冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

文字の大きさ
43 / 281
第二章 冒険者ギルド

43 帰還の宴

しおりを挟む
 


 階段下の部屋は、一階のフロアの半分よりちょっと広いくらい。それでもテーブルはパッと見ただけでも十くらいあったし、壁がわにもたくさん並んでいる。
 部屋の奥は厨房なのか、エプロンをした数人の女の人が出たり入ったりしていた。

 ざわざわとした穏やかな話し声と、食器が鳴る音。
 一人から数人のグループで、三、四組の人たちがめいめいに食事を取ったり、お酒を飲んでいる。そこに、僕を片腕で抱きかかえたままのアランと数人の冒険者たちが下りて行った。
 階段に一番近い席で、食事とお酒を飲んでいた人たちが、アランの姿に気づいて顔を上げる。

「よぉ! アラン!」
「元気か?」
「ああ、稼いでるぜ。お前こそずいぶん長く顔を出さないでよ」
「アラン、くたばってなかったのか!」

 それぞれに声を掛けて来て、アランを歓迎する。
 飯屋……というか食堂というか酒場というか。ごっちゃな雰囲気の中央近くの席で、冒険者たちがイスを引いてくれたのを合図に、僕は下ろされ座った。
 エプロンのお姉さんたちも駆け寄ってきて、アランの周りにはあっという間に人だかりになる。

「今回は長かったわね」
「寂しかったよ~! アラン~!」
「俺もここの飯が喰えねぇのは寂しかったな」
「あら、アタシに会えないのが、じゃないの?」
「おめぇには旦那がいるだろうが」

 笑いが溢れる。
 何も注文を言わないうちから、飲み物と食べ物が運ばれてくる。

「なぁなぁ、この可愛い子はいったい何だ?」
「俺の家族になったサシャだ。これからよろしく頼むぜ」
「家族?」

 ここでも上の階と同じような反応が返ってくる。
 クレメントさんに訊かれた時はどもっていたアランも、ここでは淀みなく受け応えしていた。

「え、それじゃあ、あの邪竜に滅ぼされた隣国まで行ってたって言うのか?」
「ああ……去年の遠征で気になる匂いがあってよ。何の情報も無かったんだが、ほら、夏のデカい依頼でけっこうな報酬をもらったから、ちょっと気晴らしの旅もかねて足を延ばしてみたんだ」
「現地でいろいろ訊き込んで?」
「そういうこと」

 山のような肉や野菜炒め。湯気の立つスープに、小麦色のパン。
 こんなに食べられないよ……という程の料理がテーブルにのって、僕の前の皿にも取り分けられる。

 僕の右隣には子供好きそうな白髪のお爺さんが座った。
 僕と大きく背丈も変わらない、骨ばった小柄なお爺さんだけど、赤茶色の瞳は鋭く辺りを見渡していて現役の冒険者か剣士という感じだ。
 向かいの席には大柄な髭のおじさんやら、狩人のような若いお兄さん。魔法使い系のローブを着たお姉さんなど……人種も性別も年齢も、様々な人たちが立ち替わりアランと乾杯して声をかけていく。

「その……アランの生き別れていた姉が……」
「サシャの母親だ。長くやまいを患っていたようでよ、大して話もできずに最期さいごをみとることになっちまった」
「そっかぁ……サシャくんはアランだけが唯一の肉親なんだなぁ」

 そう言って、髭のおじさんが涙ぐむ。
 泣き上戸な人なのか……それとも、もう酔っ払っているのかな。

「寂しいなぁ。でもアランが居れば、寂しくないなぁ」
「はい……」

 下手なことを言わないように、僕はできるだけ黙っている。
 けど、アランが居れば寂しくないのは本当だ。僕は左隣に座るアランを見上げた。

「僕……この国のこと何も分からなくて。アランが優しく教えてくれたんです」
?」

 数人の驚いた声が重なる。
 変なことじゃない。本当のことなのに。
 アランが口をへの字に曲げて、発酵酒のコップを傾けた。

「なんだよ。俺だって何も分からないガキには、優しいんだよ」
「何も分からないからって、変なことされなかったかい?」
「ヘンナコト?」

 こてん、と首をかしげる。口は悪いし乱暴なところはあるけれど、ずっと僕には優しかった。隣でアランが犬歯を剥き出して唸る。

「おい、チビに変なこと教えるなよ」
「あははは! アランにその手の話は冗談でもダメよぉ、獣人の血を持つ者は、子供やつがいを守る気持ちが人一倍強いんだから。たとえ耳や尻尾が無くてもね」

 冒険者らしい簡易鎧のお姉さんが大きな声で笑った。
 アランは僕から視線を逸らして、「ふん」と鼻を鳴らす。

 そして僕は……次々と投げかけられる質問や、たくさんの人や、お酒の匂いに頭がくらくらし始めていた。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

処理中です...