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愛のカタチ
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精霊が成人する為の方法は二つあった。
十五年を地上ですごしたのち、月食の夜に地上を後にし、天上界への道を昇り切ること。これが最も一般的な方法である。天上界の入り口は薄い結界のようなものが張ってあるのだが、その結界をくぐると天上界の神聖なる空気に触れ、未熟だった体は水を得た魚のように活発になり、一瞬の後に成長する。精霊である事を神が認める瞬間でもあった。
そして二つ目。
いわば「結婚の儀式」とでもいうのだろうか、ごく稀にだが天上界へ昇らずに地上で伴侶を見つけ、子を成す場合があるのだ。恋をした精霊はその相手と口付けを交わす。相手の愛が得られれば体は変化し、成人になる。もし、そうでなかったときには、精霊は死ぬのである。とても危険な成人への道だった。
「そんなこと、俺は知らなかったぞ!」
ラセルは力一杯抗議を試みた。が、等の本人……アーリシアンはラセルの腕に引っ付いたままニコニコ笑うだけだった。
「聞いてるのかっ?」
「だって私、ラセルのお嫁さんになりたかったんだもんっ」
きゅっ。
掴まる腕に力が篭り、ついでに頬を摺り寄せる。ラセルは大きく溜息をはき、言った。
「一歩間違えば命を落としていたかもしれないんだぞっ?」
「でも、ラセルは私を愛していてくれたじゃないっ」
「そっ、それはっ……愛じゃないっ」
「嘘!」
「嘘じゃないっ。もし、お前に対してそういう気持ちに似たものがあるとするなら、それは父性愛だっ。父性愛っ! わかるか? 父親が子供に対して持つ情のことだっ」
一気に捲し立てる。
「……でも、愛でしょ?」
にこにこにこっ。
更に輝きを増した微笑み攻撃。今までの愛らしさとは違う、大人の女の微笑み。
クラッ、
ラセルは正直、参っていた。今までと勝手が違うのだ。子供だったアーリシアンの姿はどこにもない。今、自分の目の前にいるのは世の中で最も美しいとされる成人した光の精霊なのだから。
「とにかくっ、俺はお前と結婚なんかする気はないからなっ」
ビシ! とアーリシアンを指し、言い放った。アーリシアンの顔がみるみる歪み、その瞳からは大粒の涙が流れ始める。たじろぐ、ラセル。
「…そんな……なにもそんな言い方しなくたって……」
焦る、ラセル。いつもならここで『言うことを聞かないお前が悪いっ』と叱り付けるところだが、どうも……。
「……悪かったよ。泣くなよ」
明後日の方向を見て、謝る。心なしか顔が赤い。……そう、『父親』であったはずの彼は、まんまとアーリシアンの色香にやられてしまったのである。
「……じゃあ、」
アーリシアンの顔がパーッと晴れる。
「いやっ、ちょっと待て。言い過ぎたことは謝るが、俺はお前と結婚はできないぞ」
「どうしてよっ」
「お前、自分がなんだかわかってるのか?」
「……?」
「……あのなぁ、」
ラセルは頭を抱えた。異種同士での結婚など、今だかつて聞いた事がない。大体、精霊と闇の住人……魔物とは住む世界も違えば思想も生き方も、全てにおいて相反している。本来二つの種は忌み嫌い合う仲であり、一緒にいることがお互いの仲間に知られればただでは済まない程不自然な組み合わせなのだ。
「俺は地の宮に帰らなきゃならないんだ。お前を連れて行くことは出来ないんだよ」
「どうしてよ?」
「……環境が悪すぎる」
「そんなの平気よっ。私、ラセルがいればそれだけでいいんだもん」
「……そういうことじゃなくて、」
「私、平気よ? 大丈夫っ。ね、行きましょう、地の宮へ!」
ラセルは地の宮で待つ輩の顔を片っ端から浮かべ、深く、深く溜息を吐いた。地の宮を出てから十五年が経っている。彼らの寿命を考えれば大した時間ではないが、それでも大問題になっているはずだ。このまま、アーリシアンを連れて別の場所へ向かう方が得策ともいえる。が……、
「来い、アーリシアン」
くい、とアーリシアンの手を取り、ラセルはある場所へと急いだ。
十五年を地上ですごしたのち、月食の夜に地上を後にし、天上界への道を昇り切ること。これが最も一般的な方法である。天上界の入り口は薄い結界のようなものが張ってあるのだが、その結界をくぐると天上界の神聖なる空気に触れ、未熟だった体は水を得た魚のように活発になり、一瞬の後に成長する。精霊である事を神が認める瞬間でもあった。
そして二つ目。
いわば「結婚の儀式」とでもいうのだろうか、ごく稀にだが天上界へ昇らずに地上で伴侶を見つけ、子を成す場合があるのだ。恋をした精霊はその相手と口付けを交わす。相手の愛が得られれば体は変化し、成人になる。もし、そうでなかったときには、精霊は死ぬのである。とても危険な成人への道だった。
「そんなこと、俺は知らなかったぞ!」
ラセルは力一杯抗議を試みた。が、等の本人……アーリシアンはラセルの腕に引っ付いたままニコニコ笑うだけだった。
「聞いてるのかっ?」
「だって私、ラセルのお嫁さんになりたかったんだもんっ」
きゅっ。
掴まる腕に力が篭り、ついでに頬を摺り寄せる。ラセルは大きく溜息をはき、言った。
「一歩間違えば命を落としていたかもしれないんだぞっ?」
「でも、ラセルは私を愛していてくれたじゃないっ」
「そっ、それはっ……愛じゃないっ」
「嘘!」
「嘘じゃないっ。もし、お前に対してそういう気持ちに似たものがあるとするなら、それは父性愛だっ。父性愛っ! わかるか? 父親が子供に対して持つ情のことだっ」
一気に捲し立てる。
「……でも、愛でしょ?」
にこにこにこっ。
更に輝きを増した微笑み攻撃。今までの愛らしさとは違う、大人の女の微笑み。
クラッ、
ラセルは正直、参っていた。今までと勝手が違うのだ。子供だったアーリシアンの姿はどこにもない。今、自分の目の前にいるのは世の中で最も美しいとされる成人した光の精霊なのだから。
「とにかくっ、俺はお前と結婚なんかする気はないからなっ」
ビシ! とアーリシアンを指し、言い放った。アーリシアンの顔がみるみる歪み、その瞳からは大粒の涙が流れ始める。たじろぐ、ラセル。
「…そんな……なにもそんな言い方しなくたって……」
焦る、ラセル。いつもならここで『言うことを聞かないお前が悪いっ』と叱り付けるところだが、どうも……。
「……悪かったよ。泣くなよ」
明後日の方向を見て、謝る。心なしか顔が赤い。……そう、『父親』であったはずの彼は、まんまとアーリシアンの色香にやられてしまったのである。
「……じゃあ、」
アーリシアンの顔がパーッと晴れる。
「いやっ、ちょっと待て。言い過ぎたことは謝るが、俺はお前と結婚はできないぞ」
「どうしてよっ」
「お前、自分がなんだかわかってるのか?」
「……?」
「……あのなぁ、」
ラセルは頭を抱えた。異種同士での結婚など、今だかつて聞いた事がない。大体、精霊と闇の住人……魔物とは住む世界も違えば思想も生き方も、全てにおいて相反している。本来二つの種は忌み嫌い合う仲であり、一緒にいることがお互いの仲間に知られればただでは済まない程不自然な組み合わせなのだ。
「俺は地の宮に帰らなきゃならないんだ。お前を連れて行くことは出来ないんだよ」
「どうしてよ?」
「……環境が悪すぎる」
「そんなの平気よっ。私、ラセルがいればそれだけでいいんだもん」
「……そういうことじゃなくて、」
「私、平気よ? 大丈夫っ。ね、行きましょう、地の宮へ!」
ラセルは地の宮で待つ輩の顔を片っ端から浮かべ、深く、深く溜息を吐いた。地の宮を出てから十五年が経っている。彼らの寿命を考えれば大した時間ではないが、それでも大問題になっているはずだ。このまま、アーリシアンを連れて別の場所へ向かう方が得策ともいえる。が……、
「来い、アーリシアン」
くい、とアーリシアンの手を取り、ラセルはある場所へと急いだ。
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