ミリアーナの恋人

maruko

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 シャルウィットと呼ばれた令嬢は読んでいただろう本から少し上目遣いにユノを見た、そしてミリアーナを見つめる。
 その視線の気迫にミリアーナは、スッと背中に戦慄が走り自然と口から声が溢れた。

「ユノ控えなさい!」

 それは貴族と聞かされて2週間目、初めてミリアーナが自身の立場を自覚して出た言葉だった。
 それにユノは思わずたじろぐ、ユリエラは「ほうっ」と感嘆の声が漏れた。
 たじろいでいたユノに更にミリアーナは放つ。

「お詫びを」

「もっ申し訳ありませんでした」

 ミリアーナの見たこともない気迫にユノは言われたとおりにシャルウィットに謝罪し頭を下げた。
 シャルウィットはユノに一瞥だけして再びミリアーナを見つめた。その時ミリアーナはハッと我に返ってしまい、その先どうしていいか分からなくなった。ユリエラに助けを求める様に目を向けていると、そこに店主がシャルウィットに声をかけた。

「お嬢様、こちらをどうぞ」

 テーブルに店主が何か飲み物を置いた、それを見たシャルウィットは彼に微笑みかけ、そしてミリアーナに「もうよろしくてよ」と軽く手を上げて声をかけてくれた。その言葉にミリアーナは頭を下げた。

 シャルウィットの所からミリアーナ達の席に店主が移動して「何になさいますか?」と注文を聞く。
 今度はミリアーナではなくユリエラが店主に「ありがとうございました」とお礼を述べたのでミリアーナもそれに倣って感謝を伝えた。
 その間もユノが立ったままでいたので堪らず店主が彼女の背をソッと押すように椅子へと誘った。
 ユノは放心したように黙って座ったがミリアーナは敢えて無視をした。

 ユリエラおすすめのケーキはオレンジのバウンドケーキだった。素朴な見た目だったが、ミリアーナが食べたケーキの中ではダントツに美味しかった。
 きっと聞いたらホテルのシェフはプライドを傷つけられたと怒るかもしれないが、あのホテルで出されたデザートよりも数段美味しくてミリアーナはその味に感動した。
 是非ともアリーラに食べさせて上げたいとお土産に出来ないかユリエラに訊ねると驚く事を言った。

「ここを教えて下さったのは奥様です。それにここに来ると必ず、奥様に渡してと言ってお土産はアチラから差し出されます」

 ユリエラのその言葉にユノが蒼白しながらも悔しそうに唇を噛み締めていた。自分が蔑んだ店がアリーラのお気に入りで、尚且つ自分は連れてきてもらえなかったのに、平民のユリエラが連れてきてもらえていたことに憤ったのだ。
 そんな事をユノが考えてるなど知らないミリアーナは、一緒に注文した紅茶もオレンジの味がする事に感動していた。
 するとユリエラから嬉しそうに声をかけられた。

「ミリアーナ様、今の合格ですよ。自然と飲まれていました」

 ミリアーナがお茶を飲んだ一連の動作は教えてもらっていた優雅な動作のそれで、そして一音も響かせずにカップをソーサーに無意識に置いていた。
 それを知ったミリアーナはユリエラに合格を貰って感動したのだが、意識をするとまたカチャと小さい音がなる。

「意識すると駄目みたい」

「練習ですよ練習。まだ始めて2週間ですから、焦らずに」

「そっか日々精進よね、頑張るわ」

「頑張りすぎずにリラックスしてやってみるのがいいのかもしれないですね。無意識の方が良かったみたいですし」

 ユリエラの言葉にミリアーナは頷いた。
 それにしても先程からユノが大人しい、こんな会話を聞けば直ぐ様ミリアーナに侮蔑な目を向けていたのに視線を感じない。ずっと俯いてるばかりだ。
 だけどミリアーナは気づいた、彼女の目の前のケーキセットはスッカリ食べ終えていた。そしてその音は一つも聞こえなかったのだ。
 ミリアーナはユノの事を聞かされていないが、彼女は貴族の令嬢だと気づいた。

 (令嬢って自然に出来るんだわ、私も頑張ろう)

 母に会う日の為にミリアーナは自信を奮い立たせた。

 ◇◇◇

 ルーカスは工房の事務所で伝票を眺めていた。先程来店した客の事を知るために。

「ミリアーナ・ルクオート・ファンデル?ルクオート?」

 自己紹介の時、ルーカスは愛想笑いで聞き流していた為ファーストネームしか聞いていなかった。
 貴族令嬢との普段の会話をいつも面倒臭がって、そのようにしていたから今は後悔している。

「綺麗な碧だったな」

 初対面から変な娘だった。
 辻馬車の控室で一人の女性を穴が開くほど見つめていて、その様子が挙動不審だった。伏せては凝視、伏せては凝視と周りから白い目で見られている事にも気づかない。変な娘、そう思ったのに何故か声をかけた。するとルーカスの言葉でしどろもどろに言い訳を始めて、それで無意識に見ていたのかとルーカスは気づいた時、彼女の顔を何処かで見たような気がした。
 何処でだったのかと思い出すように見ていたら今度は娘は何か怒鳴って席を移動した。
 “変な娘”その一言に尽きる出会いだった。

 そして今日だ。
 何故か貴族令嬢の姿で現れた、付いている侍女はいかにも貴族だが侍女としての心構えがまるでなっていない。にも関わらず注意もしない娘にいつもならスルーして当たり障りなく会話をするのに、今日は口出ししてしまった。

 彼女は苦言を呈した自分を何故か食い入るように見つめてきた、ルーカスはそうやって見つめられる事に慣れていた。それは自分の容姿とこの髪の色のせいだった。
 だから何故自分までが彼女から目が離せなかったのかそれが分からない、分からないが何時までもずっと見つめていたかった。それは理由は如何でもいいような気までしていた。

 帰ると言う彼女に思わずエスコートの腕を出したのだが彼女はそれには気づかなかった、ならばと掌を差し出した。それもよく分かっていなかった、まさか自分が誘導してまでエスコートするなんて!

「変な娘だ、そして俺も変だ」

 また会いたい。
 その気持ちは自分の中で急に湧いて出た気持ちだった。
 ただそれとは別に目的の為には会う必要がある事も彼女の名を見て思った。
 ルーカスは伝票をに書かれたミドルネームを見ながら溜息を吐いた。





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