問題児×問題児=大恋愛(1)

Taki

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開店!指名つきの喫茶店的なもの!

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楽しげな雰囲気が漂いだした賑やかなグラウンドの様子を窓から盗み見る。


「やっばい!テンションあがる!」


隣のクラスはバルーンアートやヨーヨー釣りなど縁日らしい催しを行うらしく、他のクラスの出店も色々と楽しげで早く周りたいとウズウズする。


「高校の文化祭って結構外部のお客さん来るんだ」

「だね。若い人多いねぇ」

「出会い目的とかじゃないの」

「冷めきった考え方やめてぇ」


黒色のタイトなロングドレスに身を包んだ香奈枝が窓から顔を出し、目をこらして校門にある受付を確認している。

いつもよりも大人っぽい濃いめの化粧は香奈枝の美人度を際立てている。

やはりロングドレスが異常に似合っていて良い。


「そろそろお客さん来るんじゃない?」

「楽しみだよな」

「売上1位目指したいよね!」


周りのざわめきが文化祭が始まったことを更に実感させてくれる。


「キッチン係、準備とウエイトレスと黒服の格好も出来てるな?」

「おっけいっす!」

「キャスト係!スーツとドレス着用OKだな?」

「完璧です!」


文化祭実行委員は人一倍はりきっているが、それに負けじとクラスメイトも声を張り上げて気合いを入れている。


─あぁ、文化祭って青春。


体育祭と同じように中学の時の文化祭を楽しめていない私。

だからこんな時間も全部楽しくてたまらない。


「よし。No.1役の雪斗、久遠!準備ふ大丈夫だな?あと後で揃って客引きよろしくな」

「はいはい」

「おっけー」


隣で少し面倒そうに返事した島村君は、1人だけ白いスーツ姿でキラメキを放ってあきらかに浮いている。
少し可哀想だ。


「島村君、白の衣装同士頑張ろうね」

「うん。久遠さんは色々大変だろうけど頑張ってね」


可哀想だけれど、島村君の笑顔は輝いていて真白い色がよく似合っている。

今日はきっと女の子の指名の連続で疲れるだろうなと今から少し同情してしまう。


「ヒナ、後で私も宣伝一緒に行くらしいよ」

「本当?やったー!」


実は私達No.1役以外にNo.2の役もいる。

それは黒色のスーツを少し着崩している井上君と同じく黒色を完璧に着こなしている香奈枝。

この2人だ。


「あっ、いらっしゃいませー!」


香奈枝のドレス姿は何度見ても似合いすぎるなとしみじみと眺めていると、教室に明るい声が響き渡った。


「お客様、2名様いらっしゃいましたー!」

「「いらっしゃいませー」」


急いで入口を振り返り笑顔で全員で挨拶をする。

そこには少し気まずそうにしている他クラスだろう女子生徒が2人いた。


「いらっしゃいませ、お客様。当店は指名つきの喫茶店的なもの!というコンセプトの喫茶店でございまして、その為好みのキャストを指名して同じテーブルに着くことも可能となっておりますが、いかがでしょうか?」

「し、指名ですか?」

「はい。この写真の中のキャストであれば男女どちらでも指名が可能です。指名はお客様につき1名まで、時間は10分間。料金はこちらになります」


簡易受付として教卓が廊下に出されている。

戸惑う女子生徒相手にすかさず文化祭実行委員が手のひらを擦り合わせながら営業口調で接客を始めたことで教室内が少しざわつく。


─なんか慣れてやしないか?


その姿はまるでベテランのよう。


「じゃ、じゃあせっかくだし誰か指名しようか」

「そうしよっか」

「かしこまりました!ありがとうございます。ちなみに当店では指名の延長はできかねますのでご了承下さい。さてどのキャストをご指名されますか?今なら誰でもすぐに同席可能でございます」


