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この手を伸ばす先:ティレアヌス
閑話 守られ続けた光
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アンネリースの眉間に皺が寄った。奥さまはソファに腰掛けたまま、微笑んだ。
「だって、ほら。病気にならないためには栄養の勉強だって欠かせないでしょ。そうなれば市場で勉強するのが手っ取り早いじゃない」
「ですが奥さま。閣下から奥さまは外出を控えるよう命じられています」
「私、かれこれ1ヶ月は別荘の外に出ていないわ。あ、庭園は別荘の内よね?」
「はい、庭園は大丈夫です。しかし外はいけません」
奥さまは首を傾げられた。こういう時は何かを考えていらしゃる時。私は脇を引き締めた。
フリーダがアウリスへ向かってから1週間。8月の半ばを過ぎた頃。奥さまは突然、このような提案を持ち出された。先日、ロイスの子息であるアーサーが、主に有益な情報をもたらしたことにより文官として認定された。通常であれば何の情報を掴んだのかは外部に漏らされない。しかし、アーサーは私に情報を寄越してきた。「エミリア・ガゼルが妊娠している」という。実に物騒な情報だ。
奥さまはにこりと微笑んだ。
「もちろん、ダニエルとジョエルも連れて行くわ」
それでは護衛対象が増えるだけだ。私は「いけません」と頭を振った。
「栄養に良いものをリストアップするだけで良いです」
「いいえ。だって物価が良く分からない人がそんなことをしたら高級志向になってしまうわ。だから実際に市場へ行くことは大切よ」
私の眉間にまた皺が寄った。奥さまのお気持ちも分かる。ダニエルとジョエルに教育を施したい、というお気持ちは。けれど今は駄目だ。
「奥さま、どうかお考えください。閣下が警告を出されるほどなのです」と冷静を装った声で言った。
「私から見れば閣下はいつも警告を出しているわ」と奥さまは肩をすくめた。
確かにそうだ。だが警告が出されていたからこそ無事だったこともある。奥さまの知らぬ所で如何に閣下が動かれているのか……。目下、ティレアヌスには特別な事件はない。しかし、市場近くで近々発生するかもしれない、突発的な暴動や事件を懸念している。それでも、実際に治安が悪化しているわけではなく、ただの「噂」だ。
奥さまは立ち上がり、私の目の前に立った。
「アンネリース、私は決めたの。市場に行かなければならない理由があるの」
「それは理解しております」
「じゃあお願い。私、私……」
奥さまは何かを考えるように首を傾げた。
「ダニエル達に教えられることは教えておきたいの。だって知識は命を救う力になるもの。だから行くわ」
その言葉に、私は目を見開いた。私は深く息をついた。これ以上、彼女の意思を曲げることは出来ない。私は脳裏に幼くして喪った我が子を浮かべた。確かに知識さえあれば助かる命はある。医者にかかる術のないダニエル達の姉を救う方法が見つかるかもしれない。
「一時的にでも護衛を増やしましょう。そうすれば行ってもいいです」
「本当!」
奥さまは一瞬で笑顔になった。
女2人、子ども2人よりは男もいた方がいい。付近に信用できる男がいるだろうか。アーサーはアウリスへ帰還していないが、潜入捜査中であるため無理だ。この別荘の使用人の中で腕の立つ者を使うしかない。
奥さまはふと首を傾げた。
「そう言えば何で外出するのにアンネリースの許可が必要なのよ」
私は思わず吹き出るように笑いが漏れた。
「だって、ほら。病気にならないためには栄養の勉強だって欠かせないでしょ。そうなれば市場で勉強するのが手っ取り早いじゃない」
「ですが奥さま。閣下から奥さまは外出を控えるよう命じられています」
「私、かれこれ1ヶ月は別荘の外に出ていないわ。あ、庭園は別荘の内よね?」
「はい、庭園は大丈夫です。しかし外はいけません」
奥さまは首を傾げられた。こういう時は何かを考えていらしゃる時。私は脇を引き締めた。
フリーダがアウリスへ向かってから1週間。8月の半ばを過ぎた頃。奥さまは突然、このような提案を持ち出された。先日、ロイスの子息であるアーサーが、主に有益な情報をもたらしたことにより文官として認定された。通常であれば何の情報を掴んだのかは外部に漏らされない。しかし、アーサーは私に情報を寄越してきた。「エミリア・ガゼルが妊娠している」という。実に物騒な情報だ。
奥さまはにこりと微笑んだ。
「もちろん、ダニエルとジョエルも連れて行くわ」
それでは護衛対象が増えるだけだ。私は「いけません」と頭を振った。
「栄養に良いものをリストアップするだけで良いです」
「いいえ。だって物価が良く分からない人がそんなことをしたら高級志向になってしまうわ。だから実際に市場へ行くことは大切よ」
私の眉間にまた皺が寄った。奥さまのお気持ちも分かる。ダニエルとジョエルに教育を施したい、というお気持ちは。けれど今は駄目だ。
「奥さま、どうかお考えください。閣下が警告を出されるほどなのです」と冷静を装った声で言った。
「私から見れば閣下はいつも警告を出しているわ」と奥さまは肩をすくめた。
確かにそうだ。だが警告が出されていたからこそ無事だったこともある。奥さまの知らぬ所で如何に閣下が動かれているのか……。目下、ティレアヌスには特別な事件はない。しかし、市場近くで近々発生するかもしれない、突発的な暴動や事件を懸念している。それでも、実際に治安が悪化しているわけではなく、ただの「噂」だ。
奥さまは立ち上がり、私の目の前に立った。
「アンネリース、私は決めたの。市場に行かなければならない理由があるの」
「それは理解しております」
「じゃあお願い。私、私……」
奥さまは何かを考えるように首を傾げた。
「ダニエル達に教えられることは教えておきたいの。だって知識は命を救う力になるもの。だから行くわ」
その言葉に、私は目を見開いた。私は深く息をついた。これ以上、彼女の意思を曲げることは出来ない。私は脳裏に幼くして喪った我が子を浮かべた。確かに知識さえあれば助かる命はある。医者にかかる術のないダニエル達の姉を救う方法が見つかるかもしれない。
「一時的にでも護衛を増やしましょう。そうすれば行ってもいいです」
「本当!」
奥さまは一瞬で笑顔になった。
女2人、子ども2人よりは男もいた方がいい。付近に信用できる男がいるだろうか。アーサーはアウリスへ帰還していないが、潜入捜査中であるため無理だ。この別荘の使用人の中で腕の立つ者を使うしかない。
奥さまはふと首を傾げた。
「そう言えば何で外出するのにアンネリースの許可が必要なのよ」
私は思わず吹き出るように笑いが漏れた。
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