あなたならどうなさいますか?

maruko

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 リーシャとシュゼットが護衛の手を借りて馬車を降りたのは、王都の割と中央に位置するアパルトマンの前だった。

「ここの3階みたいね」

 リーシャの声は、どことなく物悲しくシュゼットには聞こえた。
 学園生の時、瞳を輝かせて婚約者の自慢をしていたリーシャ。あの頃はこんな事になるなんて思いもよらなかった。

 ボタンのかけ違いのようなすれ違いではなく、明確な誰かの悪意によって引き裂かれてしまった二人。
 それでもリーシャは19年耐えた。
 ユリウスの所業は極刑に値するとシュゼットは思っていた。
 なんなら付いてきている護衛に斬らせても良いのでは?それくらいシュゼットも怒っていた。

 少し広く作られた階段を昇る。
 この国の物価は知らないが、ここが平民でも富裕層が住むアパルトマンなのは明確だった。
 彼は自分を死んだことにして、名を変えこの国に移り住んでいる。
 本来なら人目を忍んで暮らすはずの彼が、堂々とこの国に財産を落としている。
 婚姻中にリーテンベルクの財産を一体幾らプールしていたのだろうか?
 まぁ元は彼の受け継いだ財産でもある、だからこそリーシャは文句が言えなかった。

 階段を一段一段昇るたびに、シュゼットの血も怒りとともに昇っていった。
 前を行くリーシャの背を見つめる。
 その背はピンと伸びて、いつもの淑女のリーシャに見える。
 彼女の心にどれだけの怒りが詰まっているのか、シュゼットには測りきれなかった。

 扉の前でリーシャの肩が大きく上下した。
 彼女が深呼吸したのだろう。

 ─トントン─

 護衛騎士が扉をノックする。
 声は聞こえないけれど中に人の気配はしていた。やがて、扉一枚向こうに居る人物が声を出す。

「何方?」

「ナトウ家の使いの者です」

「えっ?」

 扉がそっと開き、女がこちらを伺い見る。
 彼女の開き方だとリーシャまでは視界に入らない。

「ユーリが何か頼んだのかしら?私何も聞いていないのだけど」

 ミルチアがそういった途端、護衛騎士が扉に手を掛けた。扉が全開した為に、ミルチアの視界に漸くリーシャが入る。

「ごきげんようミルチア。いえ今の名は⋯ごめんなさいね、覚えていないわ。ふふっ」

 引き攣った顔のミルチアに不敵な笑いでリーシャは挨拶をした、


 ◇◇◇


 家の中に強引に入ると、入ってすぐの部屋に通された。扉を開けたまま部屋のソファに座り、ユリウスが帰ってくるまで待つことを彼女に告げる。意外にも使用人を雇っている事に、リーシャは驚いた。
 だが、出されたお茶など飲む気にはなれない。
 それにしても⋯。

 (何故彼女は自分で扉を開けたのかしら?)

 リーシャは護衛が手渡した水筒のお茶を飲みながら、疑問とともに部屋をぐるりと観察する。
 彼らの身分は平民だが、その部屋の調度品は貴族の部屋とあまり変わらないほど、豪華な物で揃えてあった。

「な、なんの御用?」

 目の前のミルチアは以前と違って、リーシャに対してかなり下手に出ようとしていた。
 最後に会った時、彼女は腕と足を組みながらソファに踏ん反り返っていたのに、その違いにリーシャはフッと嘲笑が込み上げた。

「ユリウス、いえ今はユーリだったかしら?彼が帰ってきてから話すわ」

「きょ、今日は帰らないかもしれないわ」

「ふふっ」

「な、何がおかしいの!」

 怪訝な顔をしながらも彼女の顔は怒りで真っ赤だ。

「彼は⋯もうここには来ないわよ」

「⋯⋯⋯えっ?」

 ミルチアの怪訝な瞳が恐怖に変わってゆく。

 数日前、メロウ伯爵からやっと捕縛できたと、リーシャの旅先に早馬がやってきていた。
 長くリーテンベルク家に災いを齎していたあの男が、とうとう捕まったのだと。
 彼の運の付きはオリビアにまで、関わったことだろう。

「今日約束していたのね。あぁ違うわね。月か曜日か、そんなところかしら?」

「あっ、あ、」

 ミルチアが恐怖に顔を歪め、そしてその顔は蒼白だった。
 ミルチアは知ったのだ、リーシャが何をしに来たのかを。
 足元が泥濘に嵌ってゆくようにズブズブと音が聞こえるような気がした。だが彼女が泥濘に嵌ったのは、おそらくその男に出会った時であっただろうとリーシャは考えている。

 顔を両手で覆うミルチアを暫く眺めていたら、使いの者から連絡を受けたのだろう、とうとうユリウスが帰ってきたようだった。
 この部屋は玄関に最も近い場所だから、すぐに気がついた。

 荒々しくこの部屋の扉を開けたのは、3年前、いやもうすぐ4年前だ。
 領地のカントリーハウスで別れた元夫ユリウスだった。


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