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STEP.06 転がる先は誰でしょう
しおりを挟む───私はあの日、
冬真君があの美人さんに元カノ確定だと思う彼女に優しい笑顔を向けているのをこの目で見てしまってから。
「無理無理無理無理ぃ!」
もう1週間も経過しているというにも関わらず、
「だから1回ね、ちゃんと会って話して確かめてきなさいって」
「む―りぃ―!!!」
1度も冬真君に会っていない。
───というより。
またあの場面を見たらきっともう立ち直れない気がして会えないでいるのだ。
香奈枝にあの日見たことはもちろん報告した。
しかし香奈枝は、ちゃんと確かめろとか私の気のせいかもだとか言ってくるから。
「島村君だけなんだよぉ、私の気持ち分かってくれるのはぁ!」
私はこの1週間ですっかり島村君っ子になった。
「島村困ってんでしょ!」
「痛い痛いー」
島村君の腕にガシっとしがみつこうとした私。
しく香奈枝に頬を抓まれ、断念。
「あんたがあの勢いなくしたら、どこに顔以外の取り柄が残んの」
「ひっど!」
香奈枝はそう言って私を冬真君の元へやって事実を確かめようとさせるけど。
私が冬真君にどんどん会えなくなっている理由は実はもっと他にある。
「…いい。別にいいんだもん」
分かっていたことだけれど、ちょっとは期待していた。
冬真君は私になんて興味ないって、そんなことぐらいとっくに分かっていたのに。
冬真君の元にストーカーと呼ばれながらも毎日毎日通っていた私が急に顔を出さなくなり。
そしてもう1週間も経つのに。
「…やっぱ私の一方通行に変わりないんだもん」
冬真君が、あいつどうしたんだろって。
私を心配して教室に来てくれる…なんてことはもちろんないし。
誰かに私が生きてるか尋ねてくれた様子だってない。
私の存在すらきっと忘れている。
どうにか冬真君の視界に入れて欲しくてあんなに頑張ったのに。
めげないで頑張ったのに。
そりゃ私はポジティブな人間だけど。
冬真君の冷たさに途中何度も挫けそうになって。
だけど好きだから頑張って頑張って。
なのに結局、何も伝わってないし何も変わってない。
───…私の努力は報われない。
そう考えてしまう日々。
こんなにもぽっかりとからっぽな気持ちになったのは本当に久々だ。
冬真君に再び出会えてからはどんなに嫌がられたって。
どんなに冷たくされたって。
毎日楽しかったし、輝いていたのに。
「…無理することないんじゃない?」
シュンと俯いていた私に香奈枝とは違った少し低い優しい声が落ちてきた。
「たまには休憩も必要だって」
その声は優しく微笑む私の味方の島村君のもの。
「今まであんなに頑張ってたんだから。少し息抜きして、また元気になったら頑張ればいいよ」
「島村君…」
他の人とは違うセリフ。
頑張ってきた私に、ひたすら走り続けてきた私に、今は少し休んでもいいと言ってくれる。
「うん、そーうーすーるー!」
涙を目に溜めながら返事を叫ぶと島村君はまた優しく笑う。
その隣で香奈枝も小さく息を吐きながら、「ま、それもありか…」そう呟きながら私の零れてしまった涙を拭ってから頭をゆっくり撫でてくれた。
私の頭を優しく撫でる香奈枝は、
「この際、他の男に乗り換えるのも手だね」
そんなことを言ってニヤリと笑ってみせる。
私はもちろん、
「え、嫌だよ」
即、その案を却下した。
「なんだ、諦めない気満々じゃん」
私の間髪入れずに返した言葉を聞いた香奈枝は満足げに優しく笑って。
「…騙したな」
「いやいや、騙してはいない」
ようやく気づく香奈枝の優しさ。
確かに、私と冬真くん。
その関係は何も変わっていないかもしれない。
だけど少なからず、1歩でも。
半歩だとしてもでも。
何もしていなかった日々より冬真くんに近づいているのは、きっと確かなことだ。
目に見えないことを判断するのは難しい。
だからこそめげずに頑張る勇気が欲しい。
頑張って走り続けて疲れたなら少し休めばいい。
そしたらまた、今度はきっと前の倍頑張る勇気が湧いてくる。
香奈枝のおかげで分かった。
確かに何も変わっていない。
私の気持ちは。
冬真君を思う気持ちは。
何にも変わっていない。
だからまた頑張れる。
だから、───また頑張ろう。
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