はずれものの恋、ユーラシアのはぐれ島で

アイザッカ

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最初の3ヶ月:新婚時代

アンの物語と私たちの未来

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「エルサ様、新しいお部屋に置いておきたいものはございますか?」

 8月の中旬を迎え、首都に本邸が移る準備はいよいよ大詰めのようだ。あと半月で引っ越す。フリーダはアウリスとハイド領を慌ただしく往復している。私の侍女の中だと「フリーダが1番主の意を汲める」とハイド伯爵が判断なさったからフリーダは忙しいらしい。お年寄りになんてことをさせているんだろう。

「今、新しい部屋はどんな感じなの? ここの家具は持って行かないんでしょう」と私はフリーダに向かって首を傾げた。
「ええ。今、新しいお部屋は白とピンクを基調としております」とフリーダは微笑んだ。

 お、おう。10年前だったら両手を挙げて喜んだかも。でも色がアレなだけで、ひょっとしたら落ち着いた部屋かも。
 顔を引き攣らせた私を見てフリーダは少し困ったように付け足した。

「それから閣下のご要望によりベッドにはぬいぐるみが置かれていますし、ゆくゆくはブーケを多く飾る予定です」
「私、17歳なんだけど……」
「ええ、11月には18歳におなりですね。せめてもの背伸びとして本棚でも置きますか?」
「じゃあ、白塗りしていない上質な木の色のナイトテーブルを置いてちょうだい。あとブーケを減らして」
「閣下に話を通しておきますね」

 よし! これでマシになるはず! 子ども部屋よ、さらば!

 フリーダが「これよりアウリスへ向かいます。それでは失礼いたします」とお辞儀をした。
 
 フリーダが出ていった後、私は頬を人差し指でコツコツと突いた。

「寿命削らないでね、フリーダ」と小声で呟いた。

 私は椅子から立ち上がり、ベッドを見た。一応、私の部屋にもベッドはある。でも本邸の私室ここのベッドは使ったことがない。いつも夫婦の寝室に呼ばれているし、結婚前は別邸に住んでいたから。
 私は久しぶりに胸元に隠してあったペンダントを取り出した。3年前、お母さんが買ってくれたものだった。それからベッドに腰掛け、窓を見た。この窓は東向きだった。アウリスは北側にある。
 夫婦の寝室じゃなくて私個人の寝室の話なのに、何でハイド伯爵の干渉を強く受けているんだろう? 不思議だけど、考えないほうがいいよね。私は再びペンダントを服の下に隠した。

「よし!」

 気合いを入れて立ち上がり、本棚からノートを取った。思いついた長い文章をいくつかの言語で切り替えながら書いた。英語・日本語・フランス語・スペイン語 etc。
 そう言えば、最近マカレナ来ないなぁ。忙しいのかな? 2ヶ月半も会っていない。


 *
 
 8月が終わる。
 私はパタンと本を閉じた。涼しいところで本を読もうと思い、東屋にいたけど、あまり読書に集中できなかった。東屋とその周辺は涼やかで静か、小説の内容もまた然り。今は屋敷の中もハイド家も騒がしい。

 東屋の手すりを乗り越えようとすると、アンネリースが無言で私の袖を引っ張った。ちょっと水に浸かりたかっただけなのに。仕方がなくベンチに座り直した。漏れそうになったため息を押し殺した。
 カンカンと甲高い足音が響いた。マカレナだ。庭園と東屋を繋ぐ小さな石橋をダッシュしている。

「奥様!」
「マカレナ!」

 私はすくっと立ち上がった。マカレナは東屋の階段をすっ飛ばしぴょいと東屋に飛び乗り私を抱きしめた。

「奥様! ご無沙汰しております!」
「本当! 座って。どうしていたの?」

 マカレナはベンチに座った。
 
「お父様から突然、花嫁修行を命じられていたのです。婚約者が決まったとか……」
「あなたの婚約者? 他人事のように言うのね」
「奥様には言われたくありませんわ。あの、奥様。私ノートをちゃんと持ってきました」

 ノート? ああ。私はぱっと顔を上げた。頬が紅潮している感覚がある。

「『赤毛のアン』の翻訳?」
「そうです!」

 マカレナはポシェットから誇らしげにノートと『赤毛のアン』を取り出した。目が晴れた星空のようにキラキラしている。

「こういうことはまだ結婚に実感の沸かないうちに済ませましょう!」
「そうね」と私は笑った。

 膝を机代わりとし、仕事に取り掛かった。

 *

 9月に入り、アウリスへ向かう馬車の中、マカレナはサラサラとノートに書いた。
「『この地はすべてよし』っと」

 私はぐったりと背もたれに寄りかかった。ガタゴトと揺れる馬車の中で本と向き合うのはしんどかった。マカレナはフランス語訳とゴーディラック語訳を見比べるのに熱中している。よく馬車の中でずっと本を読んだり書き物をしたりできるね。
 私は馬車のカーテンをこっそりとめくって遠くを見た。車酔いと馬車酔いも似たようなものだよね? 今は田舎道を走っているみたい。山が近い。緑に癒やされる。あ、鹿がいる。
 マカレナは微笑みノートを閉じた。

「平和な物語ですね」
「そうね」
「道を選べるアンが羨ましいです。尤も、私だったら大学に行きましたが」

 私は何も言わず小さく肩を竦めた。首都まで運ばれている身からすると羨ましいのは分かるけど、私だったらグリーンゲイブルズに残る。
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