【完結】長い眠りのその後で

maruko

文字の大きさ
28 / 50
第二章 サンディル過去戻り編

第二章 ⑤

しおりを挟む
それからは順繰りに現代に向かって日々が過ぎてゆく俺は主にメリルの成長を見続けていた。
初めて喋ったとお祝いをし、初めて這いずったとお祝いをし、初めて立ったとお祝いをし⋯⋯。
3ヶ月毎に祝ってる気がする。

凄いな祖母、あの人に育てられたのにスパナート伯爵は女嫌いになったって一体何があったんだろう。

メリルがもうすぐ2歳になる。
そろそろ孤児院に張り付かないとな、キャンベラが赤ん坊の時に孤児院に捨てられたって聞いている。
季節はいつ頃とかも不明だから張り付いとかないといけない。
捨てた奴のあとを付けないとな。

でもこの年は俺も生まれたんだよな。
母上が俺を産んでくれた姿もみたいなぁ⋯⋯いや仕事しないとな。
でもちょっと余裕があったら見ようかな?

──────────────

孤児院に張り付いて4ケ月と8日、キャンベラの捨てられた日を特定した。
やっとだ、この間の期間にも女の子が2人捨てられたので勘違いしてそれを追ってしまって2度も失敗した。
3度目の正直だ。

捨てたのはローブを頭から被っていた女だった。
俺はあとをつけてゆく。
それにしても随分と遠くから捨てに来てたんだな。
女は辻馬車に乗った。

女が降りたのは一軒の古い邸。
この領地はマスト子爵の領地だ、アレッ?マスト子爵って何か聞いたことがあるんだが⋯⋯よく覚えてないな。

女がローブを脱いだら普通の貴族の夫人だ。
子爵家の夫人なのだろうか。
この女がキャンベラを産んだのか?

中に入ってどうやら自分の部屋に行くようだが、それにしてもこの女の所作が気になる。
綺麗に見えるが所々あらが出る、そして偶に物に当たってる。

変な女だな、子供を産んだばかりには見えないな。
どちらかというと、あっ!今まだお腹にいるじゃないか、腹が大きい。

だから所作が変に見えたのか。

誰か入ってきたな。

「姉さん、ミラー侯爵家の乳母は馘首になったんだろう。義兄さんが帰ってこないって心配してたよ。子供の世話もせずに身重の体で何してたんだよ、とりあえず義兄さんに連絡するよ」

「あんな甲斐性なしが直ぐに来るわけないじゃない。王弟に愛想を尽かされた男よ。
あ~あ損しちゃったわ。王族の側近っていうから結婚したのに、結局は馘首になるし。
離縁したくても子供もいるから簡単に離縁できないしで散々なのよ。
あんな何もない領地でどうやって遣り繰りすればいいのよ、偶に資金援助はしてくれてもそれだけ」

「王族に資金援助してもらってるのか?」

「偶にお金を送ってきてくれるのよ、直ぐになくなるけどね」

「姉さんが贅沢するからだろう。父さんが甘いからって直ぐに実家に帰ってくるなよ、もうすぐ子供も生まれるんだろう。しかも子供も放ったらかしで」

「このままミラー侯爵家の乳母になって楽して暮らそうと思ってたのに当てが外れたわ」

「ミラー侯爵家で何して馘首になったんだよ」

「別に何もしてないわ。子供が生まれる日を誤魔化しただけよ。だって奥様の子もう産まれてしまったんだもの。うちの子はまだだし、だから乳母は出来ないでしょう。代わりに乳母になったのは平民だったのよ。癪に障るわ」

「まさか何もしてないよな」

「してないわよ、失礼ね。旦那様を待とうかな~」

2人の会話を聞いて俺は驚愕した。
キャンベラを捨てたのはアッパール夫人なのか?
腹に子がいるって事は⋯⋯。その辺がよくわからないが確か何人か子供がいたよな。
でも捨てたキャンベラは何処から連れてきたんだ!

俺はミラー侯爵家に飛んだ。

ミラー侯爵家では乳母が倒れたと大騒ぎだ。
これは少し過去に戻ろうかと思っていたら乳母と言われた女の顔を見て愕然とした。
ティーナだ。
何故ティーナが王都のミラー侯爵邸にいるんだ。
この2年で何があったんだ?

俺は舌打ちをした。
あのままジョイも見張っておくんだった。
てっきりメリルが王族と勘違いされてるんだろうと勝手に解釈してしまった。

これは2年前のあのミラー地方に飛ばないといけない。
俺は目を瞑った。

──────────────

2年前のあの日に戻った。
少しばかり何時もより魔力を使ったんだろう、俺は意識しかないのに疲弊している。

家の中でベッドに寝かされているティーナ。
ジョイとその母は二人で話している。

「ティーナさんは寝た?」

「あぁ子供を産んだばかりだし馬車が結構揺れたからね」

「そうよね、大変な目にあったのに業の子を産まなければならなかったなんてティーナさんの気持ちを思うと」

話しながら母親は泣いている。

「もっと早く準備出来ていたら婚姻前に救えたのに」

「それはしょうがないわよ。あの件で貴方は奉仕をしたり手続きしたり忙しかったのだもの」

「王族は何であんなに面倒なんだ。遺産を渡すだけなのに4ヶ月もかかるなんて。伯父さんがいなかったらもっと時間がかかってたよ」

「出したくなかったんじゃないの?王命の遺言なのに握りつぶそうとしていたんだから」

「この国を出たかったけど伯父さんの行為を無駄にしたくないし、恩返しもしないとな。ここでダンテ商会の支店を大きくして伯父さんに恩返しだ。母さん手伝ってくれよ、そしてティーナも大事にしてほしい」

