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第四章 二人の道
152 愛し子の奇跡
しおりを挟む身支度を整えたオレクサンドル国王陛下を中心に、スラヴェナ神殿へと向かう。
陛下は杖をついていらしたけれど足取りはしっかりしていて、ずっと病に伏せっていたお方のように見えない。
先導はホレス・アストリー宮中伯。更に従者や騎士が行き、陛下の後ろに僕が続く。陛下の側近はもちろん、僕の側にはザハリアーシュ様とご友人まハヴェル様がついて下さっている。
王城の入り口で足止めをした宰相、クサヴェル・クバーン侯爵も駆けつけて来て、歩きながら経緯を聞いたのか、国王陛下に言葉をかけてきた。
聞こえて来たものは「このような者を神殿に連れて行く必要はない」とか「陛下自ら足を運ばなくてもいい」とか……。とにかくこの行列の足わ止めようとしているように見えなくもない。
でも、陛下も僕も立ち止まらなかった。
精霊たちが早く早くと急かしていたからだ。
五大英霊。
我がバラーシュ王国と近隣諸国は、数百年前に出現した凶悪な巨大魔物を倒した五人の英雄を、守護英霊として祭っている。
あらゆる武具の取り扱いに精通し作り上げることができた、ドワーフ族の老戦士ダリボル。計略に富んだ人間族の策士であり騎士、ツィリル。ツィリルはバラーシュ王国の王家の始祖とも言われている。
俊敏さと鋭敏な嗅覚、そして決してあきらめない鋼の精神の持ち主と言われたのは、獣人族の狂戦士ベルナルト。鋼の肉体を持ち、強靭さでは右に出るものは居なかった、龍族の重戦士、アーモス
そして……数多の精霊たちに愛されたエルフ族の姫。大いなる魔法の使い手だったと言われているのが、スラヴェナだ。
英霊スラヴェナは種族を問わず、信仰されている
銀の髪と濃い紫の瞳。スラヴェナの美しさはあらゆる花に譬えられている。彼女の行く先には季節を問わず美しい花が咲き乱れ、精霊たちが祝福したのだという。
多くは自分と同じ種族の英霊を祭る中で、精霊の愛し子スラヴェナだけは、種族を問わずに信仰されている。
そのようなこともあって、この王城の敷地内といっていいほどの近くに、スラヴェナ聖教の神殿があった。
そこは……王城に勝るとも劣らない、美しい建物だった。
周囲には色とりどりの花に溢れた庭園で、先を競うように咲き誇っている。美しく伸びた木の枝と、飛び変う蝶や鳥たち。降り注ぐ光は花々を輝かせて、そこは夢のように美しい所だった。
僕は思わず足を止め、「すごい……」と呟く。
同時に草花の精霊たちが、やっとき来た。サシャが来た、と笑いかけて来た。
「サシャ殿……」
そっとザハリアーシュ様に声をかけられて、僕は数歩先に進んだ国王陛下に続く。
陛下は僕を見て、優しく微笑んでいらした。
「精霊たちが祝福の言葉をかけてきているな」
「え? あ、はい……やっときた、って」
「皆、そなたを待っていたのだ」
陛下の言葉に合わせて柔らかな風が流れた。
ど同時に、花びらが舞い降りそそぐ。見れば春先に終わったはずの花が再び咲いて、まだ早い真夏や秋の花まで、花開き始めていた。
色鮮やかな蝶たちが僕らの周りを舞い。
鳥たちが歌う。
あらゆる季節の花が咲く、そんな様子に取り囲んでいた従者や騎士、そして貴族たちが声を上げた。
「奇跡だ……」
「……国を継ぐ者が現れた、しるしだ」
国を継ぐ者? 僕は首を傾げる。
と同時にずっと昔に国から出されたお触れを思い出した。
次代の王は「精霊の加護を受けた者である」といわれていた。その者は、「印として誰にでもそうと分かる奇跡を起こす」と。
「まさか……」
夢のように現実感が無いというのに。
進む神殿の奥、光り輝く拝殿には大神官長を始めとした、多くの人たちが集まり僕らを出迎えた。陛下よりも老齢の白髪をたたえた頭を下げ、国王陛下の指先に口づけをして敬う大神官長は、僕の方を見て優しく微笑む。
「お待ち申し上げておりました。精霊の愛し子。我がバラーシュ王国の未来を担うお方、王太子殿下よ」
その言葉に、僕は声を失った。
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