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「私は2年待ちました」
オリビアが返答する前にフィリアが話しだした。オリビアは黙って彼女の話を聞こうと思った。
「アレクサンドル様と婚姻すると決められて、ずっと待っていたのです。ですが王太子妃様には第二子の兆しがなく。あとどれくらい待つのかといつになるのか分からない時を只管待っていたのに⋯アレクサンドル様の婚約者がリーテンベルク侯爵に決まったと発表されて。私の気持ちがわかりますか?貴方は一度婚姻されそして離婚しています。貴方のお茶会での不幸も耳にしました。両親は一度流産すると次のお子は難しいと言いました。それなのにどうしてアレクサンドル様のお相手が貴方なのですか?貴方だから王弟にもかかわらず婿入りするのですよね?アレクサンドル様を解放して差し上げるのが、貴方の真心でありそれを導くのが私の務めだと思いました。ですが、彼女達を私は先導したつもりはありません。貴方がどんなに可哀想でも身の程を知ってほしかっただけです。貴方が私の立場なら同じ事をされると思いませんか?」
「はぁー」
フィリアの勝手な持論を聞いてオリビアは、思い切りよく息を吐いた。
勘違いからの思い込み、若い令嬢の得意技だ。かつてはきっとオリビアもそうだったと思い出される。たった四つ五つしか違わないが、貴族としての矜持が変わると覚悟も変わるのだ。フィリアにはまだ覚悟が備わっていなかった。でもそれも仕方がないことでもあった。彼女はまだ令嬢なのだから。
「ロージュ侯爵令嬢、フィリア嬢と呼ばせていただきますわね」
一応断りを入れたが、オリビアのその物言いは有無を言わさぬほど強いもので、ただの侯爵令嬢のフィリアが怯むには充分だった。
「先ず貴方は、ロージュ侯爵ときちんと話す必要がありましたわ」
「えっ?」
「貴方のお相手はおそらく侯爵にとって、何方でもよろしかったのかと思われますわ。不敬ですし、フィリア嬢には酷な事ですけれど」
オリビアは令嬢相手にどこまで言えばいいかと思案したが、彼女は既に学園も卒業している成人済みなのだ。同級生はすでに他家に嫁ぎ若夫人として家政の差配に携わる人もいる。
それに誤魔化しても彼女は納得しないと思った。だから全て詳らかに話す事を選択した。
その上で彼女の問いに返答しようと思った。
彼女には嫌な時間になるだろう、だが、先触れなしの無礼な訪問は既に愚行と言わざるを得ない。少しは辛い思いもしてもらおうと考えた。
「私とアレクサンドル第三王子の婚約を議会の承認を得た日。他にも話題になった議案がありました」
「⋯⋯侯爵は出席を?」
「えぇ私はリーテンベルク侯爵ですから。当然出席しております。王国の議会に一票を頂戴しておりますわ」
オリビアの毅然とした態度にフィリアは圧倒された。彼女が議会に参加資格があると何故か思っていなかったのだ。それだけフィリアはオリビアを侮っていたことになる。
「その⋯他の議題とは⋯」
「王太子殿下の側妃の件でした」
「っ!」
「そしてそれに真っ先に名乗りを上げたのはロージュ侯爵でしたわ。却下されましたけれど」
「えっ?私ではだめという事ですか?」
フィリアはプライドが刺激された、思わず腹立たしくて少し険の有る言い方になった。
だがオリビアはフルフルと頭を振った。
「近々の話だけすれば、ややこしくなりますわね。お覚悟してくださいね。おそらく貴方に2年前侯爵がお話しをされたのは、貴方のお姉様が断られたからなのですわ」
「えっ?」
「丁度2年前に侯爵から王家に、アレクサンドル様と貴方のお姉様のご縁談の打診を内々に受けました。王家は即座にお断り致しております」
「⋯何故ですか?」
「王子の婚姻は全て議会を通さなければなりません。とうの王子殿下が望む以外は全て議会で候補者を数人決定してからのお話になるのです。そこから絞られます」
「そうだったのですね。ですが!それではどうしてオリビア様は?それにどうして父は私に」
「貴方はきっと今とても混乱しているでしょうね。ですが、根本から、貴方が選ばれる事はなかったと思います。私が婚約者にならなくても」
「は?」
フィリアは信じられないという顔でオリビアを見つめている。その瞳は先程とはだいぶ違って、そこには迷いが映って見えた。
きっと彼女にとって、父親が絶対的に信じる存在だったのだとオリビアは思った。かつてオリビアもそうだったからその気持ちはよく分かる。
ロージュ侯爵の行いが娘に返ってきたのだと、このご令嬢は理解できるのだろうか?
