眠れる森の聖女

maruko

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第一章

王太子突然のプロポーズの舞台裏

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「王太子様!いい加減覚悟を決めてください!」

国王の執務室で声を張り上げたのはこの国の宰相だ。
それをウンザリした顔で聞き流そうとしているのはファリウト王国王太子セルヴィアン。
宰相のこの言葉は、聖女試験で“眠りの森”へ行ってからずっと続いている。
そろそろ4ヶ月にはなるだろうか。
セルヴィアンはソファに深く座り、足を投げ出しただらしない格好で返事もしない。
いつもこんな感じだ。

到頭宰相は国王をギロリと睨む。

「セルヴィ、我儘も大概にしろ」

宰相の睨みに首をすくめながら言った国王の言葉にもセルヴィアンは返事をしない、これもいつもの事だ。
この不毛のやり取りは王太子が黙りを決め込んで、ただ無駄に時間が流れ、多忙を極める国王と宰相が時間切れで幕を閉じる。
セルヴィアンはそれを狙っているのだが、今日はそこに何時もと違う顔があった。

「兄上、いいのですか?」

第二王子のシューターが、飲んでいたお茶のカップを優雅にソーサーに置きながら言った。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯何がだ?」

セルヴィアンは黙りを決めていたので返事をしたくなかったが、弟のシューターは性格が小賢しい(セルヴィアン主観)いつの間にか兄の自分を出し抜いて色々と旨味のある公務を横から掻っ攫ったりしているのだ(セルヴィアン主観)
黙っていては、また損をするのではないかと訝しみながらも返事をした。
この段階でシューターの思う壺ではあるがセルヴィアンは気付かない。
間抜けというか単純というかセルヴィアンはそんな男だった。

二人のやり取りを見て宰相は、やはり王太子の交代を陛下に進言しなければと考えていた。

「森にいるという聖女様は兎も角、シュトラウゼ公爵令嬢は結界を抜けていますよ。以前も説明されましたよね宰相に。何方かと婚姻を結ぶのが妥当だと」

「⋯⋯」

「このまま兄上が何方とも婚姻しない、平民の娘と婚姻すると言い張るならば、兄上は王太子の資格を無くしますが「何だと!」」

シューターの言葉に怒りを顕に言葉を遮ってセルヴィアンは怒鳴った。

「おや?これは異な事。そこまで考えが及びませんでしたか?」

体を怒りに震わせながら懇願するようにセルヴィアンは国王を見た、国王はスッと顔を背けた為、嫌々ながらも今度は宰相を見る。
すると彼は首肯うなずいた。

「そっそれは、だがあの娘を聖女にして」

「それは無理です」

セルヴィアンが言った言葉に返事をしたのは今度は宰相だった。

「あれだけの大勢の中でシュトラウゼ公爵令嬢は結界を抜けました。今更の娘を聖女などと⋯⋯笑われますよ」

「何故私だけこんな目に合うんだ!理不尽だ!」

嘲笑しながら言う宰相にセルヴィアンはワナワナと怒りに震えたまま叫ぶ。
そんな兄をシューターは呆れながら苦言を呈す。

「兄上、元々王家のこの聖女の認定制度こそ可笑しい事だと思われているんですよ。分かってますか?このファリウト王国で一番血統があやふやなのが王家なのです。確かに聖女は居るだけでいいと王家に伝わる書物には有りますが、だからといって力のない者を聖女だからと何時までも崇めてくれる者が何人居ると?」

「それは⋯えっ?皆ではないのか?」

「⋯⋯⋯⋯⋯はぁ~~~兄上⋯」

シューターは目の前の兄が本気だったのかと呆れるように大きな溜息を吐いた。
それが合図になったように今までこの問題に目を背けていた国王が口を挟んで来た。

「シュー、お前それは⋯言い過ぎではないか?」

シューターは暢気な親子へ交互に侮蔑の眼を向ける。
その目に二人は怯んだ、そのまま今度は宰相から口撃される。

「陛下、王太子様、シューター殿下は一つも可笑しな話はしておりません。この国の現状です。どこの国に自分が気に入った娘を聖女と偽り王妃に据える国が在りますか?このファリウト王国だけです。貴族達が黙って従っているのは国政に問題が無かったからです。今までは!」

「なら、別に良いのではないか?」

宰相の言葉にまたまた暢気に国王が反論するも返り討ちに合う。

「い・ま・ま・で・は・と申しました」

嫌味のような(ようなではない)宰相の言葉に国王もセルヴィアンもタジタジで肩身が狭い。
宰相が言っているのは、シュトラウゼ公爵家に課されている案件だろうと想像がついて、特に国王は泣きそうになっていた。
気弱な国王は即位前から不安視されていたが、その時点ではまだ国政に大きな問題も無かったので、継承に関して大きな不満は出なかった。
問題は即位してから起こり紆余曲折有ってシュトラウゼ公爵家に丸投げしたのだ。
そんな事もあったから、今回シュトラウゼ公爵令嬢が結界を抜けたと聞いた時、国王は真っ青になった。
万に一つの可能性があった家系がシュトラウゼ公爵家だったのは僥倖なのか、それとも最悪なのかそれを国王は考えていたのだ。

(おそらくそれを今この場で告げれば間違いなくシュトラウゼ公爵令嬢は王太子の婚約者に据える事に決まる。
そうすれば、自分の秘密を言わずに事が進むのか?)

国王は逡巡しながらも二人の王子に向き合った。
宰相の冷たい眼差しを見ないふりをしながら告げる。

「どちらでも良い、シュトラウゼ公爵令嬢を娶る方を王太子にする」

「なっ!父上!私を廃太子にすると仰るのか!」

「このままでは聖女の認定試験の意味がなくなる、そうなれば歴代の王妃の立場は如何なる?それくらいわかるだろうセルヴィ」

国王の言葉の真意が分かる宰相は、尚も呆れながら国王を侮蔑していた。

「兄上は真摯に申し込まないと断られるかもしれませんね、公爵にも嫌われていますし。これは私の出番かな?」

シューターの言葉にセルヴィアンは顔が引き攣った。
以前セルヴィアンは公爵にアミエルを庶子だと嘲った事があったのだ。

「父上!王命を!」

「それは⋯できぬ」

「何故ですか!」

「あの家には⋯既に一度王命で迷惑をかけた。もう二度と使えぬ」

「どういうことですか?今回の聖女試験で婚約解消させたからですか?」

「その王命はスコティファリ公爵に出したんだよ兄上」

「?」

「えぇ~い!煩い!そんな事はどうでも良い。これは決定だ!シュトラウゼ公爵令嬢が婚約した方を王太子にする!」

国王のこの一言でアミエルは多大な迷惑を被ることになるのだった。






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