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少女の日常が蠢く日
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「エッダ、明日誕生日だけど欲しいもんあるか?」
欲しいもの……。ないけど。
「1人で街に行きたい」
きっと叶わない。だけど、私は明日で19歳なのよ。誰も気に留めてくれないけれど、結婚適齢期の乙女。
父さんはガタッと立ち上がった。
「んなこと言って、母さんの世話はどうするんだい。俺がやれってか?」と、拳を振り上げた。
そう言うと思った。でも、ずっとずっと、思っていた。けれど、言えない。私って……。もういいや。
諦めかけた時、おばあちゃんの声が聞こえた。
「まあ、いいんじゃないの。どうせ来年で20歳になるんだから、どうせこのまま家にいる子なんだから」
「だけど」
「いいのいいの。私が死ぬころには、この子も行き遅れ。明日は楽しんじゃいなさい」
父さんの声を遮って、おばあちゃんは私の誕生日を祝おうとしてくれた。
「ありがとう、おばあちゃん」
*
ブルーナイツ。街並みはレトロだが、文化は流行の最先端を追う街。住んでいる人よりも、遊びに来る人が多い街。多くの若者は男女の2人組。
若者が多い分、誘惑も多い。そこらに立っている娘たちは売春婦もどき。遊びに来た少女を言葉巧みに誘う青年 ――純潔が目的なのだろう――。活動家のような演説家もいる。
「叫べ。叫べ、若者よ。現状に不満があるのだろう。ならば叫べ、高らかに」
そう街頭で謳う活動家を見ないようにしながらも、少女はチラチラと見ることを止められなかった。
青年とも少年とも言える1人の活動家。こっくりとした茶色の瞳と、頬は熱く燃えている。金髪の髪は手入れが行き届いていてツヤツヤ。身なりは流行と一線を画し、綺麗で質が良さそうで、廃れそうもない服装と帽子。
見れば見るほど、何かが冷めてゆく。
少女は白いため息を吐いた。指先が赤い。
家に帰ろう。こんな所に来たって、ちょっと気が晴れるだけ。だから、若者と喧騒が集う街から立ち去ろう。
そう思い歩いた時、少女の日常が動き始めた。
*
さっきから麻色の髪の娘と目が合う。目を逸らされた。また目があった。
長い間梳かさずにいた髪を今日久しぶりに梳かしたようだ。長いパサパサした髪を簡素な紐でひとくくりにしているだけ。帽子も被っておらず、ショールを肩にかけている。さすがに若者が多いこの街で、おばあさんのような小豆色のショールは恥ずかしかったのだろう。
彼女の周りの、他の少女らはふわふわした帽子を被り、大きなパフスリーブを潰さないよう毛皮のマントを羽織り両手にマフを着けている。そして、恋人の腕に寄りかかっている。
だがあの娘は色あせたコートを着、1人立っている。籠を持っていないから、買い物に着たのではないのだろう。
あの少女は一体何を思いながら、こんな活動家でもない僕の話を聞いているのだろう?
「叫べ。叫べ、若者よ。現状に不満があるのだろう。ならば叫べ、高らかに」
そう叫んだ時、少女の目は大きく開かれた。だがまた目を逸した。灰青の瞳だったが、種火のようにも見えた。種火?
気がつくと、立ち去ろうとした少女の腕を掴んで引き止めていた。
「ごめん。ちょっと話さない?」
欲しいもの……。ないけど。
「1人で街に行きたい」
きっと叶わない。だけど、私は明日で19歳なのよ。誰も気に留めてくれないけれど、結婚適齢期の乙女。
父さんはガタッと立ち上がった。
「んなこと言って、母さんの世話はどうするんだい。俺がやれってか?」と、拳を振り上げた。
そう言うと思った。でも、ずっとずっと、思っていた。けれど、言えない。私って……。もういいや。
諦めかけた時、おばあちゃんの声が聞こえた。
「まあ、いいんじゃないの。どうせ来年で20歳になるんだから、どうせこのまま家にいる子なんだから」
「だけど」
「いいのいいの。私が死ぬころには、この子も行き遅れ。明日は楽しんじゃいなさい」
父さんの声を遮って、おばあちゃんは私の誕生日を祝おうとしてくれた。
「ありがとう、おばあちゃん」
*
ブルーナイツ。街並みはレトロだが、文化は流行の最先端を追う街。住んでいる人よりも、遊びに来る人が多い街。多くの若者は男女の2人組。
若者が多い分、誘惑も多い。そこらに立っている娘たちは売春婦もどき。遊びに来た少女を言葉巧みに誘う青年 ――純潔が目的なのだろう――。活動家のような演説家もいる。
「叫べ。叫べ、若者よ。現状に不満があるのだろう。ならば叫べ、高らかに」
そう街頭で謳う活動家を見ないようにしながらも、少女はチラチラと見ることを止められなかった。
青年とも少年とも言える1人の活動家。こっくりとした茶色の瞳と、頬は熱く燃えている。金髪の髪は手入れが行き届いていてツヤツヤ。身なりは流行と一線を画し、綺麗で質が良さそうで、廃れそうもない服装と帽子。
見れば見るほど、何かが冷めてゆく。
少女は白いため息を吐いた。指先が赤い。
家に帰ろう。こんな所に来たって、ちょっと気が晴れるだけ。だから、若者と喧騒が集う街から立ち去ろう。
そう思い歩いた時、少女の日常が動き始めた。
*
さっきから麻色の髪の娘と目が合う。目を逸らされた。また目があった。
長い間梳かさずにいた髪を今日久しぶりに梳かしたようだ。長いパサパサした髪を簡素な紐でひとくくりにしているだけ。帽子も被っておらず、ショールを肩にかけている。さすがに若者が多いこの街で、おばあさんのような小豆色のショールは恥ずかしかったのだろう。
彼女の周りの、他の少女らはふわふわした帽子を被り、大きなパフスリーブを潰さないよう毛皮のマントを羽織り両手にマフを着けている。そして、恋人の腕に寄りかかっている。
だがあの娘は色あせたコートを着、1人立っている。籠を持っていないから、買い物に着たのではないのだろう。
あの少女は一体何を思いながら、こんな活動家でもない僕の話を聞いているのだろう?
「叫べ。叫べ、若者よ。現状に不満があるのだろう。ならば叫べ、高らかに」
そう叫んだ時、少女の目は大きく開かれた。だがまた目を逸した。灰青の瞳だったが、種火のようにも見えた。種火?
気がつくと、立ち去ろうとした少女の腕を掴んで引き止めていた。
「ごめん。ちょっと話さない?」
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