冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第三章 試練の町カサル

101 アラン・ワガママなのは自覚している

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 日の沈んだ東門は、俺の予想通りすでに固く閉じられていた。
 陽の入りから翌朝の日の出までを担当する門番が、俺の姿に気づいて声をかけてくる。俺は足早に向かい、歓迎するような人々と挨拶を交わした。

「アランさん! 試験に行っていたんですよね!」
Bベルナルトランク無事合格ですか?」
「ばぁーか、アランさんだぞ、合格に決まってるじゃねぇか!」

 気さくな声に「合格した」と短く答える。と同時に、門番たちから歓声があがった。
 方々から、「おめでとうございます!」と声をかけられる。ギルドマスターとなるほどの資格を得た冒険者が増えるのは、街にとって何よりの出来事だ。かつては俺もそのランクに憧れ、がむしゃらに修行を重ねて来た一人なのだから。

 だが今の俺は、自身の合格よりサシャの行方が重要だった。
 祝いだ、酒だ、と上がる声をさえぎって、俺は門番たちに声をかけた。

「すまない。実は人を探している。俺と同居しているサシャを見た者はいないか?」
「アランさんの甥っ子のサシャ君ですか?」
「そうだ。今日の昼前、ラクムの丘へ薬草採取をするため、この東門を通っているはずなんだ。閉門前に戻っていたかを知りたい」

 門番たちが顔を見合わせる。
 トラブルのあった旅人や商人、要人などが通れば、交代した門番にも申し送りがあるはずだ。だが居合わせた者たちは特に何も聞いていなかったようで、首をかしげている。
 門番の中で一番年配の者が、俺に向き直った。

「閉門間際、何人かが馬で駆け込んだようだが、その中にサシャ君がいたかどうかは分からないですな。この町の馴染みの者ならば、顔を見るだけで通過できる。門に一番近い場所で警護していた者なら、記憶しているでしょうが……」
「もう、皆帰宅してしまっているしな」
「生薬ギルドの方には戻ってきていないんですか?」

 周囲の年若い門番たち口々に言い、一人が訊いてきた。

「ギルドには既に行って来たが戻っていない。ギルマスのヨゼフさんは、おそらく閉門に間に合わず野宿しているのだろうと」
「一人で?」
「いや。冒険者を一人、警護につけている」
「よかった。でしたら閉門に間に合わずとも大丈夫ですよ」

 ほっとした顔で門番たちは顔を見合わせた。
 子供を一人で野宿させたなら、どんな危険にさらされるか分からないが、警護の供を連れているのなら大丈夫だと。

 凶悪な魔物がうろつく辺境なら、一人二人の警護では心もとない。
 だがおそらくサシャがいるのはこの町の外壁近くか、ラクムの丘までの街道ぞいだ。このカサルの町の近辺で危険な魔物や盗賊がいれば、門番にも情報がいく。決して油断はできなくても、そのような報せが無い以上、心配はしなくていいと思うのが当然だ。
 だが……俺の心配はそこじゃない。

 あのサシャが、町の外で、俺以外の男と夜を共にしているんだ。

 カレルを信用していないわけではないが、長く会っていない以上、今のあいつがどうなっているのか俺は知らない。サシャに乱暴をはたらくことは無くても、あいさつ程度に手を出さないともかぎらないじゃないか。
 肩を抱き、キスのひとつぐらいするかもしれない。
 いやそれ以上に、俺とサシャが旅していた頃のように、冷える夜風から暖をとろうと抱き合って眠ることだってあり得る。そのままいい雰囲気にならないとも言えない。

 サシャは無垢で何も知らないんだ。
 口に乗せられて、何も分からないまま受け入れてしまうことだって。

 あいつが……俺以外の男に抱かれるかもしれない。

 嫌な想像に、胸が絞られそうになる。

「すまない、壁の外でサシャが野宿していないか確かめたい」
「ですが……既に閉門を……」
「緊急の用件でなければ閉門後は出入りできないと知っている。だが……これは、俺にとって大事なことなんだ」

 門番たちは顔を見合わせた。
 二ヶ月以上も一人で留守番させながら、今更だろうという思う自分もいる。だが……これまで、あいつの周りに近しい男の影は無かった。二人きりで夜を明かすということも。
 ワガママなのは自覚している。
 きっと心配しすぎだと思っただろう。
 ……俺も、サシャでなければ、ここまでのことはしない。

 俺の切羽詰まった顔色を見てか、今夜のリーダーを務める年配の門番が苦笑しながら言った。

「分かりましたよ。お通ししましょう」
「本当か! すまない」
「いいえ、アランさんには何度もこの町や、人々を救っていただいたんです。ちょっとした恩返しですよ。丁度、深夜零時に見回りで裏扉を開けます。その時までに戻らなければ、朝の開門まで町には入れません。それでいいですか?」

 門の側に設置されている時計を仰ぎ見た。今は夜の九時前、東門の周囲を探すには十分だ。

「それでいい。重ねて礼を言う」

 丁寧に感謝の意を伝えると、皆が同じように笑顔になった。
 俺は年配の門番に案内されながら、普段は関係者以外絶対に通ることのできない通路を伝い、町の外に出た。
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