テイマーの嫁は最強!? ~魔剣と古の金の鳥~

にわ冬莉

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出発の日

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「じゃ、色々世話になったな」
 マキがリオンの手をガッチリと握る。
「いや、こちらこそ。貴重な鳥を手に入れることが出来たよ」
「ナダ様……」
 エルフィは寂しそうである。
「エルフィ、そんな顔をするな。またどこかで会えるさ」
「本当に?」
「お前はマキと対《つい》の魔剣を持っているからな。イルミナルクもいるし。私たちの行く先のどこかで、鉢合わせる可能性は充分ある」
 その言葉を聞き、嬉しそうに顔をほころばせる。

 二人はしばらく放浪するのだという。
 長い間あの地に閉じ込められていた時間を取り戻すべく、あちこち旅をしたいのだろう。

「それじゃ、またな」
 あっけなく去っていく二人の後ろ姿を見つめる。長年連れ添ったのであろうその後姿は、付かず離れず、然るべき距離を保っているように見えた。

「さ、俺たちも行こう」
 リオンが手を差し出す。エルフィがその手を取った。
「はい、リオン様」

 森を歩く。
 ゆっくりと、同じ歩幅で。

 同じ景色を見ながら。

*****

 屋敷に戻ると、早々にガルマ・メイナーがリオンの肩に手を置いた。

「して、嫁を《《きちんと娶《めと》る》》ことは出来たのか?」
 ニヤニヤ顔である。
 リオンはポーカーフェイスを装い、
「俗なことを……」
 と顔をしかめて見せる。が、耳が真っ赤であることを、父ガルマは見逃さなかった。

「楽しかったならそれでよい。ところで、今度はザハードに行くそうだな?」
「ええ、珍しい魔獣をテイムしたのですが、アデナディールにはその魔獣の文献がないようなので、大陸図書館に行ってみようかと」
 二人と別れた後、リオンはその足でイルミナルクを調べるためアデナディールの国立図書館に向かった。だが、そこにはアデナディール関連の文献は何もなかったのだ。司書に聞いたところ、古い文献が揃っているのは大陸の南……ザハードだろうという。

 そしてリオンがイルミナルクを調べる間、エルフィは魔剣についての本を読んでいた。歴史書、伝記などを引っ張り出す。そこで見つけた魔剣の話は、どれも百年単位で昔の話である。こと、捕縛師に至っては、最後に活躍を見せたのは二百年以上前なのだ。いくらナダが捕縛師の「末裔」とはいえ、二百年も前の仕事を受け継いでいるとは思えない。

 一体彼らはどれだけの年月を、あの森で過ごしていたというのだろう。リオンとエルフィがたまたまあの場所を訪れなければ、今でも……そしてこれからもあの場所で過ごしていたということなのだろうか。

「……これって」
 ペラペラと捲るページに気になる単語を見つける。
『黄金の鳥』
 これはイルミナルクのことではないのか?

 それはとある伝記の中に書かれていた。著者は不明だ。書かれた時期も定かではない。が、金色の鳥を連れた一行が、大陸カナディアの危機を救ったような話が綴られている。その後、一行は忽然と姿を消した、とあった。
 簡単な文章でしか綴られておらず、これが本当の話なのか創作なのかもわからない。ただ、描いてある挿絵は三人。背の高い男性は腰に太くて長い剣を、もう一人、髪の長い男性は法衣を纏い肩に鳥を乗せ、女性は細い長剣を腰に下げていた。

「ナダ様……?」

 『お前たちの登場は賢者の予言通りだ』とマキは言っていた。この、法衣を着ている男性が賢者なのだとしたら……? これはナダとマキなのではないのか? という疑問が当然のごとく湧き上がる。彼らが倒した強大な敵とは、なんだったのか。行方が忽然と消えたのは、あの地に封印されてしまったからではないのか。照らし合わせれば合点がいく、いくつかの共通項。

「エルフィ」
 イルミナルクについて調べていたリオンが特別展示室から戻った。古い文献は奥の部屋、司書立ち合いでしか見ることができないのだ。

「どうですか、リオン様? イルミナルクについて、なにかわかりましたか?」
「ダメだ。ここにはないよ。こうなったら大陸図書館に行くしかないな」
「大陸図書館……。ザハードですね」
「エルフィは? 何かわかった?」
「ええ、それが……、」
 見つけた文献を見せ、推測ではあるが、と自分の意見を述べる。
「なるほど、これはこれで興味深いな」
「古書の中に、もっと詳しい話が書かれているかもしれません。行きましょう、ザハードへ!」

*****

 大陸カナディアには、その中央を斜めに横断する形でネロム山脈が鎮座している。東側はアデナディール。そして南にザハードがある。栄えているのはアデナディールだ。しかし、歴史が古いのはザハードである。
 山脈沿いに進む道は険しく、獣なども多い。人々は街道に沿って海側を進んでいくのが当たり前だった。

「ま、そうはならんわけだな」

 目の前でニコニコしながらウッドベアと対峙するエルフィを見ながら、リオンが呟く。
「もっと強い獣が出てこないかなぁ。物足りないな」
 仮面をつけたエルフィが、剣を鞘にしまいながら呟いた。
「あ、そうだリオン様。ザハードに着いたらギルドに寄ってみません? 一度あっちのダンジョンにも潜ってみたい!」
 ふふ、などと笑みを漏らし、楽しそうである。

『誰にも負けないくらい強くなる』

 そう言っていたあの言葉は伊達ではないようだ。

「調べ物が終わったら行ってみるか」
 リオンは戦いになど興味はない。が、嬉々として剣を振るうエルフィを見るのは嫌いではなかったし、シアとアディも喜ぶだろう。
「ありがとうございます、リオン様!」
 リオンの腕に絡みつき、喜びを表現する。

「文献を読んでわかったのですが」
 エルフィがリオンにくっついたまま話を切り出す。
「なんだい?」
「昔は冒険者の半数は女性だったんですよ。信じられます? 今や二割がいいところだっていうのに!」
 しかも女性は魔導士がそのほとんどだ。怪我を治すヒールと、敵の攻撃を防ぐための結界さえ使えればそれでいい。直接戦闘に混じるような関わり方はしないのが当たり前になっていた。

「それは……多分、それだけ平和になったっていうことじゃないかな?」
 のんびりと、リオンが答える。
「先人たちが、そういう世の中を作ってくれたんじゃないのかな?」
「でも、だからって女性を蔑ろにするのはよくないですっ」
「蔑ろになんてしないさ。少なくとも俺は、エルフィが剣を振るってる姿を見るのは嫌いじゃないし、冒険者じゃなくても、活躍してる女性はみんな素敵だと思うな」
「本当に?」
 不安げにリオンを見上げる。
「本当に。エルフィはもっともっと強くなるんだろ? 俺も足手纏いにならないようにしなくちゃな」
 少し、茶化してみせる。

「大丈夫です! 私と、シアとアディがいたらもう怖いものなしです!」
 傍らにいるブラックドッグと赤竜を撫でつけ、エルフィがドヤ顔で言った。こうしてみると、なんだか仲の良い兄弟のようだな、などとおかしなことを想像してしまうリオンである。

 ザハードまでの道のりはまだまだ長い。二人と三匹の旅は、のんびりと、時に激しく続くのである。

 そしてイルミナルクや魔剣についての真実を知った二人が、新たな旅へと出発することになるのは、また別のお話……。


~FIN~
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