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第二章 冒険者ギルド
43 帰還の宴
しおりを挟む階段下の部屋は、一階のフロアの半分よりちょっと広いくらい。それでもテーブルはパッと見ただけでも十くらいあったし、壁がわにもたくさん並んでいる。
部屋の奥は厨房なのか、エプロンをした数人の女の人が出たり入ったりしていた。
ざわざわとした穏やかな話し声と、食器が鳴る音。
一人から数人のグループで、三、四組の人たちがめいめいに食事を取ったり、お酒を飲んでいる。そこに、僕を片腕で抱きかかえたままのアランと数人の冒険者たちが下りて行った。
階段に一番近い席で、食事とお酒を飲んでいた人たちが、アランの姿に気づいて顔を上げる。
「よぉ! アラン!」
「元気か?」
「ああ、稼いでるぜ。お前こそずいぶん長く顔を出さないでよ」
「アラン、くたばってなかったのか!」
それぞれに声を掛けて来て、アランを歓迎する。
飯屋……というか食堂というか酒場というか。ごっちゃな雰囲気の中央近くの席で、冒険者たちがイスを引いてくれたのを合図に、僕は下ろされ座った。
エプロンのお姉さんたちも駆け寄ってきて、アランの周りにはあっという間に人だかりになる。
「今回は長かったわね」
「寂しかったよ~! アラン~!」
「俺もここの飯が喰えねぇのは寂しかったな」
「あら、アタシに会えないのが、じゃないの?」
「おめぇには旦那がいるだろうが」
笑いが溢れる。
何も注文を言わないうちから、飲み物と食べ物が運ばれてくる。
「なぁなぁ、この可愛い子はいったい何だ?」
「俺の家族になったサシャだ。これからよろしく頼むぜ」
「家族?」
ここでも上の階と同じような反応が返ってくる。
クレメントさんに訊かれた時はどもっていたアランも、ここでは淀みなく受け応えしていた。
「え、それじゃあ、あの邪竜に滅ぼされた隣国まで行ってたって言うのか?」
「ああ……去年の遠征で気になる匂いがあってよ。何の情報も無かったんだが、ほら、夏のデカい依頼でけっこうな報酬をもらったから、ちょっと気晴らしの旅もかねて足を延ばしてみたんだ」
「現地でいろいろ訊き込んで?」
「そういうこと」
山のような肉や野菜炒め。湯気の立つスープに、小麦色のパン。
こんなに食べられないよ……という程の料理がテーブルにのって、僕の前の皿にも取り分けられる。
僕の右隣には子供好きそうな白髪のお爺さんが座った。
僕と大きく背丈も変わらない、骨ばった小柄なお爺さんだけど、赤茶色の瞳は鋭く辺りを見渡していて現役の冒険者か剣士という感じだ。
向かいの席には大柄な髭のおじさんやら、狩人のような若いお兄さん。魔法使い系のローブを着たお姉さんなど……人種も性別も年齢も、様々な人たちが立ち替わりアランと乾杯して声をかけていく。
「その……アランの生き別れていた姉が……」
「サシャの母親だ。長く病を患っていたようでよ、大して話もできずに最期をみとることになっちまった」
「そっかぁ……サシャくんはアランだけが唯一の肉親なんだなぁ」
そう言って、髭のおじさんが涙ぐむ。
泣き上戸な人なのか……それとも、もう酔っ払っているのかな。
「寂しいなぁ。でもアランが居れば、寂しくないなぁ」
「はい……」
下手なことを言わないように、僕はできるだけ黙っている。
けど、アランが居れば寂しくないのは本当だ。僕は左隣に座るアランを見上げた。
「僕……この国のこと何も分からなくて。アランが優しく教えてくれたんです」
「アランが、優しく?」
数人の驚いた声が重なる。
変なことじゃない。本当のことなのに。
アランが口をへの字に曲げて、発酵酒のコップを傾けた。
「なんだよ。俺だって何も分からないガキには、優しいんだよ」
「何も分からないからって、変なことされなかったかい?」
「ヘンナコト?」
こてん、と首をかしげる。口は悪いし乱暴なところはあるけれど、ずっと僕には優しかった。隣でアランが犬歯を剥き出して唸る。
「おい、チビに変なこと教えるなよ」
「あははは! アランにその手の話は冗談でもダメよぉ、獣人の血を持つ者は、子供や番を守る気持ちが人一倍強いんだから。たとえ耳や尻尾が無くてもね」
冒険者らしい簡易鎧のお姉さんが大きな声で笑った。
アランは僕から視線を逸らして、「ふん」と鼻を鳴らす。
そして僕は……次々と投げかけられる質問や、たくさんの人や、お酒の匂いに頭がくらくらし始めていた。
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