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迷宮前の広場
しおりを挟む迷宮進行に先立ち、第六騎士団団長および、第一騎士団団長から諸注意が伝えられた。
ひとつ、この探索の結果次第では上位団に移籍もあるということ。
そのためにも第六騎士団にはそれぞれ上位団の騎士らが付き、連携や戦い方を見るという。ただし基本的には手を出さず、遭遇した魔物は第六騎士団の者たちで対処すること。
ひとつ、凶悪は魔物は居ない迷宮だが「絶対」ということはない。
迷宮は特に魔物が自然発生しやすい場所だ。数々の魔法の仕掛け、呪い、先住魔物による召喚など、原因は様々。そして状況も刻一刻と変化していく。
手に負えない魔物に遭遇した時は、躊躇なく上位騎士団の援護を受けること。
ひとつ、大怪我にはならないよう、魔物討伐より防御を優先すること。
目的は第六騎士団の実力を測ることで、掃討作戦ではない。自らを盾とするような無理な戦い方は厳禁とする。また騎士は常に魔法師の状態を確認し、安全に、かつ有効的に行動できるよう振舞うこと。
主に、以上の言葉を伝えられ私は少し安堵に胸を撫でおろした。
先日の王都での彼の告白の通りなら、無理を押してでも功績を上げようということは無い。
団長の言葉を無視して、勝手な行動に出ることもなければ安心できる。私の魔力が完全ではない今、万が一の時に対応できないのでは、というのが一番の心配だったのだから。
けれど今日は上位騎士団もサポートに着くという。
基本的に手は出さないとの話だが、命に係わるギリギリのラインは見定めるだろう。
と、息つく私の横で、モーガンが手を上げた。
「質問を」
「モーガンが、何だ?」
第六騎士団団長が目に留め、答える。
モーガンは一歩前に出て声を上げた。
「万が一、上位騎士団とはぐれてしまった時はどうするのですか?」
「はぐれた時?」
「ええ、攻略済みの迷宮とはいえ、どんな魔物がいるか分からないのであれば、混戦となりはぐれてしまうこともあり得るはず」
言って、第一騎士団長の近くに立つ、エヴァン様やダニエル様の方に視線を向けた。
嫌な予感がする。
「臨機応変の対応がいると思うのですが、そのような場合も必ず合流しなおさなければならないものでしょうか? 場合によっては現場判断で、迷宮脱出を優先した方がいいのでは? 特に怪我人など出た時は」
討伐より身の安全を優先というのであれば、そのような可能性もある。
我々よりも能力の高い上位騎士団とはぐれて、再開できずに脱出、なんてことはあり得ないように思うのだけれどゼロではない。
いや、ゼロどころか大いにありうる。
モーガンは仲間内とだけで戦いたいタイプだ。
表向きは上団長や上位騎士団員、または上位貴族の言葉に従っていても、自分が一番となって動きたい。あれこれ指図されるのを嫌う。
だったら魔物との戦闘を機に、わざとはぐれる、ということもやりかねない。
そう読んだ私の心に気づいたのか、モーガンがちらりと私の方を見て口の端を上げた。
第六騎士団長ロバート様は、「ううむ」と唸ってから答えた。
「状況次第だ。上位騎士団員と合流を目指してもらいたいが、万が一怪我人が出た場合は迷宮脱出もやむを得ない」
「了解いたしました」
満足そうな返答で、話はチーム編成と移りそれぞれで集合となった。
モーガンが私の腰を抱き寄せ、耳元で囁く。
「セシル、分かったな? タイミングを見て監視の上位騎士団から離脱するんだ」
「モーガン様……」
「お前の気配を殺す魔法なら、どんな魔法師も簡単に追って来られない。適当に魔物を倒し魔石を手土産にして、軽い怪我を理由に迷宮を脱出すればいい」
「それでは……連携や戦い方を見ていただくことができません」
言って、無駄だったと口を噤む。
モーガンはむっとした顔になりながら続けた。
「別に見てもらう必要は無い。上位騎士団など邪魔なだけだ」
彼がそう言うのであれば全てだ。
モーガンは第六の二組の仲間とも同じように計画を耳打ちし合い、タイミングの合図を決めた。その時、私たちに付き添う上位騎士団が来た。
顔を見て、胸が痛む。
「第一騎士団より、エヴァン・アシュクロフトが同行する」
「第二騎士団、ダニエル・アシュクロフトだ」
「その片翼、魔法師のリオン・エイミスだよ。今日は一日、よろしくね」
迷宮前の広場で姿を見てから、もしや……とは思っていたけれど、本当に私たちのチームに同行してくださるとは。
嬉しさと同時に、申し訳なさが湧き上がる。
先日の王城での出来事を謝罪したい。
「あの、この間は……」
「セシル、体調は良くなった?」
リオンが明るい声で声をかけてきた。
私は、「は、はい」とだけ答えて頷く。
「ちょっと顔色悪そうだけど、ちゃんと食べた? 今日は無理しないで行こうね」
「はい」
今ここで、あの時の話題を口にするのは失礼だろうか。
そう思いなおし、私はぺこりと頭を下げる。じっと私を見つめていたエヴァン様はすっと瞳を細め頷いた。きっとまだお怒りでいらっしゃるのだろう。
「気をつけて参ります」
「無理はなさらぬように」
静かな言葉が返る。
無視されるわけではない。
あのようなことがあってお怒りでも、まだ私の言葉に応えてくださる。
たったそれだけが嬉しくて、胸の内が熱くなるのを感じた。
この感情は一体何なのだろう。
ほっと息をつく私の隣で、モーガンは黙ってこちらを見つめていた。
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