慣れた様子であらかじめ撮っていたキャスト係の写真を並べたメニュー表のようなものを笑顔で見せている文化祭実行委員の姿に、


「おい、あいつ絶対そういう店で働いてんぞ」

「素人じゃねぇよな」


男子生徒が小声でそんな会話を交わす程に彼の姿は板についている。


「じゃあ、No.1のこの人。ユキトさんお願いします」

「なら私No.2の人にする!」


女の子が口にした名前に隣の島村君を見上げる。


「島村君、さっそく指名入ったよ」

「いきなりか…」


複雑そうなその表情が少し笑える。


「さすがお客様、お目が高い!ささ、黒服が席までご案内致しますので、どうぞ中へお入り下さい」

「お客様。こちらへどうぞ」


文化祭実行委員の指示に黒服姿の男子生徒が丁寧に店内へ案内していく。

例のミラーボールは回りはしないものの、どこから調達してきたのかピンスポットのような光のおかげで一応はキラキラと輝いて見える。


「雪斗!」


実行委員長に小声で手招きされ、暗幕で教室の3分の1を区切って出来たスペース、キッチン兼スタッフルームとなっている場所に島村君が呼ばれて。

私に断ってからそちらへ向かった島村君。
井上君も実行委員長の隣で暗幕から顔を出している。

そしてすぐにおしぼりを持ちホールに出て来た2人。


「失礼のないようにな」

「おまえなんなの」


実行委員長の言葉にすかさず井上君がツッコむが、暗幕から少し顔を出してそれを無視せた実行委員長に今度は私がなぜか手招きされる。


「なにー」


お客さんの座っているテーブルはと向かっていく島村君と井上君を横目にスタッフルームへ入る。


「雪斗達さっそく指名入っちゃったし、久遠と草木で先に呼び込みしてきてくんないかな」

「あぁ、全然いいよー。文化祭の雰囲気味わいたいし」


何かと思えば少し早い宣伝係の頼みだった為、二つ返事で喜んでそれを受ける。


「んじゃあ頼むな。これ、プラカード持ってって」


指名つき喫茶店的なもの!と、大きくカラフルに書かれたダンボールを渡されたので、大人しく受け取りスタッフルームで寛いでいた香奈枝に声をかけて一旦ホールへ出る。

すでに席についた島村君と井上君の姿が見えた。

安っぽいソファーに腰かける4人をチラリと見ながら大変そうななと思いつつ、


─冬真君のクラスお化け屋敷でよかった。
ホストなんてされたらたまんないよ。


と、冬真君のことを考えてしまう自分がいて。


「って…うわぁ、嫌なこと思い出した」


せっかく今まであの事実を忘れていたのにふいに思い出してしまい、一気に現実に戻された気分になる。


─冬真君に会ったら笑顔だからね、雛乃!

いつも通りにしなきゃ。
お化け屋敷も絶対後で休憩の時にでも行こっと。


教室を出てすぐに携帯を触る香奈枝の隣でプラカードを掲げながら首を大きく振って邪念を払い、気合を入れ直す。


「せっかくの文化祭なんだもん。楽しまないでどうする。そうでしょ、香奈枝!」

「え、なに?どうしたの?そうだね」


いきなり大声を出した私を驚いて見た香奈枝。
彼女の返事に満足して頷く。


「えー、1年4組!指名つきの喫茶店的なもの!やってます!ぜひお越し下さーい」


とにかく今は任された仕事に専念し、お客さんをたくさん呼ぶことに集中しよう。


───と、気合いを入れたはいいが、


「きゃー!ヒナちゃん!なにそれ可愛い!絶対ミスコン投票するね!」

「あは、ありがと。それよりうちのクラスに───」

「久遠さん?問題児の久遠さん?えぐ!」

「何もえぐいことないです。それより1年4組で指名つきの───」

「お姉さん!隣のお姉さんも。今もしかして暇なの?なんでそんな格好してんの?2人ともマジで可愛いね」

「宣伝してまわってるの見えませんか。目ついてますか。良かったらうちのクラス───」

「久遠さん!俺と写真撮って下さい!」

「………」


代わる代わる話かけられて、全く宣伝ができない。


「こんなん宣伝なんてできるかバカヤロー!」


あまりの宣伝の言葉を遮って話しかけてくる皆の声にプラカードを思いっきり天井へと投げ捨てる。


─なんなの皆、なんなの皆!

これじゃ宣伝できない!
役に立てないー!!


