冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第四章 二人の道

148 王都バラン、バークレイ城

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 僕らが暮らしていたカサルの町は、交易が盛んで人も物も多い大きな町だったけれど、王都はその比じゃなかった。
 古く歴史のある、城のように大きな建物を囲むように町が広がり、それが二つ三つとある。それらの周辺都市の中央には、巨大な塔のようにそびえ立つひときわ立派な城があった。
 馬車の窓から眺める僕に、ザハリアーシュ様が教えて下さる。

「あの中央にある城が、王城ですよ」
「すごい……町の中に町があるみたいだ」
「ええ、王城の周囲には五大英霊を祭る神殿の他、王城を守護する国軍の施設や治療院。各種官僚施設に、国の将来を担う子供たちを教育する王立学園もございます。それだけで一つの町といえる規模です」

 言葉を失う僕に、ザハリアーシュ様が微笑む。
 僕が育った森は広大だったけれど、集落に暮らしていた人たちは僕を含めて十九人だった。数万人と聞いているカサルの町は、あの地域ではかなり人の多い都市だったのに、王都は更にその数倍になる。
 そして、その城の頂きにいるお方がこの国の王様、オレクサンドル・バラーシュ国王陛下だ。お歳は五十を少し過ぎたぐらいのはず。今は体調を崩されていると、噂に聞いたことがある。

 僕は国の難しいことは何も分からないけれど、これだけ大きな国を治めているお方なのだから、きっと心配事も多いのだろうな……と思ったりもする。
 魔物の問題もその一つだろう。
 アランが一体でも魔物を多く倒したのだと知れば、国王陛下も少しは喜んで下さるだろうか。僕らか今回、こうして王城に来たのも、きっとそう言った理由なのだろうと思う。

 町の端から王城の麓にたどり着くまで半日近く。そこで軽く昼の休みを取ると、馬替えをして僕らはまた馬車に乗り込んだ。これからはひたすら上りの道。馬も、上り坂に強い屈強くっきょうな体をしている。

「この坂を歩いて上ったら、丸一日かかりそうですね」
「さようです。ですから、民が王城まで上ることはまれですね」

 貴族を始めとした選ばれ人達だけが住まう場所……ということだろうか。

「別世界に行くみたいだ」
「王城のあるここからの地域は、バークレイと呼ばれる聖なる山でした。その山頂に精霊のお力を借りて築き上げられたのが、数百年と続くバークレイ城でございます」
「精霊の力を借りて……」
「はい。ですので、王城はこの国で一番、精霊の守りの堅い地であるのです」

 ザハリアーシュ様の説明を聞きながら、僕はだんだん強くなっていく精霊たちの声に耳を傾ける。
 ――来た。サシャが来た。やっと来た……と。
 まるで故郷の森にでも帰って来たみたいだ。

「……待っていたの?」

 呟きに、アランがちらりと僕を見た。




 馬車が王城の正門前に着いたのは、昼をだいぶ過ぎた頃。太陽は既に西に傾き始めていた。
 真っ白な外壁に、深い緑の屋根。幾つもの塔が立ち、随所に見張りの兵の姿がある。城を囲む幾つかの建物の外側は、切り立った崖にも思えるほど急な山の森になっていた。
 バラーシュ王国は長く他国と戦争をしていないけれど、この立地なら敵が攻めて来ることなんか不可能なんじゃないかと思えてしまう。

「サシャ殿、どうぞお手を」

 最初に馬車から下りたザハリアーシュ様が、僕に手を差し伸べる。
 ここでも、賓客ひんきゃくのような扱いに違和感を覚えながらも、あまり堂々とした公爵様の導きに嫌と言えず、僕はそのまま馬車を下りた。続くアラン。
 馬車の周囲には、多くの騎士や従者が並び出迎えに頭を下げた。

「ザハリアーシュ様、無事のお戻りを」
「うむ。他の者たちは?」
「クサヴェル様は馬車の到着を耳に、こちらに向かっております」
「陛下は?」
「お部屋にて。本日はお休みする事無くお待ちでございます」

 ザハリアーシュ様が頷く。
 きっちりとした身なりの、初老の男性がザハリアーシュ様の問いに的確に答えていく。そして僕の方に向き直り、深々と頭を下げ丁寧な挨拶をした。

「王城の一切を取り仕切ります宮宰きゅうさい、ホレス・アストリーと申します。何なりとお申し付けください」
「あ、はい。あの……サシャです」

 何と言って答えていいか分からず、普通に名乗ってしまった。
 僕の答え方がおかしかったのか、ホレス様は瞳を細めて微笑んだ。そして道を譲るように一歩身を引いて言う。

「ではこちらに、国王陛下がお待ちでございます」

 国王陛下!
 国の偉い人に会うのだろうとは思っていたけれど、まさかの国王陛下!?
 ザハリアーシュ様が、呆然としていた僕の背を軽く押す。ホレス様の先導に続いて、僕の半歩前を行くのはザハリアーシュ様と竜人のハヴェル様。アランは僕の一歩斜め後ろにつき、その後ろを騎士たちと従者が続く。

 まるで行列だ。

 煌びやかな王宮の中に踏み込む、その荘厳さに驚く間もなく、突然僕らは呼び止められた。

「お待ちください! ザハリアーシュ様!」
「これはこれは宰相……クサヴェル・クバーン閣下」

 ザハリアーシュ様が悠然と答える。宰相と言われたクサヴェル様は、鋭い目つきで僕とアランを見た。

「そのような下賎げせんの者を、この王城に入れるとは何事ですかな?」
「ほぅ……下賎と申される。凶悪な魔物を何体も倒し、国を未来を担う方を下賎と。クサヴェル様は精霊のお声が届いておられないご様子」

 答えたザハリアーシュ様の声には、怒気が含まれていた。
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