58 / 89
この手を伸ばす先:ティレアヌス
図書室で紡ぐ明日の約束
しおりを挟む
夕方になり明美はベンチから立ち上がった。パンパンッとスカートを払った。庭園から部屋に戻ろうと歩き始めると、後ろから誰かがこちらに走ってくる音が聞こえた。振り返るとダニエルだった。走ってきた勢いを殺せず私にぶつかりそうになったのを、前に出てきたアンネリースが抱き止めた。ダニエルは「ごめんなさい」とアンネリースの腕から出た。それから私に向き直った。
「奥さま。お願いがあります。よろしいでしょうか?」
「どんなお願い?」
「病気にならない方法を教えて下さい」
「そんな方法があったら私が知りたいわ」
ダニエルは「え?」と声を漏らした。
私は首を傾げた。何でそんな方法をお医者さんでもない私が知ってると思ったの? 少し考えていると視界にジョエルが入った。庭園の奥から駆けてきたジョエルはダニエルの背に隠れた。思い出した。先週、ダニエルの家で空気の入れ替えをした。その時に何で空気の入れ替えが必要なのか簡単に説明したことがあった。
私は腕を組んだ。
「でも病気にできる限りならない方法なら知っているわ」
「教えていただけますか?」
ダニエルの言葉に私は軽く首を傾げ考えた。うん、暇を持て余しているから大丈夫だよね。
「いいわよ。今日? 明日?」
「明日の昼1時過ぎにお時間をいただけますか?」
「いいわよ。場所は図書室でいいかしら?」
「はい」
そのままダニエルと別れ、夕食を終えた私は部屋の本棚からノートを取り出した。昔保健体育で習った知識を覚えている限り書き連ねた。基本的なことは覚えている。あやふやな所は図書室の本を頼りに思い出した。図書室の情報は少し古いかもしれないけど、思い出す手掛かりはなる。書くかどうか迷ったのは人工呼吸のやり方について。某パンヒーローの主題歌に合わせて胸を圧迫すると習ったけど……。どうしよ? 似たような曲がこの国にないかなぁ? 一晩迷った結果、今度フリーダかアンネリースに聞いてみることにした。2人ともちゃんとした貴族だから音楽についての素養はあるはず。
昼過ぎ、約束通り図書室でジョエルを連れたダニエルと会った。私はジョエルの目線に合わせ腰を屈めた。
「ジョエルもお勉強するの?」
「うん。ダニエルが僕も勉強しろっていいました」
「そう。字は読める?」
ジョエルはむっとしたように口を尖らせた。
「読めないです」
「そう。ダニエルは?」
「読めます。アンネリース様に習ったので」
「アンネリースに?」
「はい」
私は思わずドアの方を見た。アンネリースはいつも通りドアの外で待機している。学校がないのかな? 奉公先の人に習うものなのかな?
私は肩をすくめ椅子に腰掛け、ダニエルとジョエルも座るよう促した。
「じゃあダニエル。まず何で空気の入れ替えが必要なのかは覚えている?」
「はい。空気がこもっていると病気が悪化するから、と」
「そう。空気が籠っていると色々なバイ菌が部屋中にいる状態なの。だから窓を開けて綺麗な空気と入れ替えるのは大事よ」
ダニエルはパッと手を挙げた。
「あの。部屋の外に出た汚い空気はどこに行くんですか?」
オーマイガッシュ。私は軽く目を瞑った。ちょっと違うかもしれないけど何とか思い出した。
「大自然が綺麗にしてくれるわ。……神様が作って下さった自然は偉大ね」
「本当にすごいです」
ティレアヌスの人には「神様」出しときゃいいと思って、適当に最後のを足したらいけた。
「じゃあ換気の話の次は、とっても大事な手洗いの話」
「手はいつも洗っていますが……」
「いつ洗っているの?」
「配膳の前に洗っています」
「配膳の前だけ?」
「後は……用を足した後に」
必要最低限すら満たしていない。私は軽くおでこを抑えた。ふとジョエルを見ると机に突っ伏して寝ていた。可愛いなぁ、と思って見ていた。するとジョエルが寝ていることに気付いたダニエルがジョエルを揺さぶった。
「ジョエル。起きろ。起きろってば」
ジョエルはむにゃむにゃと目をこすり起きた。うーん。自分から言ってきたダニエルはともかく、8歳のジョエルには退屈だったかな?
