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第一章 公爵夫人になりました
愛するつもりはないそうです
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「私は君を愛するつもりはない」
んっ、このセリフは知っております。
弟のアンディが、よくキャンベラに言っておりました。
3歳下の弟は私と同じくキャンベラにイジメを受けておりましたが、私同様母の血を受け継いでおりますので魔法で返り討ちにしてましたの。
ただキャンベラは不屈の精神を持っているのか、かなり執拗いのです。
それに辟易していた弟が、侍女が持っていた最近流行りの小説のセリフを揶揄いながらキャンベラに放っておりました。
これはアレと同じ類のものでしょうか?
でも私旦那様をイジメておりませんが⋯⋯。
「これは契約結婚だ」
あらっ、これは知りません。
契約ですか、政略ではないのでしょうか?
そう父からは聞き及んでおりましたが、少し齟齬がありそうですね。
「聞いているのか?」
「ハイ。聞いております、
契約というのであれば、私は何をどうすればよろしいのでしょうか?」
「ついて来てくれ」
この邸に着いてから真っ直ぐ此処に連れてこられて⋯⋯。
お茶も出して頂けないのでしょうか?
有無を言わせない旦那様の後を不機嫌オーラ出しまくりでダラダラついて行きます。
私の後ろには執事でしょうか?まだ自己紹介もして頂いておりませんが⋯⋯。
この待遇に些かカチンと来てしまい、角を曲がる直前に立ち止まりバッと振り向き壁を背に身構えました。
すると前を行く旦那様も、後ろの誰かさんもギョッとして二人で顔を見合わせると旦那様が私に問いかけます。
「アディル嬢、急にどうしたのだ。
おとなしくついて来てくれないとびっくりするだろう」
やっとこちらに向き合う形になった旦那様をキリッと睨みつけ思いの丈を伝えました。
「びっくりするとは⋯⋯。旦那様がですか?
それは異な事ですわね、その台詞は私が言いたいですわ。
私の顔を見ようともしない、いえ馬車の中では下を向けと仰いましたね。
やっと着いた邸では休む間もなく応接室でしょうか?案内され、お茶の一つも出さずに勝手な物言いでついて来い。
挙句に知らない者が後ろを付いてくる。
これはどういう事でしょう?契約だろうが政略だろうが結婚した相手にする態度とは思えません。
私を侮辱するのも大概にして頂けないでしょうか。
契約結婚ということは、契約はわたくしとするという事ですわね。
このままですとそれは叶いませんわ。このまま伯爵家に帰らせて頂きます」
「そ、それは困る⋯⋯⋯。申し訳ない少し焦ってしまってて。と、とりあえずそこの部屋に案内するつもりだったのだ。ちゃんと説明させて欲しい。
頼む、帰らないでくれ。
本当に申し訳ない、この通りだ」
旦那様は捲し立ててから、直角に体を曲げ謝ってきました。
隣の誰かさんも同じ様子です。
さて、どうしましょうか。
「そこの貴方」
「挨拶が遅くなり申し訳ありません奥様。家令のテモシーです、旦那様から紹介がありませんでしたので、てっきり奥様は先にご存知であられたと思っておりました。
こちらの早計で無礼な態度になってしまい、大変申し訳ありませんでした」
執事ではなく家令でしたか。
旦那様を睨むと小声で「忘れてたんだ」と呟くのが聞こえました。
「では、テモシー。本日よりこの公爵家に入りますアディルです、宜しくね。
そこの部屋に行くらしいのでお茶をお願い」
「畏まりました奥様」
16歳の嫁いで来たばかりの小娘に嘸かし腹も立つだろうと思ったけど、テモシーの顔はやけに晴々とした趣で私のほうが面食らう。
でもまぁ最初が肝心ですものね。
そのまま部屋に案内されソファーを薦められる。
凄い!我が家は裕福なので調度品などもかなり高価で質の良いものを選んでいるけど、流石ですわね、公爵家ともなると王室と同じ仕様でしょうか。気を抜くとソファーに体が沈みそうです。
旦那様が向いに腰掛けてこちらを見る。
おやおやさっきの部屋での態度とは随分違います。
してやったりでしょうか?