「ヒナ、落ち着け」


廊下の真ん中で突然発狂する私。

見るからに様子のおかしい人間な上に投げたプラカードが頭に落ちてきて情けない。


「だって皆全然話聞いてくんない!宣伝できない!」

「大丈夫、大丈夫。ほら、よく周りの声聞いてみなよ」


怒りで半泣きになっている私に香奈枝が優しくそう言いながらプラカードが当たった頭を撫でてくれて。

言われた通り素直に耳を澄ませてみると、


「あの子ら可愛くねぇ?」

「マジだ。1年4組だって。ちょ後でクラス行って指名しよう」

「見てよ、あの子お人形さんみたい!友達なりたいな」

「指名できるとか面白そうだし、ちょっと行ってみよっか。かっこいい子いるかもだし!」


男の子や女の子のそんな会話が聞こえてきて。


「ね?あんたは充分役に立ってるから。そんだけ目立てば歩いてるだけでも宣伝になるから」


目を輝かせてぶんっと音が鳴る勢いで香奈枝を振り向くと、とても嬉しいことを教えてくれた。


「よっし!久遠雛乃、張り切って歩きます!」


途端に頬の筋肉が緩み頑張る元気が湧く私。


それから数十分程文化祭の雰囲気を楽しみつつクラスの宣伝をして教室へ戻ると、廊下の前には少し列があり。

さっきの人だと指差されていることで宣伝効果を実感する。


「お、2人とも帰ってきた!お疲れさま。宣伝効果抜群だぞ!」


上機嫌な実行委員長にもお褒めの言葉をいただけた程に盛況らしい。

受付の予約表にも待っている人の名前がズラリと記載されている。


「2人ともすぐホール業務戻れる?」

「大丈夫だよ。私達の休憩は午後だし」

「時間待ち以外にも2人のこと指名したいからって予約してくれてる人もいるんだよ」

「うっそ、なにそのいい人」


暗幕の奥に入って身だしなみを整えると目にはいってくるのは1人異常に動きまわっている実行委員長の姿。

忙しそうにしながらも的確な指示を出している。


「おい、Bテーブルのお客さんに時間だって言ってきて。あ、久遠と草木はそのテーブル空いたら予約の人入れるからそこについて」


いや、もはや文化祭実行委員長ではない。
マネージャーと呼ぼう。


「ありがとうございましたー!お次、2名様でお待ちのウエダ様、ウエダ様」


流れ作業のように淡々と接客をこなす彼。


「大変お待たせいたしました。ヒナノとカナエ指名でご予約されていたウエダ様ですね。1番の番号札をご提示いただけますか」


暗幕の裏にも聞こえる声に思わず感心してしまう。


「黒服、案内!」


しかし最初よりも随分と指示が適当になったのは気のせいだろうか。


そんなことが少し気になりながらも私と香奈枝は初めての指名客におしぼりを持ってテーブルへ向かう。

無駄に緊張しておしぼりがブルブルと震える。

ソファに腰を沈めた2人の男性の背中。
私服を着ている為、外部の人だと分かり余計に緊張する。

まずは深呼吸して自己紹介だ。


「ご!し!ごしっ…ご、ご指名頂きありがとうございます。私ひなのと申します!!』


思いっきり失敗した。
香奈枝が呆れた顔でこちらを見ているだろうなと見ないでも分かる。


「ごしごしって。めっちゃ緊張してんじゃん」

「俺ら卒業生だからそんな緊張しないで大丈夫だよ」


そしてお客さんが優しい。


「へぇ、劇もやるんだ」

「そうなんですよ。何時からだったか忘れましたけど」


優しいお客さんに甘えて実際こうして接客を始めてみれば意外と会話が続くし、楽しいものだと気付いた。

何だか私がお客さんに接客されている気がしないでもないが、知らない人との会話も意外と良いものだ。


「ヒナ、劇の時間まであと30分だし用意してきたら?」


そう思っていたからか過ぎる時間は早く、香奈枝がそう教えてくれた時にはもうお昼前だった。


「そだね!マネージャー、私劇の用意するから抜けるね」

「おぅ。って、マネージャーってなに?」


文化祭実行委員、もといマネージャーにことわり暗幕の裏へと移動すると疲れきった顔の島村君がすでに座って待機していた。

目を瞑りぐったりとしていたが、私が入ってきたことに気付いたのか重そうに瞼をあけて「おつかれ」と笑顔を見せてくれた。


「島村君指名ずっと連続だったでしょ」

「久遠さんもね」


それから雑談しつつ簡易更衣室の中で劇の為の衣装に着替える。

髪型はそのままでOKとマネージャーから許可がおりているので服が違っているだけだが、先程までと全然違って見える黄色の長いふんわりとしたドレスはかなり目立つ。

劇の内容はお姫様と王子様の出てくる有名な物語のパロディ。

しかもかなりのショートストーリーを今から演じるわけだけども。


「───12時より、ショートストーリーをステージにて開催致します。こちらのステージは午後にはお立ち台にもなりますので、今いらっしゃる方もまた午後にお越しくださればと思います」


劇の出演者が準備万端で暗幕裏で待機しているこの瞬間。


「………あれ」


マネージャーの声が頭に響いた瞬間、


「どうしよう、島村君」

「ん?」

「今の一瞬でセリフ全部忘れたかも」

「えっ!?」


今の今まで覚えていた、徹夜で詰め込んだ短い劇のセリフがすっ飛んでいって。


「それでは、お楽しみください」


時間は当然待ってくれず、焦る間もなく暗幕が少し開かれた。


「…アドリブでいくしかないね」

「…本当すみません」

「いやいや。案外ウケると思うよ」


こんな時でも動揺を隠して笑顔で私を励ましてくれる島村君に支えられ、


「待ってましたー!」

「ヒナー!」


拍手と声援が響く中ステージへと上がっていく。

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