三度目の正直

maruko

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別邸の来客室にアリーシャはマックスと入っていった。

ユランドから聞かされたルルーラという侍女の事はマックスも知らぬ者だった。
ただマックスは父親の紹介状を携えていた事でアリーシャに対して害ある者ではないと判断して、会ってみては如何かとアリーシャに薦めた。

それからユランド経由でコンタクトを取ってもらい今日面会することにしたのだが、彼女は座らずにソファの横に直立不動でアリーシャを待っていた。

二人が部屋に入ると徐に深く礼をしてアリーシャの言葉を待つ姿勢にアリーシャは好感を持った。

「初めましてでよろしいのかしら?私貴方のお名前に聞き覚えがなくて」

「はい、お会いするのは初めてになります。私クラウベル公爵家の侍女のルルーラと申します。旦那様よりアリーシャお嬢様宛にお手紙をお預かりしております」

ルルーラはそう言って少し厚めの封筒をアリーシャの前に差し出した。
受け取ると確かに封蝋は父のものであった。
読むか如何か少しだけ思案したが読むことに決めた。
ルルーラにソファを薦めると彼女は驚いた顔をして少し首を傾げそれからフルフルと頭を軽く振ってアリーシャの申し出を断った。
そして「こちらで十分でございます」と言って入り口近くの壁に移動した。

丁度そこにナンシーがワゴンを引いて入ってきて壁に佇むルルーラを見てからアリーシャを見つめる。
ナンシーの顔には「何故?」と書いているように思えた。

ソファの後ろにマックス、扉の両側の壁にルルーラとナンシー。
三人に見守られてアリーシャは父からの手紙を拝読した。

封筒が厚いはずである
中身は便箋が5枚重なっていた。

思わず「こんなに何を⋯」とアリーシャは呟いてしまった。
父からは何度か手紙を貰ったことがある。
誕生日のカードを含めるのなら過去も合わせて10通程だが、過去のアリーシャはそれを何度も何度も読み返し手でもなぞっていたから筆跡は熟知していた。
間違いなく父からであった。


「ふぅ」

その長い長い手紙を読み終えてアリーシャは大きな息を吐きながらソファの背凭れに体を預けた。
ナンシーが用意してくれた紅茶からはもう湯気は上っていない。
少し躊躇して結局砂糖無しで口にした。
温くなっていた紅茶はアリーシャの乾いた喉をスルスルと通り潤してくれた。

「ルルーラ⋯⋯さん、座ってくださるかしら?お話があるの」

アリーシャの言葉に今度はルルーラは従ってくれた。

「お父様が貴方を私付きにするつもりだと書いてあるのだけど、貴方はそれでいいの?ルチアーナの侍女なのでしょう?」

アリーシャの問にルルーラは右手で軽く挙手して返答した。

「私は元々アリーシャお嬢様の侍女にするつもりだったと旦那様は仰っていました。ですがお屋敷に着いてから変更がありルチアーナお嬢様付きになっていたのです」

それを聞いてアリーシャは自分が侍女ではなくマックスを侍従にしてほしいという希望を、辺境伯の推薦という形で書いてもらった手紙を渡したからだと理解した。

「そうだったのね。でも貴方はそれで本当によろしいのかしら?ルチアーナに付きたければ今まで通りで構わないのよ」

「⋯⋯」

ルルーラはどう返事をしていいか考えているようだったので、アリーシャは時間を与える事にした。

「ナンシー、彼女の分もお茶をお願い」

その言葉にナンシーよりも先にルルーラが反応した。

「いえお嬢様、私は侍女ですので気を使わないでくださいませんか?それと、私はアリーシャお嬢様に信用して頂く材料を全く持ち合わせておりません。ですのでアリーシャお嬢様にアピールができないのです」

「アピール?」

「はい、私は侍女ですので雇用主である旦那様の命令には背けません。ただそれとは別に私はアリーシャお嬢様に付きたいと切望しています」

「それは如何してかしら?」

「⋯⋯⋯」

「言っていいわよ、不敬には問わないわ」

「贖罪と同情が半々です」

「なっ!」

ルルーラの言葉にマックスが憤ったがアリーシャはそれを手で制した。

「贖罪とは何故?私何も貴方にされていないわ」

アリーシャはずっと考えていたがルルーラの事は過去の人生を合わせても今日が初対面だった。
彼女から何か意地悪などされた覚えは一つもなかった。

「何もしなかったからでしょうか」

「何もしなかったから?」

「はい、アリーシャお嬢様付きになる予定だったのは今回旦那様にお嬢様の捜索を依頼するに当たって初めて聞かされたことでした。ですが私はルチアーナお嬢様付きになりました。ルチアーナお嬢様付きになって8年、アリーシャお嬢様の存在を知って5年。私はアリーシャお嬢様の事を誤解しておりました。私はアリーシャお嬢様付きにしたかったと旦那様に始めに言われた時にルチアーナ様付きで良かったと思ってしまったのです。自分が間違っていたのに⋯。それに対しての贖罪です。同情は⋯侍女長や執事、ルチアーナお嬢様のお母様からの仕打ちに対してです」

それからもルルーラは自分の気持ちを赤裸々に語った。
あまりにも率直に語るので度々マックスが「なっ!」「おい!」などと憤ったり突っ込みを入れたりしていたが、アリーシャにはルルーラの気持ちが届いた。

「実は私、旦那様に雇われた経緯が本当に偶々だったんです、それでアリーシャお嬢様の事を考えました。お嬢様も偶々不遇な扱いを受けてしまったのではないかと。そして偶々ならば侍女長や執事が居なくなった今からなら変えられるのではないかと思ったのです。そのお手伝いを私が少しでもできればと思っています。こう見えて私公爵家には8年務めております。割と古参なのです、アリーシャお嬢様のお役に立てると思います」

ルルーラは力強くアリーシャに宣言して少し豊かな胸を張った。






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