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第一章 冒険者に拾われた僕
21 アラン・警告
しおりを挟む真っ直ぐ見上げるサシャの視線を感じる。
「ねぇ……いつもじゃなくてもいいんだ。僕がついて行っても大丈夫な時は、連れて行ってよ。きっと役に立つからさ。ねぇ」
何なんだ。
甘えた声でおねだりする。
こういう物欲しそうな態度は好きじゃない。はずなのに、何故か「うるせぇ」と言って振り払えないでいる。
両親と故郷をいっぺんに失って、俺しか頼る者がいないせいもあるのだろう。
自分は役に立って捨てられないようにする。俺からは捨てない、と言っていても、サシャ自身がそう実感できなければダメなんだ。
それに何故か……サシャのお願いは、あまり嫌だという感覚が無い。
相手が子供だからというよりも、サシャ自身に裏表がないからだ。
俺にものを頼む奴は、たいていその裏に、駆け引きめいた意図を持っている。そいつを読み取って騙されないようにするのが当たり前で、だからこそ、純粋に頼りにされるのがひどく慣れない。
「あぁ……わかったよ。お前にでもできそうな依頼の時は、連れて行ってやるよ」
「うん! 絶対だよ!」
花が綻ぶように笑うサシャは、ご機嫌な声で前を向く。
この数日、共に過ごしてして更に実感した。
男のくせに少女のような愛らしさを持つサシャは、悪い大人に目を付けられたならあっという間に嬲り者にされるだろう。頑強な屋敷に閉じ込められ、一生慰み者として飼われるかもしれない。
こいつは……どんなにお偉い貴族の護衛より、厄介だ。
「ったく……」
「何?」
「いや、何でもねぇよ」
自分で果たすと決めたのだから、ただ淡々と依頼をこなすように動けばいい。
なのに何故か……ひどく感情をかき回されて、ここうと定めた決意さえも揺れ動く。俺の中に眠る獣人としての本能が、こいつは見かけだけではなく、何か大きな秘密を抱えていると警告し始めているんだ。
ぐだぐだ考えたところで、答えは出ないというのに。
「アラン、ねぇアラン」
「何だ?」
「草花たちが言っているよ。村にお客さんが来ているんだって」
「お客さん?」
言われてみれば、遠くから漂う匂いに違和感を覚える。
血や死臭はしないから、盗賊の類ではないだろうが鉄の匂いが交ざる。剣や槍持ち、鎧の者たちが大勢いるんだ。それと馬。商隊とも違う。
こんな辺境に何の客だ?
考え事をしていて気づくのが遅れた。冒険者としては失格だ。
「サシャ、毛布を羽織って血のついた服を隠しておけ」
「う……うん」
いつものように途中で休憩を挟みつつ、昼を過ぎた辺りでマイナ村にたどり着いた時、サシャの警告の意味を知った。
俺は今回、この果ての草原地帯に来た時、村を通過しないルートを通っていた。だからマイナ村を訪れるのは数年ぶりになる。
以前は冒険者になったばかりの頃だ。それも薬草採取の研究をしている学者たちの護衛の、更に見習いという立場で、村の者たちと直接交渉事をしてはいなかった。
村にたどり着くと、サシャが言っていた通り、多くの人でにぎわっていた。
一瞬、祭かと思ったが違う。
どこか物々しい雰囲気の兵士がいる。遠くには騎馬の小隊までいる。
「すごいねぇ、人がいっぱいだ」
「あぁ……お前がいた集落とは比べものにならないだろう」
遠巻きで眺め、俺は顔を顰める。
遠征というより、まるでこれから戦にでも出よう、という様子じゃないか。旗持ちの兵士を見つけて、俺の視線は更に鋭くなった。
黄色の縁取りをした空色の生地に、大鳳と竜の模様が描かれている。それらが見上げるのは月と太陽を象徴したものだ。
――バルツァーレク公爵家の紋章。
何だったそんなお偉いさんたちの小隊が、こんな辺境の村に来ているんだ?
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