焦げすぎた目玉焼きは吐き出したくなるくらい苦かった

神永 遙麦

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焦げすぎた目玉焼きは吐き出したくなるくらい苦かった

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 頼むから、ひとおもいに言ってくれ。
 お前なんか必要ないと。

 僕が悪いの知ってる。そう、全部全部僕が悪い。レジの打ち間違えだなんて店の信用に関わる話だ。だから叱られても仕方がない。謝る正当性もある。
 だけどさ、同じことを20分も叱る必要あるの? お客様もどんどんいらっしゃるのにさ。叱られながらも作業を続けようとすれば叱られる。だけど、手を止めているとまた叱られる。どうしろと。

 僕は休憩室でグルグルと「死にたいなぁ」と思いながら考えていた。こういうのを「希死念慮」と言うことくらいは知ってる。
 何を見ても灰色。温かみも冷たさもない、ただ単調なモノクロの世界。弁当を食べても味がよく分からない。焦げてるはずなのに苦味すらない。砂食ってるみたい(小さいころ、公園で食ったことある)。
 自分が何したいのかも分かんない。一応夢はある。高尚な仕事。だけど僕には無理だとしか思えない。

 あと20分で休憩時間が終わる。40分って早い。
 早く、もとの調子に戻らないと。何を言われても笑う僕に。
 僕は全ての感覚を舌先に集中させた。もう何も考えたくない。
 疲れた。

 この目玉焼きの味は……砂…………。
 いや、若干苦い。すごく苦い。吐き出したくなるくらい苦い。

 焦げた目玉焼きが苦すぎて、弁当箱の蓋に退けた。
 急に泣きそうになった。抑えようと思えば抑えられる。だけどここで抑えたら何かがマズい気がする。
 僕の胸の奥で何かが、固いものが破れようとしている。
 浅漬けしょっぱ! 塩分過多で死ぬわ!

 感覚が蠢く間、涙が出そうだった。泣いたらやばい。まだバイト中。
 必死に込み上げるものを抑えながら見た世界は色を取り戻しそうになったり、灰色に戻ったりの反復横跳びを繰り返していた。

 誰か、言って欲しい。
 僕は必要とされている、と。
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