冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第四章 二人の道

159 葬送の旅

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 朝のスープに強い薬が入れられていた出来事があってから数日、僕は慌ただしい毎日を過ごしていた。

 事前に伝えられていた通り、多くの貴族や騎士、領主や商人の挨拶を受け、神殿での儀式や王族として行うことを説明されていく。友人レオの葬送が終わったら、それらも本格的に学び始めることになるのだろう。

 王城とその敷地内だけでもとんてもなく広いのに、城下町は更に幾つもの町が集めたほどに広い。一人で出歩いたら迷子になりそうだ。
 ……たぶん、もう一人で出歩くことなんかないのだろうな……と思いながら僕は目に見える景色を眺めて過ごした。
 そして数日後――葬送の準備が整ったとの連絡を受け、僕はザハリアーシュ様たちと共に、幼少期の頃に暮らしていた地、モルナシス大森林に向って旅立った。




 先導の馬車に続いて、六頭立ての馬車にはガラスの棺にはレオが納められている。
 続く馬車には僕とザハリアーシュ様、ご友人のハヴェル様、そして僕の従者レオンが乗り。その後にスラヴェナ神殿の神官や、国王陛下の名代となった貴族たちが続いた。

 とてつもなく大掛かりな行進だ。
 それもそのはず、棺に納められているのはオティーリエ王女の令息、サムエルということになっている。そして僕は今まで行方知れずになっていた、と、国民には伝えられていた。

 精霊の指示があったとはいえ、陛下が一度「我が孫である」とした者を、今更別人でしたとするわけにはいかない。
 僕自身も「サムエル」はあの日、村の人たちや母さまと一緒に死んだのだと思っている。今の僕はアランに会って生まれた者だ。だからそれでいいと了承した。

「故郷の墓石には、ご友人レオ殿のお名前で刻ませて頂きます。その隣に、御遺体は無いまま、サムエル殿下の墓標も立てることになるでしょう」
「それでいいです」

 故郷の森に着いたなら、僕は一人でも多くの遺体を探し埋葬すること。
 既に四年あまりの月日が流れているから、母さまを含め村の人たちは骨になっているだろう。それに向き合う覚悟を決めながら、僕は馬車に揺られる。
 そして十分に王都から離れた頃を見計らって、ザハリアーシュ様が伝えて来た。

「もうひとつ。先日のスープに毒となる強い薬が入れられていた件ですが」

 僕は隣に座るザハリアーシュ様に、気を引き締める思いで頷いた。

「王宮の薬師に化けた何者かが、給仕の者をたぶらかし混入させておりました」
「では……」
「直接入れた者は、それが毒となるとは知らなかったようです。薬瓶も、新しくもらう度に自分たちのスープに入れて確認し、問題ないと判断したうえで薬師の指示通りに入れていたのです」

 陛下の貴重な薬を、毒見とはいえ多く使うわけにはいかない。
 一、二ヶ月に一度だけその中身を口にして確認した範囲では、マラーオウは毒の作用を起こさず、結果、問題ないと誤認させることになった。

「時折、抜き打ちで王宮の治癒師や薬師が、陛下の口にする物を確認しておりましたが、そのタイミングで薬を入れていた給仕は休みを取るように指示されていたそうです。明らかに何者かが、治癒師たちに気づかれないよう操作していたのです」

 僕は深く息をついて瞼を閉じた。
 陛下に害をそうとした者が、僕にそこまで薬や毒に関する知識を持っていると思わなかったのだろう。だから今回の発覚につながったんだ。
 ……もし、もう数年。
 いや、数ヶ月来るのが遅かったなら、国王陛下はお亡くなりになっていたかもしれない。誰も真実には気付かず、ただの病気として。

「その……給仕は罰せられるのですか?」

 騙されていたとはいえ、陛下のお命を奪う行為をしていたんだ。きっとただでは済まないだろう。
 僕の表情を見て、ザハリアーシュ様は労わるように微笑み返した。

「陛下はその者に寛大な対処を指示されております。一族処刑とはなりません」

 そう言った言葉に、僕は体を固くして頷くしかなかった。
 陛下が指示された内容ではない。国王陛下を殺害しようとした者は本人だけでなく、その家族も処罰されるのだという事実に……。

 それが王族に危害を加える者の、罪の深さなんだ。
 
「僕も……」

 馬車の窓から街を眺め、呟くように言う。

「僕も、何も知らなかったその人と家族には、きつい処罰を下さないでもらえたらと思います。本当に悪いのは別の人なのですから……」

 頷くザハリアーシュ様に僕は、「お願いします」と繰り返した。
 馬車は、一見平和に見えるバラーシュ王国をゆく。目に映る世界はこんなにも穏やかなのに、王城では今もだれかが王の命を狙って動き回っている。
 そこに、これからは僕はも要り込んで行くことになる。

 大丈夫。
 僕には、僕を守ろうとしている人たちがいる。
 僕の将来を先読みしたアランも、可能なかぎり、あらゆる対処をしてくれていた。だから僕は何も不安に思わず、進み続ければいい。

 途中の町や村で、町の長や領主の歓迎を受ける。
 既に「王太子」として国民たちに広まっていた僕は人々の賛辞を受けながらやがて、モルナシス大森林までの途上にあるカサルの町へとたどり着いた。
 もうこの町には、帰らないだろうと思っていたのに……。

 馬車を下りて、僕はザハリアーシュ様に声をかけた。

「お願いがあります」
「なんなりと」
「長くお世話になっていた生薬ギルドのマスター、ヨゼフ・バルトンさんと、冒険者ギルドのマスター、クレメントさん、そしてヨハナさんにご挨拶に行きたいのです。もう……会えることも無いでしょうから」

 真っ直ぐに見上げる僕の視線にザハリアーシュ様は優しく微笑んで、「仰せのままに」と答えた。
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