「昔話を少ししますね」
そう言ってオリビアはフィリアに話した。
オリビアがまだ学園生の頃、アレクサンドルとの婚約が持ち上がったこと。その時に強固に反対したのは二つの高位貴族家だったこと。
その一つがロージュ侯爵だったこと。
その時に婚約が結ばれていたならば、第二王子が次期辺境伯として、臣籍降下してもオリビアはアレクサンドルと婚姻できたこと。
それなのに、侯爵はアレクサンドルの相手に王太子妃争いに敗れた娘を打診するという不敬を犯した事。
そして月日が流れ、今回はアレクサンドルとオリビアの件を反対するのは分が悪いと感じて、王太子の側妃にフィリアを推した事。
全てを話すとフィリアは放心していた。
「ねぇフィリア嬢。私はかつて貴方のお父様に縁談を議会という場で潰されましたの、それについては縁がなかったと思えますし、まぁそうでも思わなければならないと思います。ですが私も色々と経験致しました。そして今回有難くもアレクサンドル様からお話しを頂き、議会も承認してくださったのです。その上で貴方方ご令嬢は私に分をわきまえろと申しますの。それでは私はどうすればよろしいのかしら?貴方方の稚拙な考えの戯言に耳を傾けねばなりませんか?ロージュ侯爵令嬢、貴方ならどうなさいますか?」
フィリアは握った拳を開いて自分の両の掌を見つめた。父親の野望に踊らされていた事に漸く気付いた。
そしてその為に、自分はともかく二人の令嬢の未来を潰したのだと恐ろしくなった。
オリビアが返答する前にフィリアが話しだした。オリビアは黙って彼女の話を聞こうと思った。
「アレクサンドル様と婚姻すると決められて、ずっと待っていたのです。ですが王太子妃様には第二子の兆しがなく。あとどれくらい待つのかといつになるのか分からない時を只管待っていたのに⋯アレクサンドル様の婚約者がリーテンベルク侯爵に決まったと発表されて。私の気持ちがわかりますか?貴方は一度婚姻されそして離婚しています。貴方のお茶会での不幸も耳にしました。両親は一度流産すると次のお子は難しいと言いました。それなのにどうしてアレクサンドル様のお相手が貴方なのですか?貴方だから王弟にもかかわらず婿入りするのですよね?アレクサンドル様を解放して差し上げるのが、貴方の真心でありそれを導くのが私の務めだと思いました。ですが、彼女達を私は先導したつもりはありません。貴方がどんなに可哀想でも身の程を知ってほしかっただけです。貴方が私の立場なら同じ事をされると思いませんか?」
「はぁー」
フィリアの勝手な持論を聞いてオリビアは、思い切りよく息を吐いた。
勘違いからの思い込み、若い令嬢の得意技だ。かつてはきっとオリビアもそうだったと思い出される。たった四つ五つしか違わないが、貴族としての矜持が変わると覚悟も変わるのだ。フィリアにはまだ覚悟が備わっていなかった。でもそれも仕方がないことでもあった。彼女はまだ令嬢なのだから。
「ロージュ侯爵令嬢、フィリア嬢と呼ばせていただきますわね」
一応断りを入れたが、オリビアのその物言いは有無を言わさぬほど強いもので、ただの侯爵令嬢のフィリアが怯むには充分だった。
「先ず貴方は、ロージュ侯爵ときちんと話す必要がありましたわ」
「えっ?」
「貴方のお相手はおそらく侯爵にとって、何方でもよろしかったのかと思われますわ。不敬ですし、フィリア嬢には酷な事ですけれど」
オリビアは令嬢相手にどこまで言えばいいかと思案したが、彼女は既に学園も卒業している成人済みなのだ。同級生はすでに他家に嫁ぎ若夫人として家政の差配に携わる人もいる。
それに誤魔化しても彼女は納得しないと思った。だから全て詳らかに話す事を選択した。
その上で彼女の問いに返答しようと思った。
