冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第三章 試練の町カサル

113 お前のお宝を見せてくれよ

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 アランがパッと明るい顔をした瞬間に、僕を見て微妙な表情になる。
 ……これは、僕が邪魔になっちゃう……っていうパターンかな。
 アランはあまり、僕と冒険者仲間を会わせたがらない。きっと僕には聞かれたくない話があるのだろう。

「アラン。知り合いがいるなら、僕は帰った方がいい……よね?」
「いや」

 そう言って僕の腰に腕を回した。
 ガードする時のポーズ、だけれど……僕も居ていい、ということ?

 ラドヴァンと呼ばれたのは、三十歳前後の無精髭ぶしょうひげの男の人だ。焦げ茶の髪に黒に近いほどの茶色の瞳。背は高そうで、肩幅や胸の厚みはアランよりある。この町では見たことのない顔だけれど、新たに知り合いになった人だろうか。
 そのラドヴァンさんが、アランと僕を呼んだ。

「よぉ、その子が噂のサシャくんか?」
「あぁ……。サシャ、こいつらは今回の昇級試験で同じ遺跡を探索したチームの奴だ。この髭面ひげづらがラドヴァン。そいつがモリ、ハンス、ブリーナル、ジャン」
「こんにちは」
「髭面とはひでぇなぁ」

 ラドヴァンさんが髭の顎を撫でながら笑う。
 順番に紹介された冒険者たちが軽く挨拶しながら、席を二つ用意してしまった。今から他の席に……というのも、微妙な感じになってしまう。
 アランもしょうがないという顔で、冒険者たちとのテーブルについた。
 さっそくラドヴァンさんがアランのカップにお酒を注ぐ。

「昼間に狂戦士ベルセルクの爪に行ったんだけどよ、お前、居ないって言うし」
「あぁ……帰って寝てた」
「はははは! さすがのアランも巣に戻ってまで不眠不休は無理か」
「その横の可愛い子と一緒にか?」
「お宝だもんな」
「あったりまえだろ」

 豪快な笑い声が飛び交う。
 僕は目の前の人たちに、幾つだ? とか、どこのギルドにいるんだ? と言った質問を浴びせられて、なんだか緊張しながら答えていた。
 皆の人気者のアランの隣に、僕みたいな子供がいるのはきっと不釣り合いなんだろあな……と、思いながら。
 僕の隣の席の、ハンスと紹介してもらった――たぶんアランより五歳くらい年上の人が、「綺麗な髪だな」と笑いながらが頭を撫でる。
 その手をアランが追い払うを繰り返して、僕はますます肩を小さくさせた。

「アランの奴、魔物と戦ってる間も、いーっつもカサルの町に残してきた子のこと考えていたんだせ」
「ああ。心配だぁ、早く帰りたいぃ~ってな」
「いつもじゃねぇだろ!」

 目元を赤くしてアランが言い返す。
 カサルの町に残してきた子……戦っている間もずっと考えていたというのは、きっとマロシュのことだ。
 そっか……そうだよね。町に戻ってすぐに会うくらいなのだから。
 僕は、えへへ、と笑いながら気持ちをごまかす。
 せっかく皆が楽しんでいるのに、一人浮かない顔をしていたらダメだ。

 気さくな冒険者たちは、僕のお皿にもたっぷり料理をのせて杯を交わし合う。
 遺跡でどれだけアランが活躍したか。複雑な仕掛けに惑わされて、怪我をした人も少なくない。けれどアランはいつも最初に危機を察知して、魔物には容赦ない一撃で進んでいったのだと。
 皆、アランにとても感謝しているのだと、肌で感じる。

「おかげで、俺たちのチームの生還率はいつもトップだからな」
「生きて地上に出られるなんざ、ありがてぇ……」
「生きて戻るのは当たり前だろ」

 豪快に肉に齧りつきながらアランが答える。

「死んだら泣かれるからな。怪我をしても泣くし」

 そう言って、チラリと僕を見た。
 アランの体に残る古傷を見る度に、悲しい気持ちになるのは止められない。時々、今でも痛むことがあるみたいだし。冒険者に怪我はつきものだと分かっているけれどさ。
 カップを握りながら、僕はアランを見上げる。

「うん。ひどい怪我なんか……しないで」
「ぐっ……わ、わーかってるよ!」

 そう言って、目元を赤くしながらガシガシと僕の頭を撫でる。
 アラン……お酒、飲み過ぎじゃないのかな。さっきからいつも以上に顔が赤い気がする。冒険者たちもニヤニヤしながらアランを見ている。

 昔、僕はアラン帰還の歓迎の席で熱を出したこともあって、こういう席で一緒になることはほとんどない。
 冒険者としては若い部類に入るアランは、いつもこんなふうに年上の人たちに可愛がられているんだな……と思うと、不思議な感じだ。
 僕の好きな人が皆に大切にされている。
 それだけで、自分のことのように嬉しく感じる。

 笑いながら頬杖ついているラドヴァンさんが話し掛ける。

「アランのお宝はよーくわかった。なぁ、サシャくんは何かお宝を持ってるのかい?」
「お宝……宝物、ですか?」
「そうそう。アランにいっぱい貢がれてるんだろ?」
「みつぐ? えぇっと……」

 一応、育ててもらっているからご飯から着る物まで、全部アランが買ってくれているけれど、それとは違うのだろうか。
 ……と考えて、一番大切な物を思い出した。

「宝物はあります。アランから貰った魔石」

 首にかけていた古い小さな布袋を取り出した。
 このカサルの町に来る前、道中で魔物を倒して手に入れた魔獣の魔石だ。大した魔力の無いクズ石と言われているけれど、僕にとっては一番の宝物。
 琥珀色の小指ぐらいの大きさの石を、僕は手のひらにのせた。
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