私はわたし─存在しなくても生きてます─

maruko

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 二人が帰ってこなくなって一ヶ月が過ぎたその日、マルシェはもう限界だった。

「もう無理」

 心配で胸が張り裂けそうで、ノエルを抱いてその顔を見つめていても、涙が知らず溢れていた。
 食事も喉を通さず夜も眠れない。
 とうとうマルシェは魔法を使うことに決めた。

 王宮には魔法使いが数名存在する。
 マルシェが他者の魔力量を感知出来るように、彼等も出来るだろう。
 ただマルシェは他の魔法使いに会ったことが無い為、使用したことを感知できるのかは分からなかった。
 マキシムには魔力が殆どなかったから、彼の力がスキルだと知って、それでは使用しても分からないと嘆いたのだった。

 マルシェが城に転移したら、直ぐに捕まる可能性があるとは思ったが、二人の顔を見て話さなければ、一つも安心できない事も感じていた。

「ラルク⋯」

 マルシェは呟いてそのまま城へと飛んだ。

 飛んだ先は前回マキシムと会った謁見室だった。その部屋には誰もいない。
 あの日の事を回想して、マルシェは拳を握った。
 時間的には夜中だったから人気はないのが当たり前だったが、そこに誰もいないことでマルシェは不吉な予感がしてしまう。

 そっと扉を開く、見張りの騎士は此処には居なかった。
 廊下を進むが、不自然なほどに誰もいなかった。

 マルシェはあの日が初めての王城だったため、城の入り口から、謁見室までしか知らない。
 今マルシェが進んでいる道は、未知への世界だった。

 そっとそっと足音を忍ばせマルシェは息を殺しながら進んだ。

 すると曲がり角を曲がろうとした時、気配を感じた。そして呼び止められる。

「マルシェ?」

 聞きたくて、呼ばれたくて堪らなかった声にマルシェは振り向く。

「ラルク⋯」

「どうしたんだ、こんなところまで。転移したのか?」

「どうしたんだじゃないわよ!」

 夜中だとわかっているから、声を極力潜めた。だがその言葉にはマルシェの怒りが込められていた。ラルクの胸を弱い力で叩くマルシェを、呆然としながら受け止めるラルクは、マルシェの怒りが理解できていなかった。
 何故なら彼は多忙の中、マルシェに手紙を送っていたからだ。今日もちゃんと送るように手配していた。
 帰れない事情も掻い摘んでだがその手紙にちゃんと認めていた。

 驚き戸惑うラルクの顔を見て、マルシェはふと我に返った。

 (待って!これって異世界あるある?)

 怒って興奮していたにもかかわらず、ラルクの不思議顔のおかげで、マルシェは冷静になれた。これが以前の無表情を貫くラルクなら、このまますれ違って、恋愛物語のすれ違いシチュになっていただろうと、久々に感じる“あるある”にピンと来た。

「ラルク、もしかして私に手紙を送ったり、伝言したりしていた?」

 マルシェの言葉にラルクは頷いて、そして「ハッ」として目を見開き「届いていないのか?」と答えた。
 マルシェが頷くと、ラルクはマルシェの手を取り歩き始める。
 マルシェはおとなしく彼に手を引かれて、先程の謁見室まで逆戻りした。

 部屋の扉を閉めるとすぐ様、ラルクがマルシェに尋ねた。

「マルシェ、周囲に声が漏れないようにできるか?」

 マルシェの、魔法がどのようなものか、正確にわからない為聞いたのだろうと理解して、マルシェは頷き、部屋に防音の魔法をかける。

「これで外には漏れないわ」

 そうマルシェがラルクに言った途端、ラルクはマルシェを抱きしめる。

「会いたかった」

 その、優しく力強い相反する抱きしめ方は、いつものラルクで、精神干渉されていないとマルシェは安堵する。そして自分もラルクの背に腕を回して抱きしめ返して、ラルクの胸に顔を埋めた。規則正しく打つ鼓動が、マルシェを更に安心させた。

 それからラルクは一ヶ月間の出来事を話してくれた。それはマルシェにとって青天の霹靂、一発逆転、そんな話だった。


◇◇◇


「じゃあ、マキシムは自分で居なくなったの?」

「居なくなったんじゃない、罪を償うと言って勝手に自分で罰を決めて出て行ったんだ。勝手だろ?」

 ラルクの話によると、呼ばれた国王は既に精神干渉はされていなかった。
 そしてマキシムが、王太子の地位を自分から降りたのだということを聞かされた。

 それから、セフィーロは国王から、王太子に返り咲くようにと、懇願されたのだという。
 だが、そんな事を勝手に国王が命じて、セフィーロが承諾しても、「はい喜んで」とはならないのが貴族達である。


 以前王妃と、セフィーロを王太子に戻そうと話してはいたが、その根回しをする前に、マキシムから支配された為、国王一人では無理があったのだ。
 そのために、この一ヶ月ラルクとセフィーロは、帰れないほどに多忙になった。今は、マキシムが既にこの城に居ない事も、今後の事も箝口令を敷き秘されているのだとか。

 話を聞かされたマルシェは、あるあるとはいえ、誰かがマルシェとラルクの間を引き裂こうとしていることが不思議だった。他にも、マキシムが突然自分から廃太子を願い出た事も信じられなかった。

「ねぇ、ラルク。聞きたいことは山ほどあるんだけど⋯先ずは、あなたが無事で良かった」

 マルシェは一番言いたかった事を伝えた。






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