堅いと苦言を言われたの」
アイリスが自分の先程の行動を反省しているのを見て、オリビアはフルフルと首を横に振った。
「あの場を辞したのは別にいいと思うわ。私も一体いつになったら謝罪してもらえるのかと、痺れを切らしていたもの。ただそれだけで彼は切り捨てない。私達は謝罪を受け取ったはずでしょ」
「えぇ理解する努力をするわ。でも奥様をどうされるのかしらね」
「⋯⋯」
アイリスの投げかけにはオリビアは答えられなかった。
何故なら話してる途中でリーテンベルク侯爵家に到着したからだ。そして当然その流れで、アイリスはリーテンベルク侯爵家に寄るつもりだった。アイリスの馭者が途中から先に回って、すでにリバーへと伝えているはずだった。
だが、リバーはそれどころではなかった。
全く面識もない、先触れなしの先客がいたからだった。
◇◇◇
アイリスが、オリビアを心配して同席すると言って聞かなかったが、それは丁重に断った。無駄に圧を与えるつもりはなかったからだ。
それでもアイリスは、自分が帰るのは納得行かないと、オリビアの部屋で待つことになった。
オリビアは、ディドレスを一度整えて、客人の待つ応接室の扉を開いた。
オリビアが入って来たにもかかわらず、彼女は立ち上がらなかった。
それを察したのは彼女の侍女で「ん」と一つ咳払いをしていた。
そうして彼女は我に返ったのか、慌てて立ち上がりオリビアに頭を下げている。
目の前で少し肩を震わせて頭を下げているのは、フィリア・ロージュ侯爵令嬢だった。
彼女の衣装は変わっていない為、セスカ公爵家からまっすぐこちらに来たのだと思えた。
何が彼女をそこまで駆り立てたのだろうか?
オリビアは頭を上げるように伝える。
目が合った。
体は少し震えているが、オリビアを見つめる瞳には力が籠っていた。
眩しく、怖いもの知らずのその瞳が、オリビアにはとても懐かしく映る。
「フィリア・ロージュです。リーテンベルク侯爵とお話しさせて頂きたく参りました」
「そう。どうぞ座って」
オリビアは手でソファを指しながら、自分もフィリアの対面に座った。
本当なら彼女を即刻追い出して、ロージュ侯爵家に抗議をしても良かったが、オリビアは彼女の話を聞いてみたいと思った。
先程、伯爵令嬢達が言っていた事が、引っかかっていたからだ。
『フィリア様はずっと王家に嫁ぐと仰っていました』
自身が信じていたものが、根底から崩れる気持ちはオリビアには痛いほど分かる。
だからかもしれない。
聞いてどうこうしようとは思っていなかったが、彼女の心を聞いてみたかった。
「それで、お話とは?」
「はい、リーテンベルク侯爵。貴方なら、貴方が私の立場なら⋯」
「⋯⋯⋯?」
声を震わせながらフィリアが話し始めたが、彼女は息をのんで言葉が紡げなかったようだった。オリビアは彼女の次の言葉が分からず、また何を言いたいのか不思議に思いながらも、辛抱強く待った。
どれくらい静寂が続いたのか、オリビアには分からない。ひょっとしたらそんなに時間は経っていないかもしれない。
対面に見えるフィリアの膝の手が拳を作っていた。その腕の白さと握る拳の赤味が、彼女の若さを強調しているように見える。
「貴方が私の立場なら⋯貴方ならどうなさいますか?」
意を決したようにそう言ったフィリアが、こちらをまっすぐ見つめる瞳に、ありったけの力を込めているようにオリビアには見えた。
公爵家にはそれぞれの馬車でやってきていたが、このまま帰れないアイリスが、オリビアの馬車に同乗した。ジェイド侯爵家の馬車は後ろから馭者と共に付いて来ていた。
馬車に乗り込んだ途端、大きな溜息を吐いたのはアイリスだった。
「あの家のお茶会には先代の時に参加して以来だったから、あそこまで落ちてるとは思わなかったわ」
「そうね、驚いたわ」
アイリスの言葉にオリビアも同意した。
二人の母達は、同年代だった。だからこそ貴族家のお茶会の“格”は共有していた。
リーシャがいつしかセスカ公爵家のお茶会には出席していないと、リバーに初めて聞かされたのは、オリビアが爵位を継承した後だった。
理由は“格”が落ちたからだと聞かされ、オリビアも公爵家の茶会には多忙を理由に出席していない。
今回出席したのは、招待状をディビットから直接渡されたからだ。
そしてその際に、伯爵夫人二名の参加を聞かされた。
彼の妻が夫の意向を考慮したのは、夫人二人とオリビアの席を一緒にしたことくらいだろう。
どれだけ妻を信じていたのか、オリビアはディビットに同情してしまう。
