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4章 冬
46話
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お母さんがフランスで賞をとったのは、わたしが十歳のとき。
それまでは、ときどき絵を描いて美術館に出展するくらいで、いつもお母さんは家にいて、どこにでもあるふつうの家だったと思う。
だけど賞をとってから、お母さんにたくさんの仕事の依頼がきてね、わたしの家は「絵描きの住む家」になったの。
最初のころは良かったな。そんな風に仕事をするのがお母さんの夢だったし、お父さんもわたしも応援してた。展示会で東京に行ったり、海外に行かなきゃいけないときは、一緒についていったりもして楽しかった。その時に仲良くなった画家さんや画商さんは、今でもときどき連絡をくれるの。
だから、最初はよかったんだよ。
お母さんが少しおかしくなっているのかもしれない、て気づいたのはわたしが中学に入ったころかな。
きのこの入った煮込みハンバーグ、お母さんの作る定番メニューなのに、つくってる途中で作り方がわからなくなったって。お母さん疲れてるのかもってその日はお父さんもわたしも、一緒に笑ってた。
だけど、その日から日常の動作忘れ、みたいなのがひどくなったの。珈琲の淹れ方、電話のかけ方、車の乗り方、スーパーに買い物に行ったらレジを通さずにお店を出ようとするから、びっくりしちゃったなあ・・・。あとね、よく頭が痛い、痛いって言うようになってね。ズキンズキンて痛んで、偏頭痛の薬を飲んでも治らなくて、頭が痛くて、お母さんは一日中ふとんに横たわってた。
さすがにおかしいと思って、お父さん、お母さんを病院に連れていったの。金沢のいちばん大きな病院で検査してもらったんだけど、原因はわからなかった。お医者さんは、おそらくストレスが身体に悪影響を及ぼしているんじゃないか、て言って、お母さんに休むことをすすめたの。
お母さん、仕事の依頼がたくさん来てて、休むわけにはいかないって言ったんだけど、お父さんとわたしでとめた。お母さんの責任感の強さは立派だけど、それでお母さん自身がつぶれてしまうのは、嫌だったから。
お母さん泣いてた。すごく、いっぱい泣いたけど、仕事をちゃんと休むって決めたの。それからしばらくの間、お母さんはふつうのお母さんにもどったんだよ。学校から帰ったらいつもキッチンにお母さんが立ってて「おかえり、心美」って言うの。お父さんが帰ってきたら一緒にご飯を食べて、テレビを観ながら笑ってた。どこにでもあるような普通の家にね、もどったんだあ。
だけど、頭痛いのがだんだんと良くなってきて、日常生活も問題なく送れるようになってきたから、無理しない程度に絵を描いてみようかってなったの。わたしが中学生になったころかな。
復帰したら、お母さんの絵を待ってくれていたお客さんは思いのほか多くてね、お母さんはひとつひとつの依頼に応えていったの。心配だったけど、このままずっとお父さんの収入だけだとやっていけなかったみたいだから、仕方ないかな、とも思ってた。
というか、わたしは中学に入ってから反抗期になっちゃって、その頃は家のことなんてどうでもよくて、学校の友達や先輩とよく過ごしてたの。シオリさんと知り合ったのもそのあたりだと思う。家に帰ったらすぐ自分の部屋に閉じこもってたし、お父さんやお母さんが家で何をしているのかもあんまり知らなかった。
おばさんは、その頃からよくわたしの家に顔を出すようになってた。結婚して新潟で暮らしているっていう話は聞いてたけど、やりとりはあんまりなくてね、家に来たときに何度か話すんだけど、なんとなく好きになれない感じって思ってた。おばさんが話す言葉はいつも高飛車な感じがしたし、蛇みたいにねちっこくて、弁護士の夫がいることもよく自慢してた。だけど来るときは新潟のお土産をもってきてくれるし、従弟の登は素直でいいやつだったから、別に害はないかなってくらいに考えてた。
それまでは、ときどき絵を描いて美術館に出展するくらいで、いつもお母さんは家にいて、どこにでもあるふつうの家だったと思う。
だけど賞をとってから、お母さんにたくさんの仕事の依頼がきてね、わたしの家は「絵描きの住む家」になったの。
最初のころは良かったな。そんな風に仕事をするのがお母さんの夢だったし、お父さんもわたしも応援してた。展示会で東京に行ったり、海外に行かなきゃいけないときは、一緒についていったりもして楽しかった。その時に仲良くなった画家さんや画商さんは、今でもときどき連絡をくれるの。
だから、最初はよかったんだよ。
お母さんが少しおかしくなっているのかもしれない、て気づいたのはわたしが中学に入ったころかな。
きのこの入った煮込みハンバーグ、お母さんの作る定番メニューなのに、つくってる途中で作り方がわからなくなったって。お母さん疲れてるのかもってその日はお父さんもわたしも、一緒に笑ってた。
だけど、その日から日常の動作忘れ、みたいなのがひどくなったの。珈琲の淹れ方、電話のかけ方、車の乗り方、スーパーに買い物に行ったらレジを通さずにお店を出ようとするから、びっくりしちゃったなあ・・・。あとね、よく頭が痛い、痛いって言うようになってね。ズキンズキンて痛んで、偏頭痛の薬を飲んでも治らなくて、頭が痛くて、お母さんは一日中ふとんに横たわってた。
さすがにおかしいと思って、お父さん、お母さんを病院に連れていったの。金沢のいちばん大きな病院で検査してもらったんだけど、原因はわからなかった。お医者さんは、おそらくストレスが身体に悪影響を及ぼしているんじゃないか、て言って、お母さんに休むことをすすめたの。
お母さん、仕事の依頼がたくさん来てて、休むわけにはいかないって言ったんだけど、お父さんとわたしでとめた。お母さんの責任感の強さは立派だけど、それでお母さん自身がつぶれてしまうのは、嫌だったから。
お母さん泣いてた。すごく、いっぱい泣いたけど、仕事をちゃんと休むって決めたの。それからしばらくの間、お母さんはふつうのお母さんにもどったんだよ。学校から帰ったらいつもキッチンにお母さんが立ってて「おかえり、心美」って言うの。お父さんが帰ってきたら一緒にご飯を食べて、テレビを観ながら笑ってた。どこにでもあるような普通の家にね、もどったんだあ。
だけど、頭痛いのがだんだんと良くなってきて、日常生活も問題なく送れるようになってきたから、無理しない程度に絵を描いてみようかってなったの。わたしが中学生になったころかな。
復帰したら、お母さんの絵を待ってくれていたお客さんは思いのほか多くてね、お母さんはひとつひとつの依頼に応えていったの。心配だったけど、このままずっとお父さんの収入だけだとやっていけなかったみたいだから、仕方ないかな、とも思ってた。
というか、わたしは中学に入ってから反抗期になっちゃって、その頃は家のことなんてどうでもよくて、学校の友達や先輩とよく過ごしてたの。シオリさんと知り合ったのもそのあたりだと思う。家に帰ったらすぐ自分の部屋に閉じこもってたし、お父さんやお母さんが家で何をしているのかもあんまり知らなかった。
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