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第三章 「好転」と「安らぎ」
第十一話
しおりを挟むしかしモノクロームの体を見て気づいたこともある。
花の入れ墨、確かに彼女にはそれがある。俺の体とは違う。
入れ墨は黒の単色だ、肌の白さと繊細さに対して良く目立つ。ほとんどの部分が、線が絡んでいるような入れ墨だ。
左首元と左頬にかけてあるのが花のつぼみ。モノクロームならばシロツメクサ。色はない、肌の上に黒一色で花が描かれている。そしてそこからモノクロームの体へと蔦が伝っている。
首から上方に伸びる蔦は左頬の方へ、頬の丸みに沿うようにして描かれている。一番上方で目元の下までだ。それに対して、下方に伸びる蔦は行方が分離している。
片方は首元からネックレス下の鎖骨を伝い、左腕の方へと絡みついている。わきの下まで伝い、まさしく電柱に絡みつく蔦のようにモノクロームの華奢で柔らかな腕に巻き付いている。
もう片方は首元から左腰元まで伸びている。胸元の左部を伝い左わき腹へ、そのわき腹の形状に沿うように蔦は絡みつく。蔦はくびれのあたりで最も体中心に近づいており、へその近くまで伸びている。
最下部は腰のすぐ下、骨盤あたりはまだわずかに巻き付いているが、膝元までは伸びていない。
「見惚れてます?」
「そういうところもあります」
「ふふっ、ありがとうございます。けれど違う、シオンは入れ墨を見ていたんですよね」
前かがみに無邪気な笑みを向ける。そうしてモノクロームがスッと立てば、自身の太ももの側面に右人差し指を押し当てた。
丁度そこだ、入れ墨が途絶えているのは。そしてそこからから指を徐々に持ち上げていく。体に食い込んだ指が腰元からくびれを伝い、そうして胸元を通り首元へと到達する。
そうして俺を見れば、いたずらに彼女は笑いかけた。
「大体このあたりでしょう。ここまで服で隠せば、私たちは能力者に発見されない。いえ、どちらかと言えば問題となるのは腕と頬ですね。私の体を伝っている入れ墨はどうとでも隠せますから」
「『違う』は言い過ぎです。というか、挑発していませんか?」
「さあ、どうでしょう?」
「俺は手を出しませんよ。まだ出会って数日も経ってない、そんな関係でふしだらな関係は良くないでしょう。あなたがどんなに魅力的であっても」
「私からすれば何年来ですよ。誰かしら能力が絡んでいる限り実時間はわかりませんが、その期間ほどは知っているつもりです。それに……本当は望んでいるのでしょう?」
モノクロームはシャワーの元へと進んでいく。体の右側面、手入れのしっかりしているスタイルの良い女性の体だ。違和感はない、これが普通なのだ。
「入れ墨、嫌じゃありませんか?」
「嫌ですよ。別に他人には見えない、しかしあなたには見られるのですもの。シオンだって、入れ墨を見て少し気が引けたでしょう?」
「それは……」
その通りだ。やはり入れ墨というのは威圧的な印象を与える。
他人、社会を尊重しない、反社会性を少なからず連想させられる。自身はどちらかと言えば、入れ墨はない方が好印象だった。
言い淀む。そんな俺を見て、モノクロームは切なげに笑った。
「いいんです。能力者に発見されるきっかけにもなる。あなたも、入れ墨がない方が似合っていますよ。それでも、あなたと私を繋いだものですから」
弱気な笑み。言葉というのは簡単に人を傷つける。それでも……嘘はつけなかった。
モノクロームも、きっと俺と同じことを思っていただろうから。
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