「同情の予知なしよオリビア」
オリビアの心の中を見透かしたように、アイリスがオリビアに釘を刺す。
「ふふっアイリスって。相変わらずね」
この友人はオリビアをいつも楽しませてくれる。そして慮ってくれる。
彼女の性格なら、この一件でディビットを切ろうとするだろう。だが、それは違うとオリビアは言わなければならない。
「アイリス、人は失敗するわ。公爵の今後の対処を見て決めましょう」
失敗の度に切り捨てていたら、この国に貴族は一人もいなくなる。自分たちは王族ではないのだから、その後の対処を見てからでも、切り捨てるのは遅くない。
しかも今日の彼の失敗はすでにオリビアとアイリスで修復してしまっている。
切り捨てるのは今更なのだ。
まだ、アイリスは当主ではないから、おそらく潔癖なのだとオリビアは理解している。
かつてのオリビアなら、彼女と同じ様に思っていただろう。
オリビアは、アイリスに当主の考えを告げる。
「そうなのね。私もまだまだね。妃殿下にも先日頭が堅いと苦言を言われたの」
アイリスが自分の先程の行動を反省しているのを見て、オリビアはフルフルと首を横に振った。
「あの場を辞したのは別にいいと思うわ。私も一体いつになったら謝罪してもらえるのかと、痺れを切らしていたもの。ただそれだけで彼は切り捨てない。私達は謝罪を受け取ったはずでしょ」
「えぇ理解する努力をするわ。でも奥様をどうされるのかしらね」
「⋯⋯」
アイリスの投げかけにはオリビアは答えられなかった。
何故なら話してる途中でリーテンベルク侯爵家に到着したからだ。そして当然その流れで、アイリスはリーテンベルク侯爵家に寄るつもりだった。アイリスの馭者が途中から先に回って、すでにリバーへと伝えているはずだった。
だが、リバーはそれどころではなかった。
全く面識もない、先触れなしの先客がいたからだった。
◇◇◇
アイリスが、オリビアを心配して同席すると言って聞かなかったが、それは丁重に断った。無駄に圧を与えるつもりはなかったからだ。
それでもアイリスは、自分が帰るのは納得行かないと、オリビアの部屋で待つことになった。
オリビアは、ディドレスを一度整えて、客人の待つ応接室の扉を開いた。
オリビアが入って来たにもかかわらず、彼女は立ち上がらなかった。
それを察したのは彼女の侍女で「ん」と一つ咳払いをしていた。
そうして彼女は我に返ったのか、慌てて立ち上がりオリビアに頭を下げている。
目の前で少し肩を震わせて頭を下げているのは、フィリア・ロージュ侯爵令嬢だった。
彼女の衣装は変わっていない為、セスカ公爵家からまっすぐこちらに来たのだと思えた。
何が彼女をそこまで駆り立てたのだろうか?
オリビアは頭を上げるように伝える。
目が合った。
体は少し震えているが、オリビアを見つめる瞳には力が籠っていた。
眩しく、怖いもの知らずのその瞳が、オリビアにはとても懐かしく映る。
「フィリア・ロージュです。リーテンベルク侯爵とお話しさせて頂きたく参りました」
「そう。どうぞ座って」
オリビアは手でソファを指しながら、自分もフィリアの対面に座った。
本当なら彼女を即刻追い出して、ロージュ侯爵家に抗議をしても良かったが、オリビアは彼女の話を聞いてみたいと思った。
先程、伯爵令嬢達が言っていた事が、引っかかっていたからだ。
『フィリア様はずっと王家に嫁ぐと仰っていました』
自身が信じていたものが、根底から崩れる気持ちはオリビアには痛いほど分かる。
だからかもしれない。
聞いてどうこうしようとは思っていなかったが、彼女の心を聞いてみたかった。
「それで、お話とは?」
「はい、リーテンベルク侯爵。貴方なら、貴方が私の立場なら⋯」
「⋯⋯⋯?」
声を震わせながらフィリアが話し始めたが、彼女は息をのんで言葉が紡げなかったようだった。オリビアは彼女の次の言葉が分からず、また何を言いたいのか不思議に思いながらも、辛抱強く待った。
どれくらい静寂が続いたのか、オリビアには分からない。ひょっとしたらそんなに時間は経っていないかもしれない。
対面に見えるフィリアの膝の手が拳を作っていた。その腕の白さと握る拳の赤味が、彼女の若さを強調しているように見える。
「貴方が私の立場なら⋯貴方ならどうなさいますか?」
意を決したようにそう言ったフィリアが、こちらをまっすぐ見つめる瞳に、ありったけの力を込めているようにオリビアには見えた。
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