212 / 281
第六章 死を許さない呪い
212 寝坊した朝
しおりを挟む結局、夕べは少しのぼせかけるほど長湯してしまった。
朝日が……瞼ににじむ。
そろそろ起きなければならない時間だっていうのに、アランの言葉が僕の中を満たしていて、なかなか温かなベッドの中から出られない。
「朝でございます」
「んん……」
肩を優しくゆすられて瞼を開けた。
輝く金の髪に青い瞳。涼やかな顔の、誰もが目を奪われるような凛々しい青年が微笑みかけている。
そうだ、ここは王城だ。
自分がどこにいるのか思い出して、僕は寝起きの声で答えた。
「アーシュ?」
「珍しいですね、お寝坊など」
いつもなら身支度を整え終わっているのに、今朝はまだベッドの中にいて驚いたのかもしれない。
「良い夢でも見ていたのですか?」
そう言って微笑む表情で動きを止めた。
瞳を細めてひやりとした気配を感じる。はだけた寝間着の襟元に視線がいっている。
と……夕べ、アランがキスを残していたことを思い出した。数日前にアーシュがつけた――昨日の朝には消えかけていたキスの痕が濃くなっていることに気づいたんだ。
「うん、その……おはよう」
さりげなく襟元を直しながら起きあがる。
「夜更かしをなさっていたのですか?」
「少し眠れなくて……」
気が付いているはずなのに、濃くなったキスの痕のことは聞かない。
嘘をついても、ロビンや警護にあたっていた衛兵に聞けば、僕が夜に城の中庭を散歩していたことなんか分かってしまう。
それでも、夕べは侵入者の警報で城内が慌ただしくならなかったところを見ると、アランは無事、誰にも見れること無く戻ったのだろう。だったらただ散歩していただけ、で居た方がいい。
それとも親友のハヴェル殿に、何があったか聞くだろうか……。
「本日のご予定は、午前に教師と卒業論文についての精査。そののち神官らと夏の儀式についてのお話合い。時間の合間に、お会いする要人の資料をご覧になり、昼食後は謁見室にて公務にあたって頂きます」
「朝食前の鍛錬はできなかったね」
「その様な日があっても、よろしいでしょう」
本来なら朝ご飯の前に軽く鍛錬をしたり面談者の資料を確認したりと、謁見の内容について詰めなければならなかったのに。
まぁ……資料は朝食を取りながらでもできなくはない。
それに今日はアランと会う予定もあるから、普段より予定している人は少ないはずだ。
僕はベッドを下りて、身支度を整えながらアーシュに確認する。
「お祖父さま――国王陛下のご予定は変わりなし?」
「はい、予定通り外遊をお続けになり、本日はラモン卿の領土にてご視察です。王都への帰還も五日後とお変りはございません」
「わかった」
「それではまた後程、昼食を終えました頃にお迎えに参ります」
後ろに立って軽く僕の髪を整えてから、アーシュは一礼して部屋を出て行った。
今は国王陛下の留守を預かる身だ。まだ胸の奥にはふわふわした感覚が残っているけれど、気を引き締めて気持ちを切り替える。僕はロビンから受け取った資料を手に、用意してくれた朝食の席についた。
朝食を終えると、時間通りに教師が到着した。
この王城に来た頃は王立学園に通い、一年前まではほぼ毎日授業にも出席していた。けれど最近は国王補佐の公務が増えてしまって、授業にでるのもままならなくなっている。
卒業試験は春に無事合格点を貰っていたから、この論文の提出で僕は短い学園生活を終えることになる。
「大変すばらしい論文です。このまま提出されても、よろしいでしょう」
論文を確認した教師は、強く頷いて答えた。
僕はほっと胸を撫で下ろす。戴冠式の前には終わらせてしまわないと、と思っていたんだ。
「殿下が王位継承のお立場でなければ、研究者として学園に残って頂きたいほどでございます。特に薬草に関する造詣は深く、Bランク取得も可能かと思われます」
「ありがとうございます」
「いかがですか? ランク取得は」
「Bはただ一点の知識ばかりではなく、それらに付随した採取などの技術も必要です。僕には実地訓練を行う時間がありません。先生のお言葉をお褒めとして、ありがたくお受けします」
僕の返答に「仰る通りでございますね」と教師は頷いた。
もし……僕が王にならず、アランと共に冒険の旅に出ることができたなら、ランク取得も可能だったかもしれない。
けれど僕は求められるかぎり、王になるのだと心に決めている。
アランと心を通わした今も、その決意に変わりはない。
――とその時、ドアをノックする音が響いた。
この時間はよほどのことが無いかぎり、誰も入室はしないはずだ。
返事をすると、ドアを開けたのはロビンだった。
「先生とのお話のところ申し訳ございません。至急、サシャ殿下のお耳に入れたいことがございます」
いつになく声が硬い。
僕は気持ちを引き締めてロビンにたずねた。
「何があったの?」
「はい、只今、王宮騎士団の演武場にて、アラン殿が決闘を申し込まれてございます」
「決闘!?」
僕は思わず椅子から立ち上がった。
13
あなたにおすすめの小説
この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜
COCO
BL
「ミミルがいないの……?」
涙目でそうつぶやいた僕を見て、
騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。
前世は政治家の家に生まれたけど、
愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。
最後はストーカーの担任に殺された。
でも今世では……
「ルカは、僕らの宝物だよ」
目を覚ました僕は、
最強の父と美しい母に全力で愛されていた。
全員190cm超えの“男しかいない世界”で、
小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。
魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは──
「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」
これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
「役立たず」と追放された神官を拾ったのは、不眠に悩む最強の騎士団長。彼の唯一の癒やし手になった俺は、その重すぎる独占欲に溺愛される
水凪しおん
BL
聖なる力を持たず、「穢れを祓う」ことしかできない神官ルカ。治癒の奇跡も起こせない彼は、聖域から「役立たず」の烙印を押され、無一文で追放されてしまう。
絶望の淵で倒れていた彼を拾ったのは、「氷の鬼神」と恐れられる最強の竜騎士団長、エヴァン・ライオネルだった。
長年の不眠と悪夢に苦しむエヴァンは、ルカの側にいるだけで不思議な安らぎを得られることに気づく。
「お前は今日から俺専用の癒やし手だ。異論は認めん」
有無を言わさず騎士団に連れ去られたルカの、無能と蔑まれた力。それは、戦場で瘴気に蝕まれる騎士たちにとって、そして孤独な鬼神の心を救う唯一の光となる奇跡だった。
追放された役立たず神官が、最強騎士団長の独占欲と溺愛に包まれ、かけがえのない居場所を見つける異世界BLファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる