27 / 89
最初の3ヶ月:新婚時代
閑話 願い
しおりを挟む
高血圧により倒れてしまい2週間、息子の家で療養をしていた私フリーダは荷造りをしていました。オデットが薬の瓶を差し出してくれました。
「お義母さま、もう復帰なさってもよろしいのでしょうか?」
「もう大丈夫よ。そもそも2週間も休むだなんて申し訳ないじゃない。エルサ様のご結婚翌日から休んでいるのよ」
オデットは知っているのでしょうか? ロイスの企てを。知りたくなんてなかった。私の息子が、木の実のように大切に守り育てた息子があのような……。
*
私フリーダは躊躇いを捨てようと何度も何度も深呼吸をし、そしてエルサ様の部屋のドアにノックをしました。無防備な声で入室を許されました。揺らぐ心に喝を入れるように呼吸をした後、入室しました。エルサ様はテーブルにつき、刺繍をなさっていました。私に気づくと驚いたように立ち上がられました。
「フリーダ! もう大丈夫なの?」
私は静かにお辞儀をいたしました。エルサ様はご存知ではないでしょう。息子が申し訳ない、という詫びを込めました。エルサ様は訝しむような表情で後退りなさいました。私はゆっくりと頭を上げました。
「ええ。2週間もお休みをいただいてしまい申し訳ありません」
「もうフリーダの体に問題がないのなら大丈夫よ」とエルサ様は不思議そうな表情です。
「エルサ様のご厚意に感謝いたします」
私ですら気づくほど、私の声に感情が籠らない。どこか他者の様子に聡いところのあるエルサ様はお気づきなのでしょう。困惑なさっています。どうしましょう、そのようなお顔にしたいわけではないのに。
「フリーダ、まだ体調がすぐれないの?」
「いいえ、私の個人的な問題でございます。エルサ様におかれましてはご機嫌いかがでしょうか?」
エルサ様は小さく息を吐きました。顔が僅かに硬直しています。マズいと思った時、エルサ様は小さく震える手で私の袖を掴みました。
「寂しいわ、フリーダ」
フリーダは少し体を震わせた。これで見捨てられたらどうしよう。私は動揺しエルサ様のお手に触れました。
「エルサ様」
エルサ様は私の声音に何かを感じられたのか、ご自身の胸元に触れました。それからふっと自嘲的な笑みを浮かべられ、くるりと私から離れて一冊の本を抱え私にお見せ下さいました。
「ねえフリーダ。この本ってどう思う? 私はとてもくだらないと思ったわ。なぜ好きな人を毒殺するの? こんなのが愛なの? 2ページ前までイチャイチャとしていたのに」
なんてこと! あれはエルサ様のお目に入れて良いものではありませぬ! 目眩がしましたが、私はパッとエルサ様の本をひったくりました。
「エルサ様、その作家はとても低俗だと以前申しましたよ」
「作家の名前なんていちいち覚えてられないわ」
「この国に住まう誰よりも優れた頭脳をお持ちですのに?」
「あら? フリーダは私は頭がいいとお思いなの?」とエルサ様は首を傾げました。
「ええ、エルサ様とても物覚えのいいお嬢様だと存じ上げております」
エルサ様はおずおずと近寄り、そっと私の目を覗き込みました。
「ふぅん。ねえフリーダは頭のいい女性は嫌い?」
エルサ様のお言葉に本を取り落としてしまった。
嫌い?
