冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

文字の大きさ
174 / 281
第五章 王立学園の王太子

174 必ず手に入れる

しおりを挟む
 


 教室はアーシュの言葉に静まり返った。

 上級生にとってはもう知っていることでも、改めて言葉にして聞くととんでもない話だ。種族を問わない……は、まぁあることだけど、性別も、それどころか生態も問わいなんて、いったいどんな魔法だと思う。
 けれど古い文献を紐解けば、聖獣や聖樹といったものは、エルフ族が生み出したものだと記されている。龍人族や獣人ですら、その一つとされているものもある。
 同時にその事実は一般には知られないよう秘密にもされてきた。
 理由は簡単だ。
 あまりにもだからだ。

 僕の左隣で驚きと笑いと、懐疑心の混ざったような顔で、マグノアリ王太子が声を上げた。

「性別どころか人でなくてもいいなんて信じられないな。エルフ族に生み出せない物なんて何もない、ってことになるじゃないか。一人居ればどんな生き物でも作り出せてしまう。どこの国でも欲しがるぞ」
「ええ、そのため今より凡そ370年前、諸国で大規模なエルフ狩りが行われました」

 各国がこぞってエルフ族を捕らえて、奇跡の生物を生み出させようとした。
 けれどそんなに都合よくいくものじゃない。結果、エルフ族は大きく数を減らし、精霊たちの怒りを買った国々は滅びの道を歩んだという。

 僕らの一族が森の奥で細々と、何重にも施した結界の中でひっそりと暮らしていたのもそのためだ。
 盗賊たちはその結界術を上回る攻撃で僕らを襲い、村は全滅した。
 今思えば彼らは、エルフ族を捕らえようとしていたんじゃない。最初から殺そうとしていた。その理由は分からないが僕一人が逃げ出せたこともまた、奇跡みたいなものだったのだと思う。

 アーシュの話は続く。

「ですので、この事実はあまりおおやけに語られることはなくいました。今は各国で協定が結ばれ、そのような蛮行は禁止されています。もちろん、盗賊を始めとした不埒者がいるため、不幸を完全になくすことはできずにおりましたが……」

 アーシュの視線が僕の方に向けられる。
 両親を喪い、故郷を失った。その辛さをアーシュはここから痛んでくれる。本当に優しい人だ。

「そのような理由もあり、先にマグノアリ王太子殿下が言っていたような誤解が広まったのでしょう。現在、サシャ王太子殿下の婚姻相手……将来の伴侶は令嬢に限らず、名のある令息も名乗りを上げています」
「後は本人の心を掴むことができるかどうか、ということか」

 ニヤリ、と笑ってマグノアリ王子は僕を見た。
 さっきハッキリとお断りしたのに、どうやらめげない性格らしい。

「改めてどうだ? 我が国は広大な海に面し貿易も盛んで人も物も豊かな国だ。珍しい生き物や諸国の珍品も多くある。退屈させないぞ?」
「アクファリ王国の歴史や産業については、書物で学ばせて頂いております。ですが、今、ザハリアーシュ殿が言ったように、僕の一存でこの国を出るわけにはいかないのです」

 下手をすれは、この国……いや、この近隣諸国で最後の生き残りかもしれない。
 そのことを僕は王太子になってから嫌というほど知った。同時に、その責任も深く感じている。
 カサルの町や僕が旅の途中で出会った多くの人たちが幸せに暮らせるようにする。
 精霊たちが望む限り、それが僕の生涯をかけてやり遂げなければならないことだ。

 だからこそ僕の伴侶となる結婚相手は、その大切さを深く理解してくれる人でなければならない。
 ただ好きになりました結婚しよう、ではダメなんだ。

 そのおかげで僕はひどく慎重になって、十六歳になったというのに未だ妃候補を決められないでいる。何度となくこの方はと薦められて――相応しい令嬢や令息は何人もいたのに、その度にアランの姿を思い浮かべてしまうんだ。
 もう……別れて四年が経つというのに。

「そんな硬く考えるなよ。いっそ先に子を作り、そいつを未来の王に指名してお主は自由にやったらいいではないか」
「マグノアリ王子こそ、僕よりも相応しく美しい令嬢は両手に余るほどいるのではないのですか? どうして僕にこだわるのです?」
「どうして?」

 ニヤリと笑って言う。

「それはお主が美しいからだ。そして俺は、欲しいと思った物は必ず手に入れる。王子だからな」

 そう言って僕の方に手を伸ばした。
 反射的に身を引く。と同時に、ハヴェルが僕の後ろからマグノアリ王子の手を遮った。

「殿下、その辺りでお引き下さい」
「龍人族の公爵令息。髪を一房、愛撫する程度ならばかまわぬだろう」
「いえ。おやめになった方がよろしいです。風の精霊たちが不快を示してございます」

 言うと同時に、教室内につむじ風が走り小さな悲鳴が上がった。
 ハヴェル・ラシュトフカは風精霊の声を聞くことができるだでなく、近年、風魔法も腕を上げてきた。アーシュと同じく、怒らせたならとても怖い相手だ。
 マグノアリ王子は顔を引きつらせて、伸ばした手を引っ込めた。

「何のために面倒な留学生になったのだ。俺は簡単には諦めないぞ」

 そう言い残すと、王子は従者を連れて教室を出て行ってしまった。
 教壇でアーシュがため息をつく。
 なんだか、いろいろ面倒なことが起りそうな予感に、僕は肩を落として出て行った扉の方を見つめた。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

処理中です...