彼女には嫌な時間になるだろう、だが、先触れなしの無礼な訪問は既に愚行と言わざるを得ない。少しは辛い思いもしてもらおうと考えた。
「私とアレクサンドル第三王子の婚約を議会の承認を得た日。他にも話題になった議案がありました」
「⋯⋯侯爵は出席を?」
「えぇ私はリーテンベルク侯爵ですから。当然出席しております。王国の議会に一票を頂戴しておりますわ」
オリビアの毅然とした態度にフィリアは圧倒された。彼女が議会に参加資格があると何故か思っていなかったのだ。それだけフィリアはオリビアを侮っていたことになる。
「その⋯他の議題とは⋯」
「王太子殿下の側妃の件でした」
「っ!」
「そしてそれに真っ先に名乗りを上げたのはロージュ侯爵でしたわ。却下されましたけれど」
「えっ?私ではだめという事ですか?」
フィリアはプライドが刺激された、思わず腹立たしくて少し険の有る言い方になった。
だがオリビアはフルフルと頭を振った。
「近々の話だけすれば、ややこしくなりますわね。お覚悟してくださいね。おそらく貴方に2年前侯爵がお話しをされたのは、貴方のお姉様が断られたからなのですわ」
「えっ?」
「丁度2年前に侯爵から王家に、アレクサンドル様と貴方のお姉様のご縁談の打診を内々に受けました。王家は即座にお断り致しております」
「⋯何故ですか?」
「王子の婚姻は全て議会を通さなければなりません。とうの王子殿下が望む以外は全て議会で候補者を数人決定してからのお話になるのです。そこから絞られます」
「そうだったのですね。ですが!それではどうしてオリビア様は?それにどうして父は私に」
「貴方はきっと今とても混乱しているでしょうね。ですが、根本から、貴方が選ばれる事はなかったと思います。私が婚約者にならなくても」
「は?」
フィリアは信じられないという顔でオリビアを見つめている。その瞳は先程とはだいぶ違って、そこには迷いが映って見えた。
きっと彼女にとって、父親が絶対的に信じる存在だったのだとオリビアは思った。かつてオリビアもそうだったからその気持ちはよく分かる。
ロージュ侯爵の行いが娘に返ってきたのだと、このご令嬢は理解できるのだろうか?
「昔話を少ししますね」
そう言ってオリビアはフィリアに話した。
オリビアがまだ学園生の頃、アレクサンドルとの婚約が持ち上がったこと。その時に強固に反対したのは二つの高位貴族家だったこと。
その一つがロージュ侯爵だったこと。
その時に婚約が結ばれていたならば、第二王子が次期辺境伯として、臣籍降下してもオリビアはアレクサンドルと婚姻できたこと。
それなのに、侯爵はアレクサンドルの相手に王太子妃争いに敗れた娘を打診するという不敬を犯した事。
そして月日が流れ、今回はアレクサンドルとオリビアの件を反対するのは分が悪いと感じて、王太子の側妃にフィリアを推した事。
全てを話すとフィリアは放心していた。
「ねぇフィリア嬢。私はかつて貴方のお父様に縁談を議会という場で潰されましたの、それについては縁がなかったと思えますし、まぁそうでも思わなければならないと思います。ですが私も色々と経験致しました。そして今回有難くもアレクサンドル様からお話しを頂き、議会も承認してくださったのです。その上で貴方方ご令嬢は私に分をわきまえろと申しますの。それでは私はどうすればよろしいのかしら?貴方方の稚拙な考えの戯言に耳を傾けねばなりませんか?ロージュ侯爵令嬢、貴方ならどうなさいますか?」
フィリアは握った拳を開いて自分の両の掌を見つめた。父親の野望に踊らされていた事に漸く気付いた。
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