無礼だと思いながらもエルサ様のお顔に触れ目を覗き込みました。エルサ様の揺れる蒼い目には不安、恐れ、孤独が溢れていらっしゃいました。なぜ気づかなかったのでしょう。エルサ様は結婚なさったとは言え、お若く幼い。小さな微笑みが漏れました。
「エルサ様」
エルサ様が結婚なさった今、多少は距離を取るべきであると考えておりました。ですが閣下とは未だお心が通い合ってはいらっしゃらないのでしょう。ならば私フリーダは、体面や後のことを考えることをやめましょう。
「私がエルサ様を嫌うことなどありませぬ」
「本当?」
「ですからご安心くださいませ」
エルサ様は安堵なさったようで力の抜けた笑みを見せられました。
「いつか閣下とエルサ様がお心を通わせられる日が訪れますように」
エルサ様は私の小さな祈りにふと目を上げられましたが、何もおっしゃらず刺繍枠を取りました。
「お義母さま、もう復帰なさってもよろしいのでしょうか?」
「もう大丈夫よ。そもそも2週間も休むだなんて申し訳ないじゃない。エルサ様のご結婚翌日から休んでいるのよ」
オデットは知っているのでしょうか? ロイスの企てを。知りたくなんてなかった。私の息子が、木の実のように大切に守り育てた息子があのような……。
*
私フリーダは躊躇いを捨てようと何度も何度も深呼吸をし、そしてエルサ様の部屋のドアにノックをしました。無防備な声で入室を許されました。揺らぐ心に喝を入れるように呼吸をした後、入室しました。エルサ様はテーブルにつき、刺繍をなさっていました。私に気づくと驚いたように立ち上がられました。
「フリーダ! もう大丈夫なの?」
私は静かにお辞儀をいたしました。エルサ様はご存知ではないでしょう。息子が申し訳ない、という詫びを込めました。エルサ様は訝しむような表情で後退りなさいました。私はゆっくりと頭を上げました。
「ええ。2週間もお休みをいただいてしまい申し訳ありません」
「もうフリーダの体に問題がないのなら大丈夫よ」とエルサ様は不思議そうな表情です。
「エルサ様のご厚意に感謝いたします」
私ですら気づくほど、私の声に感情が籠らない。どこか他者の様子に聡いところのあるエルサ様はお気づきなのでしょう。困惑なさっています。どうしましょう、そのようなお顔にしたいわけではないのに。
「フリーダ、まだ体調がすぐれないの?」
「いいえ、私の個人的な問題でございます。エルサ様におかれましてはご機嫌いかがでしょうか?」
エルサ様は小さく息を吐きました。顔が僅かに硬直しています。マズいと思った時、エルサ様は小さく震える手で私の袖を掴みました。
「寂しいわ、フリーダ」
フリーダは少し体を震わせた。これで見捨てられたらどうしよう。私は動揺しエルサ様のお手に触れました。
「エルサ様」
エルサ様は私の声音に何かを感じられたのか、ご自身の胸元に触れました。それからふっと自嘲的な笑みを浮かべられ、くるりと私から離れて一冊の本を抱え私にお見せ下さいました。
「ねえフリーダ。この本ってどう思う? 私はとてもくだらないと思ったわ。なぜ好きな人を毒殺するの? こんなのが愛なの? 2ページ前までイチャイチャとしていたのに」
なんてこと! あれはエルサ様のお目に入れて良いものではありませぬ! 目眩がしましたが、私はパッとエルサ様の本をひったくりました。
「エルサ様、その作家はとても低俗だと以前申しましたよ」
「作家の名前なんていちいち覚えてられないわ」
「この国に住まう誰よりも優れた頭脳をお持ちですのに?」
「あら? フリーダは私は頭がいいとお思いなの?」とエルサ様は首を傾げました。
「ええ、エルサ様とても物覚えのいいお嬢様だと存じ上げております」
エルサ様はおずおずと近寄り、そっと私の目を覗き込みました。
「ふぅん。ねえフリーダは頭のいい女性は嫌い?」
エルサ様のお言葉に本を取り落としてしまった。
嫌い?
無礼だと思いながらもエルサ様のお顔に触れ目を覗き込みました。エルサ様の揺れる蒼い目には不安、恐れ、孤独が溢れていらっしゃいました。なぜ気づかなかったのでしょう。エルサ様は結婚なさったとは言え、お若く幼い。小さな微笑みが漏れました。
「エルサ様」
エルサ様が結婚なさった今、多少は距離を取るべきであると考えておりました。ですが閣下とは未だお心が通い合ってはいらっしゃらないのでしょう。ならば私フリーダは、体面や後のことを考えることをやめましょう。
「私がエルサ様を嫌うことなどありませぬ」
「本当?」
「ですからご安心くださいませ」
エルサ様は安堵なさったようで力の抜けた笑みを見せられました。
「いつか閣下とエルサ様がお心を通わせられる日が訪れますように」
エルサ様は私の小さな祈りにふと目を上げられましたが、何もおっしゃらず刺繍枠を取りました。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる