冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

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第六章 死を許さない呪い

212 寝坊した朝

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 結局、夕べは少しのぼせかけるほど長湯してしまった。
 朝日が……瞼ににじむ。
 そろそろ起きなければならない時間だっていうのに、アランの言葉が僕の中を満たしていて、なかなか温かなベッドの中から出られない。

「朝でございます」
「んん……」

 肩を優しくゆすられて瞼を開けた。
 輝く金の髪に青い瞳。涼やかな顔の、誰もが目を奪われるような凛々しい青年が微笑みかけている。
 そうだ、ここは王城だ。
 自分がどこにいるのか思い出して、僕は寝起きの声で答えた。

「アーシュ?」
「珍しいですね、お寝坊など」

 いつもなら身支度を整え終わっているのに、今朝はまだベッドの中にいて驚いたのかもしれない。

「良い夢でも見ていたのですか?」

 そう言って微笑む表情で動きを止めた。
 瞳を細めてひやりとした気配を感じる。はだけた寝間着の襟元に視線がいっている。
 と……夕べ、アランがキスを残していたことを思い出した。数日前にアーシュがつけた――昨日の朝には消えかけていたキスの痕が濃くなっていることに気づいたんだ。

「うん、その……おはよう」

 さりげなく襟元を直しながら起きあがる。

「夜更かしをなさっていたのですか?」
「少し眠れなくて……」

 気が付いているはずなのに、濃くなったキスの痕のことは聞かない。
 嘘をついても、ロビンや警護にあたっていた衛兵に聞けば、僕が夜に城の中庭を散歩していたことなんか分かってしまう。
 それでも、夕べは侵入者の警報で城内が慌ただしくならなかったところを見ると、アランは無事、誰にも見れること無く戻ったのだろう。だったらただ散歩していただけ、で居た方がいい。

 それとも親友のハヴェル殿に、何があったか聞くだろうか……。

「本日のご予定は、午前に教師と卒業論文についての精査。そののち神官らと夏の儀式についてのお話合い。時間の合間に、お会いする要人の資料をご覧になり、昼食後は謁見室にて公務にあたって頂きます」
「朝食前の鍛錬はできなかったね」
「その様な日があっても、よろしいでしょう」

 本来なら朝ご飯の前に軽く鍛錬をしたり面談者の資料を確認したりと、謁見の内容について詰めなければならなかったのに。
 まぁ……資料は朝食を取りながらでもできなくはない。
 それに今日はアランと会う予定もあるから、普段より予定している人は少ないはずだ。
 僕はベッドを下りて、身支度を整えながらアーシュに確認する。

「お祖父じいさま――国王陛下のご予定は変わりなし?」
「はい、予定通り外遊をお続けになり、本日はラモン卿の領土にてご視察です。王都への帰還も五日後とお変りはございません」
「わかった」
「それではまた後程、昼食を終えました頃にお迎えに参ります」

 後ろに立って軽く僕の髪を整えてから、アーシュは一礼して部屋を出て行った。
 今は国王陛下の留守を預かる身だ。まだ胸の奥にはふわふわした感覚が残っているけれど、気を引き締めて気持ちを切り替える。僕はロビンから受け取った資料を手に、用意してくれた朝食の席についた。




 朝食を終えると、時間通りに教師が到着した。
 この王城に来た頃は王立学園に通い、一年前まではほぼ毎日授業にも出席していた。けれど最近は国王補佐の公務が増えてしまって、授業にでるのもままならなくなっている。
 卒業試験は春に無事合格点を貰っていたから、この論文の提出で僕は短い学園生活を終えることになる。

「大変すばらしい論文です。このまま提出されても、よろしいでしょう」

 論文を確認した教師は、強く頷いて答えた。
 僕はほっと胸を撫で下ろす。戴冠式の前には終わらせてしまわないと、と思っていたんだ。

「殿下が王位継承のお立場でなければ、研究者として学園に残って頂きたいほどでございます。特に薬草に関する造詣ぞうけいは深く、ベルナルトランク取得も可能かと思われます」
「ありがとうございます」
「いかがですか? ランク取得は」
ベルナルトはただ一点の知識ばかりではなく、それらに付随した採取などの技術も必要です。僕には実地訓練を行う時間がありません。先生のお言葉をお褒めとして、ありがたくお受けします」

 僕の返答に「仰る通りでございますね」と教師は頷いた。
 もし……僕が王にならず、アランと共に冒険の旅に出ることができたなら、ランク取得も可能だったかもしれない。
 けれど僕は求められるかぎり、王になるのだと心に決めている。
 アランと心を通わした今も、その決意に変わりはない。

 ――とその時、ドアをノックする音が響いた。

 この時間はよほどのことが無いかぎり、誰も入室はしないはずだ。
 返事をすると、ドアを開けたのはロビンだった。

「先生とのお話のところ申し訳ございません。至急、サシャ殿下のお耳に入れたいことがございます」

 いつになく声が硬い。
 僕は気持ちを引き締めてロビンにたずねた。

「何があったの?」
「はい、只今、王宮騎士団の演武場にて、アラン殿が決闘を申し込まれてございます」
「決闘!?」

 僕は思わず椅子から立ち上がった。
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