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陽光の差す部屋
微睡んでいたマルシェが目を覚ます。
彼女はベッドに半身を起こしていた。
胸には赤子が張り付いて一心不乱に乳を食む。
「えっ?大きい?」
「マルシェ様?」
声のする方をぼんやりと見ると、急に若返った産婆が口元を押さえてこちらを凝視していた。
「産婆?」
「お知らせしてきます!」
誰に?
そう聞きたかったけれど彼女は忽ちマルシェの側から居なくなった。
その時、乳房にキュッと痛みがした。
恐る恐る見ると赤子には薄っすら金色の髪が生えている。目を瞑っているから瞳の色は確認できない。
だけど、まだ必死に口が動いているようで、その仕草が可愛いと思えた。
バタバタと音がする。
その方向に目を向けたとき傍と気付く。
「ここって何処?」
部屋の壁は淡い水色、ベッドの位置から見える絨毯は厚手の白。置かれた家具も全てマルシェには見覚えのある物だった。
10歳から15歳になる寸前まで過ごしたマルシェの部屋だった。
その事に驚いていたら、聞こえてきた大きな足音の人物が、これまた大きな音を立てて、ノックもせずに部屋に入ってきた。
「えっ?キャッ!」
マルシェはその時アラレもない姿で赤子に乳を飲ませている所だ。その人からは赤子が胸を隠す様な状態だったから、肝心なものは見られていない。
「ご、ごめん」
マルシェの小さな悲鳴に、状況を判断したのだろう、直ぐにこちらに背を向けた。
慌てて付いてきていた産婆が、マルシェから赤子を受け取り、ベッドの横にあったベビーベッドにそっと寝かせた。
そしてすぐさまマルシェの胸元を整えてくれる。
「旦那様、もう大丈夫です」
産婆に言われて入ってきたその人は再びこちらを見た。
「マルシェ」
「お父様?どうして?どうして私ここに⋯⋯いる⋯の?」
言いながらマルシェは思い出した。
「ラルクは?ラルクはどこ?お父様!ラルクが血だらけで!お父様ラルクはどこ?!」
叫びながらパニックを起こす娘をセフィーロは走って来て抱きしめた。
「ラルクは無事だ!無事だが⋯。一先ず落ち着くんだマルシェ」
抱きしめて背中に回した手でマルシェを優しく撫でる。
トントンとマルシェの背中を、規則正しく打つセフィーロの手は、混乱するマルシェの気持ちを正しく落ち着かせた。
「マルシェ、どこまで覚えてる?」
「⋯⋯⋯産んだときに、ラルクが手を握ってくれたの。その温もりを覚えてる」
「そうか」
抱きしめていた体を離して、マルシェの目を見てセフィーロは尋ねた。
マルシェは自分がどんな状況なのかわからぬままに答えていた。
「マルシェ、落ち着いて聞くんだよ。お前が出産してから2ヶ月経っているんだ」
「えっ?2ヶ月?」
「あぁ、お前はその間一言も発さず、起きている時の目は虚ろで生きている人形のようだった。やっと気が付いたんだな」
「私、起きたり寝たりしていたの?」
「あぁ、だが起きるのもあの子に乳をやるときだけだ。母親の本能のような物だろうか、私はそう思っていたよ」
「本能⋯⋯お父様、ラルクは?教えて」
「ラルクはマルシェの魔法で治癒された。だけどまだ目が覚めないんだ。お前とは違って一度も目を開けない。だけど生きてはいる」
「どこに?そしてどうして私ここにいるの?」
「とりあえずラルクに会いに行こうか。その他の説明はラルクに会ってからでもいいだろう」
セフィーロに言われベッドから降りようとしたマルシェだったが、足が上手く動かせなかった。
「ベッドから降りてなかったからな」
そう言ってセフィーロはマルシェを抱き上げた。
父親からお姫様抱っこをされる事に、少しだけ照れたけれど、直ぐに我に返る。今はそれどころではない、ラルクの無事な姿が見たい。
マルシェの脳裏に残るラルクは、朝日の中の血まみれのラルクだった。その口元に僅かに浮かぶ微笑みが、直前に愛の言葉を伝えてくれた名残のように思えて胸が潰れそうだった。
父が抱き上げたままマルシェを連れて行ったのは隣の部屋だった。
以前マルシェがいた頃は、マルシェの予備部屋だったはずだ。
部屋には大きなベッドが置かれている。
そこにラルクが目を閉じ、すやすやと眠っていた。
こちらの心配を他所に、顔色も悪くなかった。
本当にスヤスヤと寝息が聞こえるほどの穏やかな寝顔だった。
「ラルク」
セフィーロは眠るラルクの横にマルシェを降ろした。マルシェはラルクの名を呼びながら、彼の黒髪を撫でる。
いつもラルクがしてくれたように、優しく優しくゆっくりと。
「神様ありがとうございます」
ラルクが生きている。
それだけで良かった。
溢れる涙が止まらないけれど、ちゃんと生きてるラルクを見つめていたくて、マルシェは袖で涙を拭った。
微睡んでいたマルシェが目を覚ます。
彼女はベッドに半身を起こしていた。
胸には赤子が張り付いて一心不乱に乳を食む。
「えっ?大きい?」
「マルシェ様?」
声のする方をぼんやりと見ると、急に若返った産婆が口元を押さえてこちらを凝視していた。
「産婆?」
「お知らせしてきます!」
誰に?
そう聞きたかったけれど彼女は忽ちマルシェの側から居なくなった。
その時、乳房にキュッと痛みがした。
恐る恐る見ると赤子には薄っすら金色の髪が生えている。目を瞑っているから瞳の色は確認できない。
だけど、まだ必死に口が動いているようで、その仕草が可愛いと思えた。
バタバタと音がする。
その方向に目を向けたとき傍と気付く。
「ここって何処?」
部屋の壁は淡い水色、ベッドの位置から見える絨毯は厚手の白。置かれた家具も全てマルシェには見覚えのある物だった。
10歳から15歳になる寸前まで過ごしたマルシェの部屋だった。
その事に驚いていたら、聞こえてきた大きな足音の人物が、これまた大きな音を立てて、ノックもせずに部屋に入ってきた。
「えっ?キャッ!」
マルシェはその時アラレもない姿で赤子に乳を飲ませている所だ。その人からは赤子が胸を隠す様な状態だったから、肝心なものは見られていない。
「ご、ごめん」
マルシェの小さな悲鳴に、状況を判断したのだろう、直ぐにこちらに背を向けた。
慌てて付いてきていた産婆が、マルシェから赤子を受け取り、ベッドの横にあったベビーベッドにそっと寝かせた。
そしてすぐさまマルシェの胸元を整えてくれる。
「旦那様、もう大丈夫です」
産婆に言われて入ってきたその人は再びこちらを見た。
「マルシェ」
「お父様?どうして?どうして私ここに⋯⋯いる⋯の?」
言いながらマルシェは思い出した。
「ラルクは?ラルクはどこ?お父様!ラルクが血だらけで!お父様ラルクはどこ?!」
叫びながらパニックを起こす娘をセフィーロは走って来て抱きしめた。
「ラルクは無事だ!無事だが⋯。一先ず落ち着くんだマルシェ」
抱きしめて背中に回した手でマルシェを優しく撫でる。
トントンとマルシェの背中を、規則正しく打つセフィーロの手は、混乱するマルシェの気持ちを正しく落ち着かせた。
「マルシェ、どこまで覚えてる?」
「⋯⋯⋯産んだときに、ラルクが手を握ってくれたの。その温もりを覚えてる」
「そうか」
抱きしめていた体を離して、マルシェの目を見てセフィーロは尋ねた。
マルシェは自分がどんな状況なのかわからぬままに答えていた。
「マルシェ、落ち着いて聞くんだよ。お前が出産してから2ヶ月経っているんだ」
「えっ?2ヶ月?」
「あぁ、お前はその間一言も発さず、起きている時の目は虚ろで生きている人形のようだった。やっと気が付いたんだな」
「私、起きたり寝たりしていたの?」
「あぁ、だが起きるのもあの子に乳をやるときだけだ。母親の本能のような物だろうか、私はそう思っていたよ」
「本能⋯⋯お父様、ラルクは?教えて」
「ラルクはマルシェの魔法で治癒された。だけどまだ目が覚めないんだ。お前とは違って一度も目を開けない。だけど生きてはいる」
「どこに?そしてどうして私ここにいるの?」
「とりあえずラルクに会いに行こうか。その他の説明はラルクに会ってからでもいいだろう」
セフィーロに言われベッドから降りようとしたマルシェだったが、足が上手く動かせなかった。
「ベッドから降りてなかったからな」
そう言ってセフィーロはマルシェを抱き上げた。
父親からお姫様抱っこをされる事に、少しだけ照れたけれど、直ぐに我に返る。今はそれどころではない、ラルクの無事な姿が見たい。
マルシェの脳裏に残るラルクは、朝日の中の血まみれのラルクだった。その口元に僅かに浮かぶ微笑みが、直前に愛の言葉を伝えてくれた名残のように思えて胸が潰れそうだった。
父が抱き上げたままマルシェを連れて行ったのは隣の部屋だった。
以前マルシェがいた頃は、マルシェの予備部屋だったはずだ。
部屋には大きなベッドが置かれている。
そこにラルクが目を閉じ、すやすやと眠っていた。
こちらの心配を他所に、顔色も悪くなかった。
本当にスヤスヤと寝息が聞こえるほどの穏やかな寝顔だった。
「ラルク」
セフィーロは眠るラルクの横にマルシェを降ろした。マルシェはラルクの名を呼びながら、彼の黒髪を撫でる。
いつもラルクがしてくれたように、優しく優しくゆっくりと。
「神様ありがとうございます」
ラルクが生きている。
それだけで良かった。
溢れる涙が止まらないけれど、ちゃんと生きてるラルクを見つめていたくて、マルシェは袖で涙を拭った。
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