風の忍者と炎の姫

あさまえいじ

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頼まれごと

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 本日最後の授業が終わりを告げた。
 この後の予定をどうするか友達同士で話している生徒が多い中、担任の教師である木村が虎太郎を呼んだ。

「風魔、ちょっとすまんが職員室に来てくれ」
「え、俺なんかしました?」
「ああ、違う違う。ちょっと頼みがあるんだよ」
「頼み?」

 虎太郎は腑に落ちない表情を浮かべたまま、木村の後に続き職員室に向かった。

 職員室に着くと、木村は自席の引き出しから、男にしては随分と可愛らしい封筒を取り出し、虎太郎に手渡した。

「これ、先生のか?」
「違う違う、坂之上さかのうえからのだ。放課後になったら風魔に渡すように頼まれていたんだ」
「会長から?」

 坂之上さかのうえ 智香ともか、今年の魔法学園の生徒会長だ。
 完全無欠の女帝と呼ばれるほどの力と芸能界から頻繁にスカウトされるほどの美貌を併せ持った才女、と専らな評判になっている。
 虎太郎は一つ上の先輩である智香と昨年ある一件で親交を持った。
 虎太郎は封筒を開くと、一枚の手紙と何処かの手書きの地図が入っていた。

「えーと‥‥‥‥」

 手紙を読んでいく。そこに書かれていたのを要約すると、とある人物を学園まで案内すること、のようだ。
 同封されていた地図は待ち合わせの場所を示しているようだ。場所は駅のバス停を指している。
 そして、待ち合わせ時刻が‥‥午後4時だ。

「今、何時ですか!?」

 虎太郎は慌てて、現在の時刻を問う。すると答えが返ってきた。

「今は3時50分だ」
「やべぇですね。コレ‥‥」

 虎太郎は手紙を木村に渡すと読み始め、同じ様に慌ただした。

「‥‥ここから駅まで車でも15分はかかる。間に合わんな、これは。風魔、仕方ない、極力急げ」
「仕方ないですね。まあ、可能な限り急ぎますかね」

 虎太郎は一人職員室を後にする。
 廊下を通り、下駄箱で靴を履き替える。そして、外に出て走り出した。短距離走ほど全力ではなく、マラソンの様に長距離の走りで駆けていく。

「はぁ、はぁ‥‥」

 舗装された道を走り駅に向かう。しかし、この程度の速度では、到底間に合いそうにない。だから‥‥‥‥力を使う事にした。

 魔法使いには力を発現するのに、いくつかの方法がある。
 大きく分けると、術式を刻む方法と言葉にして意志を持たせる方法の2種に分けられる。

 術式を刻む方法は物に刻むことで使用者が魔力を送り込むことで発動するようにしてあるモノだ。
 この方法は物だけでなく、肉体に入れ墨という形で刻む方法や上位の精霊との契約により血に刻まれる場合がある。自身に距離的に近い程、術式は強力になると言われ、血に刻まれる方法は最高効率の術式とされるが、契約を解除することが出来ないため、一種の術式しか持てないと言われている。

 言葉にして意志を持たせる方法で有名なのが詠唱だ。術式によって決まった詠唱が有り、その詠唱を間違えることなく唱え、魔力を込めることで術が発動するものだ。この方法は決まった術式であるため、発動規模を変えることは出来るが、発現する事象は変更することが出来ない。
 詠唱以外の方法は魔力を帯びた声で世界を構成する精霊に働きかけ動かすことが出来る。術式は無く、使用魔力は大きいが、柔軟な対応と即応性を有しているため、普段使いに便利であり、大抵の魔法使いがこの方法を修めている。

「『風よ、我が背を押せ』」

 虎太郎は小さく呟く様に言霊を紡いだ。声に魔力を帯びさせ、風の向きを声の届く範囲だけ操った。
 すると、風が吹いた。指向性を持った風が虎太郎を避けるように、そして背を押すように、方向を変える。
 その風によって虎太郎の速度は上がり、虎太郎自身の走り方は変わっていないが、スピードは百メートルを10秒台にまで速くなっていった。

「これなら間に合うか‥‥」

 虎太郎は速度を維持しつつ、駅への道中を駆け抜けた。
 車では通れない道を通り、ショートカットすることで車で走った時よりよほど早かった。

 時刻は16時ちょうど、駅にたどり着いた。だが、目的のバス停には少し間に合わなかった。
 虎太郎がバス停に着いたのはそこから二分ほどだった後、目的のバス亭には人が数名いた。ここに目的の人物がいるはずだが、一体誰なのかは書かれていなかった。
 どうやって探すべきか、虎太郎は悩んでいた。だが、その必要はすぐに無くなった。

「風魔 虎太郎さんですね?」

 虎太郎の背後から女性の声が聞こえた。
 振り返るとそこには、同じ年頃の女子高生がそこにいた。

「っ‥‥」

 虎太郎は言葉に詰まった。いや、言葉が出なかった。
 引き寄せられた、周囲の風景が目に映らなかった、虎太郎はただ真っ直ぐに目の前の彼女を見ていることしかできなかった。
 長い黒髪がさらりと風に揺れる、虎太郎より少し低い背丈ゆえに見上げるように虎太郎を見ている黒い瞳に、何処か見覚えのある学生服と短めのスカートからのぞく白く輝く様な足が、虎太郎には全てが見てはいけないような気がしてしまうがそれでも見てしまう男の性に支配されていた。

「あの~‥‥」
「あ! あ、ああ‥‥俺は風魔 虎太郎だが‥‥」

 再度の声掛けで漸く虎太郎は再起動した。

「やっぱりそうでしたか。坂之上さんから風魔さんが来られると聞いておりましたので‥‥」
「俺の事を、知っているのか?」
「ええ、遠目にですけどお見かけしたことがあります。こんなに近くで見るのは初めてですけど」
「!?」

 彼女は顔を近づける。彼女の瞳に虎太郎の姿が見える程に間近に迫っていた。
 虎太郎は慌てて後退った。

「お、俺は、君の事は‥‥」
「知らなくても仕方ありません。私も昨年の代表ではありましたけど、試合にも出れませんでした。貴方みたいに華々しい活躍も出来ませんでしたので」
「昨年、活躍? 一体何を‥‥ん。そうか、思い出した。その制服‥‥『近畿』か!」

 魔法学園は日本全国に8つある。北海道、東北、関東、中部、近畿、中国、四国、九州、各地方に一か所ずつ配置されている。
 虎太郎がいるのは関東、配置されているのは東京に置かれていた。対して彼女は近畿に属しており、京都に学園が配置されている。

「はい、魔法学園近畿分校の制服です。昨年度の関東本校一年生代表の風魔 虎太郎さん」
「ふぅーん‥‥俺、多少は知られてるんだ」
「ええ、昨年の代表戦でうちの3年の先輩を倒したことで有名になられましたよ。‥‥ああ、そうでした。もう、『うちの』ではありませんでしたね。『近畿の』と呼ばなくては」
「呼び方に違いがあるのか?」
「ええ、なぜなら‥‥私、明日から『関東の』所属になりますので」

 彼女はその場で佇まいを整え、綺麗な所作で一礼した。

「魔法学園関東本校所属2年炎城えんじょう 飛鳥あすか。お見知り置きを」
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