少し溜飲が下がります。
暫くすると侍女でもメイドでもなくテモシー自らワゴンを押してきた。
まさか人払いしてまでもする話なのでしょうか。
どんな契約なんでしょう?
「とりあえず飲んでくれ」
言われなくても飲みますわ。
かなり喉が乾いていたので怒りを表す為に、マナーも何も完全無視でグイッとお茶を飲む。
テモシー凄い、私の行動を解っていたかのようにかなり温めのお茶にしている。
「奥様おかわりをお入れ致します。こちらはお熱くなってますのでお気をつけください」
私はテモシーを完全に気に入りました。
もう旦那様と不毛なやり取りするくらいならテモシーに事情とやらを聞こうかしら。
と思っていたら、旦那様がテーブルをトントントントトトンとリズムを刻み始める。
すると、壁だと思っていた場所がカーテンに変わり向こう側に誰か寝ているように見える。
訝しんでいると旦那様が私の顔をマジマジと見て
「彼が本物のサンディル・メイナードだ」
「えっ?」
本物ってどういう事ですの?
では今日教会で式を挙げた隣にいる方はどなたでしょうか?
今度は私が彼をマジマジと見上げる。
「これから話す事が契約内容なんだ。
この事を知ってる者は数える程しかいない、なので情報共有する者以外他言無用で頼む」
それからカーテンの奥のベッドに案内されましたが、お顔を見てまたびっくり。
「双子ですか?」
「いや違う。私は彼のまた従兄弟だ、そしてこの国の者ではない、だから私を認識している者がいないのでこの役目に選ばれた。元々少し似ていたので今は顔の印象操作を施している」
「左様ですか。それはご苦労様にございますね。
で、この様子は一体どういうことなのでしょうか?」
「長くなるからお茶を飲みながら話そう。
それと数々の無礼な態度に改めて謝罪する」
慇懃無礼な態度にも理由でもあったのかしら?
色々と解らないけれども、とりあえずは話を聞かなければ先に進めない。
先程の沈むソファーに気合を入れて座りました。
沈みすぎてゆっくりできないソファーだこと。
んっ、このセリフは知っております。
弟のアンディが、よくキャンベラに言っておりました。
3歳下の弟は私と同じくキャンベラにイジメを受けておりましたが、私同様母の血を受け継いでおりますので魔法で返り討ちにしてましたの。
ただキャンベラは不屈の精神を持っているのか、かなり執拗いのです。
それに辟易していた弟が、侍女が持っていた最近流行りの小説のセリフを揶揄いながらキャンベラに放っておりました。
これはアレと同じ類のものでしょうか?
でも私旦那様をイジメておりませんが⋯⋯。
「これは契約結婚だ」
あらっ、これは知りません。
契約ですか、政略ではないのでしょうか?
そう父からは聞き及んでおりましたが、少し齟齬がありそうですね。
「聞いているのか?」
「ハイ。聞いております、
契約というのであれば、私は何をどうすればよろしいのでしょうか?」
「ついて来てくれ」
この邸に着いてから真っ直ぐ此処に連れてこられて⋯⋯。
お茶も出して頂けないのでしょうか?
有無を言わせない旦那様の後を不機嫌オーラ出しまくりでダラダラついて行きます。
私の後ろには執事でしょうか?まだ自己紹介もして頂いておりませんが⋯⋯。
この待遇に些かカチンと来てしまい、角を曲がる直前に立ち止まりバッと振り向き壁を背に身構えました。
すると前を行く旦那様も、後ろの誰かさんもギョッとして二人で顔を見合わせると旦那様が私に問いかけます。
「アディル嬢、急にどうしたのだ。
おとなしくついて来てくれないとびっくりするだろう」
やっとこちらに向き合う形になった旦那様をキリッと睨みつけ思いの丈を伝えました。
「びっくりするとは⋯⋯。旦那様がですか?
それは異な事ですわね、その台詞は私が言いたいですわ。
私の顔を見ようともしない、いえ馬車の中では下を向けと仰いましたね。
やっと着いた邸では休む間もなく応接室でしょうか?案内され、お茶の一つも出さずに勝手な物言いでついて来い。
挙句に知らない者が後ろを付いてくる。
これはどういう事でしょう?契約だろうが政略だろうが結婚した相手にする態度とは思えません。
私を侮辱するのも大概にして頂けないでしょうか。
契約結婚ということは、契約はわたくしとするという事ですわね。
このままですとそれは叶いませんわ。このまま伯爵家に帰らせて頂きます」
「そ、それは困る⋯⋯⋯。申し訳ない少し焦ってしまってて。と、とりあえずそこの部屋に案内するつもりだったのだ。ちゃんと説明させて欲しい。
頼む、帰らないでくれ。
本当に申し訳ない、この通りだ」
旦那様は捲し立ててから、直角に体を曲げ謝ってきました。
隣の誰かさんも同じ様子です。
さて、どうしましょうか。
「そこの貴方」
「挨拶が遅くなり申し訳ありません奥様。家令のテモシーです、旦那様から紹介がありませんでしたので、てっきり奥様は先にご存知であられたと思っておりました。
こちらの早計で無礼な態度になってしまい、大変申し訳ありませんでした」
執事ではなく家令でしたか。
旦那様を睨むと小声で「忘れてたんだ」と呟くのが聞こえました。
「では、テモシー。本日よりこの公爵家に入りますアディルです、宜しくね。
そこの部屋に行くらしいのでお茶をお願い」
「畏まりました奥様」
16歳の嫁いで来たばかりの小娘に嘸かし腹も立つだろうと思ったけど、テモシーの顔はやけに晴々とした趣で私のほうが面食らう。
でもまぁ最初が肝心ですものね。
そのまま部屋に案内されソファーを薦められる。
凄い!我が家は裕福なので調度品などもかなり高価で質の良いものを選んでいるけど、流石ですわね、公爵家ともなると王室と同じ仕様でしょうか。気を抜くとソファーに体が沈みそうです。
旦那様が向いに腰掛けてこちらを見る。
おやおやさっきの部屋での態度とは随分違います。
してやったりでしょうか?
少し溜飲が下がります。
暫くすると侍女でもメイドでもなくテモシー自らワゴンを押してきた。
まさか人払いしてまでもする話なのでしょうか。
どんな契約なんでしょう?
「とりあえず飲んでくれ」
言われなくても飲みますわ。
かなり喉が乾いていたので怒りを表す為に、マナーも何も完全無視でグイッとお茶を飲む。
テモシー凄い、私の行動を解っていたかのようにかなり温めのお茶にしている。
「奥様おかわりをお入れ致します。こちらはお熱くなってますのでお気をつけください」
私はテモシーを完全に気に入りました。
もう旦那様と不毛なやり取りするくらいならテモシーに事情とやらを聞こうかしら。
と思っていたら、旦那様がテーブルをトントントントトトンとリズムを刻み始める。
すると、壁だと思っていた場所がカーテンに変わり向こう側に誰か寝ているように見える。
訝しんでいると旦那様が私の顔をマジマジと見て
「彼が本物のサンディル・メイナードだ」
「えっ?」
本物ってどういう事ですの?
では今日教会で式を挙げた隣にいる方はどなたでしょうか?
今度は私が彼をマジマジと見上げる。
「これから話す事が契約内容なんだ。
この事を知ってる者は数える程しかいない、なので情報共有する者以外他言無用で頼む」
それからカーテンの奥のベッドに案内されましたが、お顔を見てまたびっくり。
「双子ですか?」
「いや違う。私は彼のまた従兄弟だ、そしてこの国の者ではない、だから私を認識している者がいないのでこの役目に選ばれた。元々少し似ていたので今は顔の印象操作を施している」
「左様ですか。それはご苦労様にございますね。
で、この様子は一体どういうことなのでしょうか?」
「長くなるからお茶を飲みながら話そう。
それと数々の無礼な態度に改めて謝罪する」
慇懃無礼な態度にも理由でもあったのかしら?
色々と解らないけれども、とりあえずは話を聞かなければ先に進めない。
先程の沈むソファーに気合を入れて座りました。
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