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かかってこい!
しおりを挟む「冬真君っ!」
───私、久遠雛乃は、
「…久遠さん、毎日元気だね」
「ありがとう!」
「褒めてるんじゃないよ?」
完全復活いたしました。
「あ、雛乃ちゃん」
「雪乃さん、こんにちは」
「毎日大変ね」
「大丈夫ですよ。私体力自信あるんで」
冬真君に会いに来る度に二人の時間を阻止するかのように登場し、相変わらず綺麗に笑う雪乃さんのおかげで完全復活できたんです。
もちろん。
私達の間に火花は散っているが。
「ふふふ」
「ふっふふふふ」
だからこそ完全復活しなきゃいけない。
雪乃さんの方が冬真君と何倍も親しいし近い存在であることは誰が見ても確かなのだから。
しかし、気持ちでは決して負けない。
冬真君は私と雪乃さんの板ばさみに合う度に苛立ち魔王の部分を隠そうと必死で大変そうではあるが、そこは我慢してもらうとして。
私は今まで通り私らしく全力で突っ走るだけだ。
「冬真君、今日はお昼お弁当?」
「食堂だけど」
「じゃあ私も一緒に───」
「ごめんね、冬真は私達と食べるの」
そしてこの数日で実感したが、雪乃さんは冬真君が時おりみせる優等生後藤君らしからぬ言動を気にする様子が見えない。
やはり冬真君の魔王時代を知っているとしか思えないのだ。
それに何より魔王の冬真君を傍で見ていられたのだと思うと…
─く、悔しい。
そんな気持ちが出てきてしまうこともあるけど。
「たまには私も冬真君と過ごさせてくださいよ」
「私達の方が約束が先だから」
「でも雪乃さんはクラスも一緒なんだから私にちょっとぐらい冬真君との時間譲ってくれてもいいじゃないですか」
「独占してるつもりはないんだけどね」
「だったら今日のお昼、私一緒したって問題ないじゃないですか」
「問題ないとかそう言うこと言ってるんじゃないの。ただ私達がが先約なの」
いつだって優しく冷静に綺麗な笑顔で私に返事をする雪乃さんに負けてはいられない。
「あ、もしかして雪乃さん」
これは勝ち負けの話ではないのは分かっているけれど。
あえて例えるならば、冬真君を好きな気持ちは雪乃さんにも負けてはいないから。
それだけは誰にだって勝てる自信があるから。
「私と冬真君を一緒にするのが怖いんでしょ?」
だから普段通り強気に出ていかなくちゃ。
「…怖い?」
私の作ったぎこちない笑顔と彼女を煽る言葉に、雪乃さんの顔がほんの少しだけピクリと引きつった。
「怖くなんてないよ。んー、何が言いたいのか分からないな」
しかし歪んだ表情はすぐにどこかへ消え、いつものように微笑んでくる。
─手ごわいなぁ!
彼女の完璧なまでの笑顔、自身のペースを崩すことのない様子はいっそ怖くも感じる。
「じゃあ、こうしましょ」
が、しかし、こうして私と難なく張り合えるほどには気の強い性格のようだから。
「私は雛乃ちゃんを怖いなんて思ってない。だから、そんな誤解をされるのは嫌だから」
「うん?」
「今日は約束通り冬真は私達とお昼を過ごすけど、明日は雛乃ちゃんってことでどう?」
更には、意外と図星だったのかもしれない私が怖いのかというでたらめな質問に対して、
「つまり、1日交代で一緒に過ごせることにするの」
負けん気の強い性格からか何ともナイスな提案をしてくれた。
─思わぬ展開なんだけど!
めっちゃ煽られてくれるじゃん、ラッキー!
負けず嫌いの人にはさきのような挑戦的な発言は何らかの効果があるようだと脳内にしっかりメモ。
「それ、超いいと思いまっす!!」
私は挙手をしながら満面の笑みで彼女の案を肯定する。
…が、しかし、
「…何で俺の許可なく話が進んでいくのかな?」
忘れていました。
肝心の本人の意思。
「あ、すっかり忘れてた」
思わずポロっと出た私のいらぬ本音に後藤君スマイルは崩さずにするどい眼光を浴びせてくる冬真君。
冬真君の背後に魔王の姿が見えた気がした。
「その案、却下だから」
笑顔を作る為に細めた彼の目から出る恐ろしくするどい視線が言葉と共に降ってくる。
「えぇっ!」と、思わずもれる文句と不満な表情。
そんな私達を見ていた雪乃さんは、
「冬真がそう言うなら仕方ないわよね。雛乃ちゃん、悪いけど諦めてくれるかな?」
勝ち誇ったように優しく嬉しそうにそう告げてきて。
しかしそれに私が抗議の声を出すより早く、
「久遠さんだけじゃなくて、雪乃もだよ」
「え?」
続けて冬真君の口から出た思いもしなかった発言に雪乃さんの笑顔は美しいままに完璧にフリーズした。
「俺は昼ぐらいゆっくり食べたいんだよ」
後藤君ペースを崩さず優しい声色の冬真君の言葉に「でも、約束っ」と、珍しく雪乃さんが焦った表情を見せている。
─…雪乃さんでもあんな顔するんだ。
必死で冬真君に食らいつこうとする雪乃さん。
─なんか…私達は同じ人が好きなだけで結局は恋する乙女。
つまりは同士なんだよね。
と、そんな雪乃さんの姿に自分を重ねてみる。
しかし実際問題お昼が無理だとなると、私は雪乃さんと違いクラスはおろか学年さえ違う為、本当に接点なくなってしまう。
雪乃さんの抗議をBGMに頭を捻る。
─そうだ、そうだ!
その手があるんじゃん!
そしてひらめいた。
「ねぇ、冬真君」
冬真君とお昼を食べられるであろう最高の取引材料。
いや、最低の取引材料。
「ね、冬真君には秘密にしておきたいことがあるんだよね?」
正確に言えば冬真君の弱みを握っていることを思い出した。
「───私とお昼、食べたくなったでしょ?」
こちらを振り向いた冬真君の耳元でにんまりとそう囁いた。
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