「今日は一旦この辺で終わりにして、続きは今度にする?」
「申し訳ありません。奥さま」
「いいの、いいの」
ダニエルはジョエルを引きずって出ていった。私は図書室を探し回った。子ども向けの本をいくつか見つけた。最悪、ジョエルにはダニエルが教えればいいけど、ダニエルもまだ10歳だからなぁ。だから飽きない方法をいくつか考えてみよう。私、お医者さんでも医学生でも看護師でもないけど、できる範囲で頑張ろう。
『シンデレラ』が目に留まった。
「奥さま。お願いがあります。よろしいでしょうか?」
「どんなお願い?」
「病気にならない方法を教えて下さい」
「そんな方法があったら私が知りたいわ」
ダニエルは「え?」と声を漏らした。
私は首を傾げた。何でそんな方法をお医者さんでもない私が知ってると思ったの? 少し考えていると視界にジョエルが入った。庭園の奥から駆けてきたジョエルはダニエルの背に隠れた。思い出した。先週、ダニエルの家で空気の入れ替えをした。その時に何で空気の入れ替えが必要なのか簡単に説明したことがあった。
私は腕を組んだ。
「でも病気にできる限りならない方法なら知っているわ」
「教えていただけますか?」
ダニエルの言葉に私は軽く首を傾げ考えた。うん、暇を持て余しているから大丈夫だよね。
「いいわよ。今日? 明日?」
「明日の昼1時過ぎにお時間をいただけますか?」
「いいわよ。場所は図書室でいいかしら?」
「はい」
そのままダニエルと別れ、夕食を終えた私は部屋の本棚からノートを取り出した。昔保健体育で習った知識を覚えている限り書き連ねた。基本的なことは覚えている。あやふやな所は図書室の本を頼りに思い出した。図書室の情報は少し古いかもしれないけど、思い出す手掛かりはなる。書くかどうか迷ったのは人工呼吸のやり方について。某パンヒーローの主題歌に合わせて胸を圧迫すると習ったけど……。どうしよ? 似たような曲がこの国にないかなぁ? 一晩迷った結果、今度フリーダかアンネリースに聞いてみることにした。2人ともちゃんとした貴族だから音楽についての素養はあるはず。
昼過ぎ、約束通り図書室でジョエルを連れたダニエルと会った。私はジョエルの目線に合わせ腰を屈めた。
「ジョエルもお勉強するの?」
「うん。ダニエルが僕も勉強しろっていいました」
「そう。字は読める?」
ジョエルはむっとしたように口を尖らせた。
「読めないです」
「そう。ダニエルは?」
「読めます。アンネリース様に習ったので」
「アンネリースに?」
「はい」
私は思わずドアの方を見た。アンネリースはいつも通りドアの外で待機している。学校がないのかな? 奉公先の人に習うものなのかな?
私は肩をすくめ椅子に腰掛け、ダニエルとジョエルも座るよう促した。
「じゃあダニエル。まず何で空気の入れ替えが必要なのかは覚えている?」
「はい。空気がこもっていると病気が悪化するから、と」
「そう。空気が籠っていると色々なバイ菌が部屋中にいる状態なの。だから窓を開けて綺麗な空気と入れ替えるのは大事よ」
ダニエルはパッと手を挙げた。
「あの。部屋の外に出た汚い空気はどこに行くんですか?」
オーマイガッシュ。私は軽く目を瞑った。ちょっと違うかもしれないけど何とか思い出した。
「大自然が綺麗にしてくれるわ。……神様が作って下さった自然は偉大ね」
「本当にすごいです」
ティレアヌスの人には「神様」出しときゃいいと思って、適当に最後のを足したらいけた。
「じゃあ換気の話の次は、とっても大事な手洗いの話」
「手はいつも洗っていますが……」
「いつ洗っているの?」
「配膳の前に洗っています」
「配膳の前だけ?」
「後は……用を足した後に」
必要最低限すら満たしていない。私は軽くおでこを抑えた。ふとジョエルを見ると机に突っ伏して寝ていた。可愛いなぁ、と思って見ていた。するとジョエルが寝ていることに気付いたダニエルがジョエルを揺さぶった。
「ジョエル。起きろ。起きろってば」
ジョエルはむにゃむにゃと目をこすり起きた。うーん。自分から言ってきたダニエルはともかく、8歳のジョエルには退屈だったかな?
「今日は一旦この辺で終わりにして、続きは今度にする?」
「申し訳ありません。奥さま」
「いいの、いいの」
ダニエルはジョエルを引きずって出ていった。私は図書室を探し回った。子ども向けの本をいくつか見つけた。最悪、ジョエルにはダニエルが教えればいいけど、ダニエルもまだ10歳だからなぁ。だから飽きない方法をいくつか考えてみよう。私、お医者さんでも医学生でも看護師でもないけど、できる範囲で頑張ろう。
『シンデレラ』が目に留まった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる