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『愛を成就させる為の鉄則!』
そう、メモ用紙には綴られていた。
結局、千景はあの廃ビルで人の恋路についてライと延々語り合っていた。祭りまで日がない。なんとかして都築一也を口説き落とし(?)睦美の恋を成就させなければ!
「あ、むっちゃん! おはよう」
先を歩いていた睦美を見つけ、声を掛ける。いつもと同じ、朝の光景。
「おはよ。……あれ? 千景、また寝不足?」
そうなのだ。母親に見つからないように、と廃ビルへ出掛けるため、どうしても時間が遅くなってしまう。チャオはともかく、ライは話も長いし纏まりがつかず、睡眠時間が極端に削られているのは確か。
「うん。色々作戦立ててたら寝るの、遅くなっちゃって」
「作戦って……あたしの為にっ?」
睦美が大袈裟に喜んで見せる。と、タイミングよく自転車がわきを通った。都築一也である。日課であるかのように、通りすがりに睦美の頭を小突いた。
「オッス!」
「痛ったー。んもーっ、一也のバカっ!」
昨日と何ら変わらない光景だ。が、千景が走り去る都築一也にブンブンと手を振り、挨拶をしたのだ。
「都築君、おはようー!」
「……お、おおっ」
突然のことで、彼も慌てたらしい。段差に自転車を引っ掛け、転びそうになっていた。
「……どうしたの? 千景」
思わず睦美が尋ねる。
「うんと、作戦その一。都築君に近付いて、情報を引き出したり押し込んだり作戦!」
「……なに? それ」
「だからー、お祭りに誘い出すにも手順があるってこと! 都築君がむっちゃんのことどう思ってるかもわかんないし、情報引き出すだけじゃなくて、情報流して好印象与えておこうっていうわけよ」
「変なこと言わない?」
「印象よくすることしか言わないって!」
「……うん」
恥ずかしそうに目を伏せる。ああ、恋っていいなー、などと千景は感動したのだった。
「あ、ところでむっちゃんさぁ、『金色のネズミ』って知ってる?」
「……なにそれ?」
「やっぱ知らないか」
「金色のネズミがどうかしたの?」
「ううん、何でもない」
睦美と都築君を結びつける作戦を練ると同時に、千景にはネズミ探し、という課題も残っているのだ。しかしどんなに調べても金色のネズミの関わる情報は見つからない。ライたちは期限が迫っている、と随分慌てている様子だった。そっちもなんとかしなくては。
「ふぁぁ~」
あくびが止まらない。が、こんな風に楽しいのはいい。千景的には、今の状況はまんざらではないのである。
「ねぇ、千景」
「ん?」
「お祭り、千景は誰と行くの?」
唐突な睦美の質問にはっとする。
「ああ、そうだ。誰と行こう?」
そんなこと考えていなかった。睦美と一緒に行けないなら、誰かを誘っておかなくては。さすがに一人でお祭りに行くのは寂しすぎる。
「あの、さ。一也と、伊波君と四人っていうのは?」
「……伊波君?」
初登場である。
「そ。一也の友達なんだけど、二人ずつなら行きやすいじゃない? ね? どう?」
睦美の言いたいことはわかる。二人きりだとどうしていいかわからないから、千景にも側にいて欲しいのだ。しかし、千景は都築君も、伊波君も、知らない。知らない男子と一緒にお祭りに行くのは気分的に疲れるような気がしていた。
「考えておく。都築君誘うときに二人きりじゃイヤだ、って言われたらその作戦は使えそうだね」
「でしょ?」
睦美は嬉しそうだ。千景と伊波君が付き合えばずっとグループ交際が出来る、くらいに思っているのだろう。
「で、一也にはいつ言うの?」
「……うーん。明日……かなぁ?」
チャンスがあればいつでもいいのだが、まさかクラスまで押しかけて誘うなんてこと出来ないし、部活が終わるまで待って待ち伏せするのも怪しいし。その辺、考えあぐねているところではある。
「早いうちになんとかするって」
と、適当なことを言ってしまう千景なのであった。
*****
放課後。
千景は図書室にいた。例の金色ネズミについて調べているのだ。しかし中学の図書室にある書物なんてたかが知れている。専門書ではないし、調べようにも限度がある。生物図鑑だってほとんど調べ尽くしているのだ。
「ふぁ~」
目がチカチカする。分厚い図鑑をパタリと閉じると、視線を上げた。バチッと目が合ってしまう、人物。
「あ……、」
向こうも千景を見ていたらしい。慌てて視線を外し、そ知らぬフリ。しかし、こんな場所で出会うとは、意外である。
千景はそのままの姿勢で彼を見続けていた。と、向こうもまた、千景を見たのである。
ニコッ
と笑いかけ、軽く会釈。つられた彼も、思わず会釈。
「本、返しにきたの?」
「……うん」
彼……都築一也はなんとも不思議そうに千景の質問に答えていた。
「今ね、図書室の先生会議中でいないんだ。返す本は、そこに置いて行っていい、って」
「あ、そう」
一也は少し困っていた。この女子が睦美の友達であることは知っている。が、直接話したのは今朝が初めてだ。クラスも違うし、出身中学も違う。なのにどうしてこう積極的に声を掛けてくるんだ?
「あの……、なんか調べもの?」
なんとはなしに、訊ねる。と、千景は目を輝かせて言ったのである。
「そうなんだっ。都築君さ『金色のネズミ』って知らないっ?」
「へ?」
あまりにも突飛な単語に、思わずのけぞる一也。確かに、彼女が読んでいた本は生物図鑑ではある。が、金色のネズミ? それを調べてどうしようというのか。
「知らねぇ」
「だよねー。アハ、ごめん。気にしないで」
放課後の図書館。
誰もいない図書館。
千景は、心の中でガッツポーズをとっていた。
(お近づき作戦、成功だわっ)
……そうなのだろうか……。
「あ、俺そろそろ部活あるから」
「うん。頑張ってねー」
ひらひら、と手を振って見送ったのである。
「……ああっ!」
そして今更ながらに気付く。
「あたしったらバカみたいっ。今、言っちゃえばよかった。お祭りのこと……」
せっかくのチャンスを、台無しにしてしまった。自分がお近づきになるより先に、睦美とのデートを約束させてしまえばそれでよかったのだ。
「あーん、失敗したー」
そしてまた机に突っ伏したのだった。
そう、メモ用紙には綴られていた。
結局、千景はあの廃ビルで人の恋路についてライと延々語り合っていた。祭りまで日がない。なんとかして都築一也を口説き落とし(?)睦美の恋を成就させなければ!
「あ、むっちゃん! おはよう」
先を歩いていた睦美を見つけ、声を掛ける。いつもと同じ、朝の光景。
「おはよ。……あれ? 千景、また寝不足?」
そうなのだ。母親に見つからないように、と廃ビルへ出掛けるため、どうしても時間が遅くなってしまう。チャオはともかく、ライは話も長いし纏まりがつかず、睡眠時間が極端に削られているのは確か。
「うん。色々作戦立ててたら寝るの、遅くなっちゃって」
「作戦って……あたしの為にっ?」
睦美が大袈裟に喜んで見せる。と、タイミングよく自転車がわきを通った。都築一也である。日課であるかのように、通りすがりに睦美の頭を小突いた。
「オッス!」
「痛ったー。んもーっ、一也のバカっ!」
昨日と何ら変わらない光景だ。が、千景が走り去る都築一也にブンブンと手を振り、挨拶をしたのだ。
「都築君、おはようー!」
「……お、おおっ」
突然のことで、彼も慌てたらしい。段差に自転車を引っ掛け、転びそうになっていた。
「……どうしたの? 千景」
思わず睦美が尋ねる。
「うんと、作戦その一。都築君に近付いて、情報を引き出したり押し込んだり作戦!」
「……なに? それ」
「だからー、お祭りに誘い出すにも手順があるってこと! 都築君がむっちゃんのことどう思ってるかもわかんないし、情報引き出すだけじゃなくて、情報流して好印象与えておこうっていうわけよ」
「変なこと言わない?」
「印象よくすることしか言わないって!」
「……うん」
恥ずかしそうに目を伏せる。ああ、恋っていいなー、などと千景は感動したのだった。
「あ、ところでむっちゃんさぁ、『金色のネズミ』って知ってる?」
「……なにそれ?」
「やっぱ知らないか」
「金色のネズミがどうかしたの?」
「ううん、何でもない」
睦美と都築君を結びつける作戦を練ると同時に、千景にはネズミ探し、という課題も残っているのだ。しかしどんなに調べても金色のネズミの関わる情報は見つからない。ライたちは期限が迫っている、と随分慌てている様子だった。そっちもなんとかしなくては。
「ふぁぁ~」
あくびが止まらない。が、こんな風に楽しいのはいい。千景的には、今の状況はまんざらではないのである。
「ねぇ、千景」
「ん?」
「お祭り、千景は誰と行くの?」
唐突な睦美の質問にはっとする。
「ああ、そうだ。誰と行こう?」
そんなこと考えていなかった。睦美と一緒に行けないなら、誰かを誘っておかなくては。さすがに一人でお祭りに行くのは寂しすぎる。
「あの、さ。一也と、伊波君と四人っていうのは?」
「……伊波君?」
初登場である。
「そ。一也の友達なんだけど、二人ずつなら行きやすいじゃない? ね? どう?」
睦美の言いたいことはわかる。二人きりだとどうしていいかわからないから、千景にも側にいて欲しいのだ。しかし、千景は都築君も、伊波君も、知らない。知らない男子と一緒にお祭りに行くのは気分的に疲れるような気がしていた。
「考えておく。都築君誘うときに二人きりじゃイヤだ、って言われたらその作戦は使えそうだね」
「でしょ?」
睦美は嬉しそうだ。千景と伊波君が付き合えばずっとグループ交際が出来る、くらいに思っているのだろう。
「で、一也にはいつ言うの?」
「……うーん。明日……かなぁ?」
チャンスがあればいつでもいいのだが、まさかクラスまで押しかけて誘うなんてこと出来ないし、部活が終わるまで待って待ち伏せするのも怪しいし。その辺、考えあぐねているところではある。
「早いうちになんとかするって」
と、適当なことを言ってしまう千景なのであった。
*****
放課後。
千景は図書室にいた。例の金色ネズミについて調べているのだ。しかし中学の図書室にある書物なんてたかが知れている。専門書ではないし、調べようにも限度がある。生物図鑑だってほとんど調べ尽くしているのだ。
「ふぁ~」
目がチカチカする。分厚い図鑑をパタリと閉じると、視線を上げた。バチッと目が合ってしまう、人物。
「あ……、」
向こうも千景を見ていたらしい。慌てて視線を外し、そ知らぬフリ。しかし、こんな場所で出会うとは、意外である。
千景はそのままの姿勢で彼を見続けていた。と、向こうもまた、千景を見たのである。
ニコッ
と笑いかけ、軽く会釈。つられた彼も、思わず会釈。
「本、返しにきたの?」
「……うん」
彼……都築一也はなんとも不思議そうに千景の質問に答えていた。
「今ね、図書室の先生会議中でいないんだ。返す本は、そこに置いて行っていい、って」
「あ、そう」
一也は少し困っていた。この女子が睦美の友達であることは知っている。が、直接話したのは今朝が初めてだ。クラスも違うし、出身中学も違う。なのにどうしてこう積極的に声を掛けてくるんだ?
「あの……、なんか調べもの?」
なんとはなしに、訊ねる。と、千景は目を輝かせて言ったのである。
「そうなんだっ。都築君さ『金色のネズミ』って知らないっ?」
「へ?」
あまりにも突飛な単語に、思わずのけぞる一也。確かに、彼女が読んでいた本は生物図鑑ではある。が、金色のネズミ? それを調べてどうしようというのか。
「知らねぇ」
「だよねー。アハ、ごめん。気にしないで」
放課後の図書館。
誰もいない図書館。
千景は、心の中でガッツポーズをとっていた。
(お近づき作戦、成功だわっ)
……そうなのだろうか……。
「あ、俺そろそろ部活あるから」
「うん。頑張ってねー」
ひらひら、と手を振って見送ったのである。
「……ああっ!」
そして今更ながらに気付く。
「あたしったらバカみたいっ。今、言っちゃえばよかった。お祭りのこと……」
せっかくのチャンスを、台無しにしてしまった。自分がお近づきになるより先に、睦美とのデートを約束させてしまえばそれでよかったのだ。
「あーん、失敗したー」
そしてまた机に突っ伏したのだった。
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