三度目の正直

maruko

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 マックスの不敬の告白で、今日のマルシスの行動がアリーシャには分かった。
 マックスに釘を刺されて彼はきちんとアリーシャの立場を理解してくれたのだろう。
 それでも直接姿を見に来てくれたのは、それだけアリーシャを心配してくれたのだとアリーシャは胸がいっぱいになった。

 だが⋯⋯。

「待っていてほしいって仰ったの?」

 アリーシャの問いにマックスは頷いた。

「変ですよね、王太子様はアリーシャ様の気持ちを「マックス!」あっすみません」

 アリーシャに遮られてマックスは慌てて謝罪した。
 アリーシャの気持ちをマックスは知っているけれど、それを知らないふりをしているはずだったし、アリーシャに至っては胸に秘めた想いだ。

 それから二人は暫し無言。
 無言だがお互いが聞きたくて堪らなくなってもいて、次の言葉を探していた。

 だが、今日はそこまでだった。
 クラウベル公爵家に到着してしまったから。

 外からトントンと御者が扉を叩いたのでマックスは内鍵を開ける。
 先に下りてアリーシャの下りるのに手を貸した。
 アリーシャは下りて直ぐに御者のルースに深々と頭を下げて、自分の行いを詫た。
 ルースは恐縮しながらも「ご無事でよかった」と優しく言葉を返してくれて、アリーシャは更に軽率な自分の行いを反省した。

 トーマスが執事に返り咲いてから、アリーシャの生活は一変している。
 部屋もそうだが、学園に通う馬車も変わった。

 以前の執事はアリーシャの外出時はいつも家紋無しの馬車を用意していた。
 それは学園に通う時もそうであった。
 アリーシャは庶子ではあるが公爵令嬢である、学園は馬車の混雑を防ぐ為、身分によって登校時間が定められている。
 アリーシャの登校時間は王族とほぼ同時刻になっているのだが、そこへ家紋無しの馬車が学園に入ろうとする。
 当然馬車は学園警備に止められて身分の確認を求められる。
 それを先に登校している貴族子女や平民の学生達が、教室の窓からだったり、馬車から下りて態々そのを見る為に、馬車止め付近の通路に残って見物していた。

 4月に学園に入学してから今は9月、6月辺りからは警備も慣れてきて、馬車の窓越しにアリーシャの銀髪を外から確認したら黙って通してくれるようにはなった。

 この馬車の件で今回の人生では、王太子マルシスとアリーシャは出会う事になる。

 毎朝登校のたびに揉めている馬車にマルシスが目を留めた。
 側仕え兼護衛のユランドに「あれは何?」と訊ねてクラウベル公爵家の令嬢アリーシャだとマルシスは教えられる。
 そしてルチアーナとの顔合わせの時に見かけた銀髪の令嬢だと気付く。
 マルシスが心に留めた令嬢が今年度入学したのだと理解した。
 その時、マルシスとアリーシャはお互い一瞬のことだが目を合わせた。

 アリーシャは前回の人生から数えて数年ぶりに見る大好きな人として、マルシスは公爵家で罵られてもキュッと唇を結んで我慢強く耐え忍ぶ姿から目が離せずに心を奪われた相手として。

 それだけでマルシスは自身の運命はアリーシャとともにあると脳内にインプットされたのだった。

 そんな事をその一瞬にマルシスが考えてるなど、周りの誰も分かっていなかったからそれ以降のマルシスの行動は側近達は戸惑い、アリーシャとマックスには迷惑行為の災難だと認識されていくのだった。


 ◇◇◇


 馬車を下りて部屋に向かっていると、トーマスの部下から後ほど部屋にトーマスが行っても良いかと打診された。
 アリーシャが頷くと、頃合いを見て行かせて頂きますと部下は丁寧に礼をして去って行った。
 部屋には居るはずのルルーラが居なかった。

 ちょっとだけアリーシャは首を傾げた。
 マックスも不思議に思ったが、部屋で待つことなく入り口に待機していた見覚えのない侍女が開いたままの扉をノックをしてこちらを見ている。

「何かしら?」

「お着替えのお手伝いをトーマスさんに申し使っております」

「ルルーラは?」

「今、トーマスさんと旦那様の部屋に呼ばれています」

 何かあったのだと理解してアリーシャは彼女に「ではお願いします」と声をかけると侍女はスススッと部屋に入ってきた。
 マックスは入れ替わるように部屋を出て自分用に用意された部屋へと向かった。

 後でトーマスが部屋に来ると行っていたから、何かの報告があるのだとアリーシャは理解した。

 侍女は初めて見る顔だったが手際が良かった。
 服を家用のワンピースに着替えさせて、その後の髪の解きも早い。
 朝ルルーラに少しだけ複雑に編み込んでもらった髪型は解くと癖がついてカールになっていた。
 それを丁寧に梳いて軽くシニヨンに纏めてくれた。

 アリーシャがその手際を労うと口元を少し上げて頭を軽く下げながら鏡越しに微笑んでいた。

 (北側の侍女とは大違いね)

 アリーシャがそう思って感心していると侍女は聞いてくる。

「お茶をご準備いたします」

 そう言って廊下に出ていったのだがあっという間にワゴンを押して入ってきた。
 そして流れるような手際でテーブルにお茶と小皿に乗せたクッキーを並べた。
 そして直ぐ様、壁際に控える。

 天晴な侍女にアリーシャの心は持って行かれた。




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