はずれものの恋、ユーラシアのはぐれ島で

アイザッカ

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私が第二夫人?:新婚時代

語りかけた小さな黄色い花

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 私は頬杖をついていた。今度、王城で舞踏会があるらしい。ハイド家では今夜、大事な知らせがあるらしい。
 
 スカート部分は重みがあるのに綺麗に広がっていて大人っぽい。スカートにはピンクや青の小粒な宝石がたくさんついている。生地はツルツルしているし光沢感があるからサテンだろうなぁ。裾には波のようなフリルがたくさんついている。シンプルで丸みがあって肩のラインに沿う短くて、水玉模様みたいなレースの小豆色の袖。胸元にはチラチラと光る淡い青みグレーの流れる波みたいな刺繍。色が変わる不思議な青くて赤い宝石のついている小豆色のサッシュはリボン結びに。
「着飾らなくていい」とのことで今夜はこのドレスにした。この屋敷に引っ越してきたらクローゼットに入っていた。閣下からの贈り物だって!
 しずく型の真珠のピアスを着けてから、ぽすんとベッドに腰掛けた。

「ねえフリーダ。一体、どんな知らせがあるのかしら?」

 フリーダはぎこちなく微笑み首を横に振った。また体調を崩したのかしら? フリーダはそっと私の頬を撫でた。

「エルサ様」

 フリーダは悩ましげに軽く目を閉じ、口を噤んだ。

 私は眉間に「フリーダ? どうしたの?」軽く皺を寄せた。
「いいえ。今、聖書はどちらまでお読みになりましたか?」
「第一ヨハネよ」
「あら、読むのがお早いのですね」とフリーダは目尻を和らげた。
「私の特技は速読だもん」と微笑んだ。
「どの聖句が印象に残っていらっしゃいますか?」

 私はうーんとナイトテーブルの花瓶を見た。聖ヨハネは何と言ったっけ? 私はつんと小さな黄色の花を弾いた。

「そろそろ食堂に行かなくちゃね」

 私は立ち上がり、ドレスの皺を叩いて直した。スリッパからヒール靴に履き替えた。部屋を出て、階段を降り食堂へと向かった。席に座って閣下を待っていると、ロイス様とマカレナがやって来た。

「マカレナ!」と私は声を上げた。

 マカレナはお辞儀をした。黄色いオフショルダーのドレスがよく似合っている。
 
「なぜだか私も夕食に呼ばれましたの」
「そうなの? わざわざ夜に大変ね」

 マカレナが口を開きかけると、ハイド伯爵が入ってきて着席した。

「エリザベス、マカレナ。そのドレス、よく似合っているな」

 私は小首を傾げ微笑んで見せた。けれど何となく違和感があった。なんだろう? 閣下が祈るため手を組んだ。

「天の恵みに感謝します。この食事が我々の心と体を満たし、喜びに満ちたものでありますように」
「アーメン」

 顔を上げると閣下と目が合った。閣下はグッと眉間に皺を寄せ軽く目を閉じ、力強く目を開いた。

「マカレナ。其方の文官としての才を見込み、其方を我が第一夫人とすることとした」

 良かった。今、フォークを持っていなくて。取り落とすところだった。マカレナがガっと立ち上がった。

「お嬢様は!?」
「エリザベスは第二夫人となる」

 私は皺の寄らない程度にぎゅっと目を閉じ、微笑んだ。静かにスープを飲んだ。今9月だからもう少ししたらかぼちゃのスープが飲めるようになるだろう。
 ロイス様がスプーンをテーブルに置いた。

「マカレナ、座りなさい」とマカレナに厳しい声音で言った。

 マカレナはキッとロイス様を睨んでから座った。そして困ったように私を見た。私はふわっと微笑んでみせた。大丈夫、大丈夫。私は大丈夫だから。閣下はちらりと私に視線を向けた後、マカレナを見た。

「不服か? マカレナ」
「不服、というよりは嫌です!」
「なぜ嫌なのだ?」
「せめて婿に来てくださる方がいいです!」
「其方には兄がいるであろう」
「ですが兄は未だ文官見習いです。そのことを考えると私が婿を取るのが合理的でしょう?」

 ロイス様はマカレナを抑えつけるように睨んだ。

「マカレナ。お前はアーサーの妹であろう」
「それが!? 私は大人しくしなさい、と閉じ込められるのはごめんです!」

 閣下は困った娘を見るようにマカレナに目を向けた。

「だから其方を第一夫人に、と言っている。其方ならば大丈夫であろうと考えてのことでもある」
「お嬢様はどうなるのです!?」

 カナッペを持つ私の手がピクリと動いた。腹痛を感じもう片方の手でお腹を抑えた。マカレナは吐き出すように言葉を続けた。

「私、楽しみにしていましたのよ! 閣下とお嬢様、お2人の未来を。なぜその未来に私が割り込まなくてはならないのですか!? 閣下もご存知でしょう? 私は第二夫人というものに忌避感があることを!」
「ああ、知っている。だがそれくらいは割り切れるであろう?」
「嫌です! 他の方ならともかく、お嬢様が第二夫人だなんて嫌です! あなたの第一夫人になるくらいなら外国の鬼共に嫁いでやります!」
「いい加減にしろ、マカレナ!」と青筋立てたロイス様が立ち上がった。そして閣下の方に向き直り「申し訳ありません、閣下。娘にはよく言い聞かせますので退室の許しをいただいてもよろしいでしょうか?」と早口で言った。
 
 閣下は許可を出した。ロイス様はお辞儀をしてからマカレナを引き摺るように退室した。私はどうしようかな、と思いながらローストビーフの最後の一切れを口に運んだ。閣下はワインを飲みながらこちらを見ている。沈黙が気まずい。

「エリザベス。今宵、寝室に来るように」

 小刻みに視界が暗くなり明るくなった。私はナプキンで口元を拭った。

「はい、閣下」




 *
 
 気まずかった夕食から数日経ち、生理が来た。私が小説を独訳していた時のことだった。
 2ヶ月ぶりに月のものが訪れたという報せにフリーダはホッと旨を撫で下ろした。私は何となく不安だった。いつもより血の塊が多かったし、大きかった。なんで心が騒ぐのかは分からない。
 今日、教会では閣下とマカレナの婚約式が執り行われている。私の時は6月に婚約式があって4月に結婚する予定だったから、10ヶ月くらい期間を置くものなのかな? ってことは、マカレナは来年の夏に結婚式?

 小説の翻訳は無心で出来るから好き。無心、というかドイツ語だと思考回路が13歳の頃に戻るから楽。最後にドイツに行ってから5年経つんだ。5年かぁ……5年ってもっと長いと思っていたのに、過ぎてしまえば短かったなぁ。
 1ヶ月半もすれば私は18歳になるんだ。

 馬車の音が聞こえる。閣下かな? 出迎えの声がする。やっぱり閣下だ。もう夕方なんだ。足音が聞こえる。ノック音の後、閣下が入ってきた。正装のままだ。

「エリザベス、今月末の舞踏会のことで話がある」
「はい。……今月末ですか?」

 今9月20日だよ。閣下は座ることなく、壁に寄りかかっている。

「舞踏会にはマカレナを連れて行く。お披露目を兼ねてな」
「かしこまりました」

 お留守番か~。やることないんだよなぁ。
 それから閣下は退室した。私はぐーと伸びをしてハンカチを取り出した。ハンカチをてるてる坊主のようにしてみた。なんか可愛い。
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