「当たり前よ、貴方の奥様だもの。
スパナート伯爵は婚姻後、半年して直ぐに離婚してくれて助かったわね。ティーナさんの体調が良くなったら直ぐに教会に行きましょう、結婚式よ」

「母さん。ありがとう」

暫くジョイ一家を観察していく。

籍を入れたジョイとティーナは仲睦まじい夫婦だ。
そしてジョイは瞬く間に支店を大きくして行った。
俺はこちらも勉強になるなぁと思い観察する。

それからも何事もなく1年が過ぎてゆく。
暫くするとティーナが妊娠した事が解って3人でお祝いをしていた。
お祝いにはダンテ商会の会長もいて4人でお祝いしている。
ジョイが会長の事を伯父さんって呼んでたので、ちょいちょい会話に出ていた伯父さんが会長だと解った。

産み月が近くなった頃、3人にとんでもない事が起きる。
刺客だ。
真っ昼間に暗殺なんてと思ったが休日に3人でサロンにいると男達が3人、家に入ってきた。
使用人達まで殺されている、と、その時ティーナを庇ってジョイが刺される。
母親は既に虫の息だ。

泣きながらジョイの名前を呼ぶティーナ。
そしてジョイが力尽きると刺客がティーナに襲いかかろうとしてティーナが消えた。
正確にいうと魔力解放だ、何処かに飛んだのだが俺には解ったのでそちらに飛ぶ。

ダンテ会長の所に飛んでいた。
理由を泣きながら話すティーナ、最後の方は意識がなかったかもしれない。
おそらく陣痛だ。
ダンテ会長は王都に馬車で向かう。
医師と看護師を付き添わせてティーナを運んでいる。
馬車の中で走りながらの出産。
壮絶な光景をしかも丸2日かかって見た。

着いたのは何処かの邸。
その地下にティーナを連れてゆく。

そこで俺は思う所が合って曾祖母の実家であるミント伯爵家に飛ぶ。
やはり刺客はここから送ったようだ。
なんて事だ、ミント伯爵があいつの血は途絶えたのかと叫んでる。
ジョイは仮にも王家の血を引いているのに簡単に刺客を送るなんて、この家は現代にもまだ残っている。
かつての勢いはないがまだ現存している。
戻ったらしっかり話を聞かないとな。

子供を産んだティーナは邸の地下で過ごしていた。
メリルの時とは違い愛おしそうに我が子を抱きしめて、そして時折泣いていた。

「お母様が貴方を守るからね、お父様の分まで⋯⋯。ジョイの分まで、お祖母様の分まで貴方を幸せにするから。だから今だけ泣かせて」

赤ん坊にお乳を与えながら泣いているティーナ。
王家の歪みがジョイ達を不幸にしてしまっている。
俺は意識の中で手を握りしめた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

邪魔者は消えますので、どうぞお幸せに 婚約者は私の死をお望みです

ごろごろみかん。
恋愛
旧題:ゼラニウムの花束をあなたに リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

初夜に大暴言を吐かれた伯爵夫人は、微笑みと共に我が道を行く ―旦那様、今更擦り寄られても困ります―

望月 或
恋愛
「お前の噂を聞いたぞ。毎夜町に出て男を求め、毎回違う男と朝までふしだらな行為に明け暮れているそうだな? その上糸目を付けず服や装飾品を買い漁り、多大な借金を背負っているとか……。そんな醜悪な女が俺の妻だとは非常に不愉快極まりない! 今後俺に話し掛けるな! 俺に一切関与するな! 同じ空気を吸ってるだけでとんでもなく不快だ……!!」 【王命】で決められた婚姻をし、ハイド・ランジニカ伯爵とオリービア・フレイグラント子爵令嬢の初夜は、彼のその暴言で始まった。 そして、それに返したオリービアの一言は、 「あらあら、まぁ」 の六文字だった。  屋敷に住まわせている、ハイドの愛人と噂されるユーカリや、その取巻きの使用人達の嫌がらせも何のその、オリービアは微笑みを絶やさず自分の道を突き進んでいく。 ユーカリだけを信じ心酔していたハイドだったが、オリービアが屋敷に来てから徐々に変化が表れ始めて…… ※作者独自の世界観満載です。違和感を感じたら、「あぁ、こういう世界なんだな」と思って頂けたら有難いです……。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。

ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。 ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。 対面した婚約者は、 「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」 ……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。 「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」 今の私はあなたを愛していません。 気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。 ☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。 ☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

公爵令嬢ルチアが幸せになる二つの方法

ごろごろみかん。
恋愛
公爵令嬢のルチアは、ある日知ってしまう。 婚約者のブライアンには、妻子がいた。彼は、ルチアの侍女に恋をしていたのだ。 ルチアは長年、婚約者に毒を飲ませられていた。近年の魔力低下は、そのせいだったのだ。 (私は、彼の幸せを邪魔する障害物に過ぎなかったのね) 魔力不足に陥った彼女の余命は、あと一年だという。 それを知った彼女は自身の幸せを探すことにした。

処理中です...