冒険者に拾われ聖騎士に求められた僕が、本当の願いに気づくまで。

鳴海カイリ

文字の大きさ
239 / 281
第六章 死を許さない呪い

239 アーシュ・西の砦へ

しおりを挟む
 


 馬を駆ること一時間。王都を出た西の広大な森にたどり着いた。
 実り豊かな森ではあるが、同時に魔物の出没も多い場所だ。数百年前にスラヴェナが魔物避けの地下神殿を築いたことで出没の頻度は下がり、王都も栄えることになったが、完全に魔物の出現を止めることはできない.。
 王国騎士団や、私を団長とした私設討伐騎士団の、定期的な監視と討伐が必要な場所だ。

 だからこそ、地元も人も護衛なしでは滅多に足を踏み入れない。
 国王陛下に爪を向け追われる身となったアラン殿が逃げ込むには、絶好の場所でもあるのだけれど……。

「ザハリアーシュ様、やはりここで一揉めあったようですな」

 ルボル殿が森の中に残されたわずかな痕跡を見つけ出し、私に声をかけた。他の騎士たちも同様の痕を見つけ出す。

「相手は十人ほど。普段のアラン殿であれば相手にもならない数でしょう」
「ですが……魔法の呪縛で動きを制限されていたなら難しい。更に対獣人の、捕縛魔法を使ったあともあります」

 私は厳しい顔で頷く。
 森の樹々には、抵抗らしい抵抗も無く捕らえられたであろう様子がうかがえる。
 しかも踏み千切られた地面の草花や折れた枝から推測するに、ちょうど一日ほど前。王城から逃げ出し真っすぐこの森に辿りつき、そのまま捕らえられたようだ。

 偶然遭遇した狩人や剣士、冒険者がそのような準備をしているとは考えにくい。事前に獣人を捕縛するための魔石を用意し、罠を張って待ち構えていたと考えるほうが妥当だ。
 アラン殿の凶事は事前に予測されていたか、誰かが情報を流したということか。

「ザハリアーシュ様」

 ルボル殿の呼び声に、私は顔を上げた。
 森の向こうから馬で駆けつけて来た者がいる。冒険者だ。以前に見た顔だと思うと同時に、たどり着いた数名の冒険者は自ら名乗りを上げた。

「馬上から失礼いたします。俺はベルナルトランクの冒険者、弓使いのカレル・レイセクと申します」

 続く冒険者たちも名乗りを上げる。
 私は、カレルと名乗った青年に顔を向けた。

「確か、サシャ殿下の成人の祝いの場へ、アラン殿と共に参上した方ですね」
「覚えていてくださいましたか! アランさんと一緒に、修行をしていた者です」

 パッと見、私より二、三歳程年上のようだが、明るい純朴な雰囲気は、サシャとも似た気配を持っている。
 カレル殿は私が記憶していたことに喜んだのもつかの間、表情を引き締めて続けた。

「俺は師匠やアランさんに頼まれ、この国で暗躍している奴隷商の動きを調べていました」
「奴隷商?」
「ズビシェクと呼ばれる男が頭の、裏で盗賊をやっている奴らです。ここ数年、再び動きが活発化したとの情報があり、動向を探っていました」

 ズビシェク……どこかで聞いた名だ。
 そう思う私の横で、ルボル殿が続けた。

「かつてアランを捕らえていた奴隷商です」
「では……」

 その男が、アラン殿に国王陛下殺害の呪縛を植え付けた。
 私の表情を見て、カレル殿が告げる。

「昨夜、この森で何者かが獣人捕縛の魔法を使った形跡がありました。調べを続けている内に、十数名の盗賊らしき者たちが、荷馬車と並走しながらさらに西に向かったと情報を入手しました」
「そいつらは、西の領に向かったとの話です」
「西の領……」

 続く冒険者の言葉に、私は呟いた。
 側に控える騎士たちも、心当たりがあるのか頷いて見せる。

「西に百ルイほど行った辺りに、数年前に捨てられた古い砦があります」
「ガダル砦ですな」

 ルボル殿も頷いた。
 数年前、凶悪な魔物の出現により破壊され、廃棄された古い砦だ。魔物は討伐できたが、砦の再建には多くの経費と年月がかかるとして、今も尚、使われていない。
 もちろんそのような危険な場所に、地元の人たちは近づかないようにしている。
 定期的に魔物が湧いていないか調査はしているだろうが、普段は誰も寄り付かない砦となっているはずだ。

「あそこは、兄上が懇意にしている貴族が治めていたはず……」

 ぐっ、と私は唇を噛んだ。
 まだ何の証拠もない。だが……今ここにきて、兄上の言動には、疑うに十分なものが出始めていた。

「良からぬ者たちが隠れるには絶好の場所です。行きましょう、おそらく、獣人捕縛の魔法を使った者たちは、その砦を利用している」

 すぐさま私たちは馬を駆り、西へと向かい始めた。
 途中の町で馬を替え、夜通し走り続ければ夜明け近くにはたどり着く。
 誰もがはやる気持ちを抑えながら深夜に西の領に入り、更に馬を替えて駆り続けること数時間。うっすらと東の空が明るくなり始めた頃、遠くにガダル砦が見え始めた。

 共に走り通していた冒険者の一人が声を上げる。

「何か、騒ぎが起きている!」

 魔物の襲来か!?
 そう思いもしたが違う。胸が騒ぐ。
 見えず、声を聞くことも無いが、側に精霊たちが居るのならきっとこう叫んでいるはずだ。「急げ、一刻も早く駆けつけろ!」と。

「行くぞ!」

 砦が間近に見え始めると同時に、カレルが馬上で弓を構え始めた。遠く、一人の獣人が十数名の者たちに囲まれ戦っている姿があった。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? 騎士×妖精

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】

ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...