あなたのことが大好きなので、今すぐ婚約を解消いたしましょう! 

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』

文字の大きさ
15 / 54

広がる噂

しおりを挟む
 

 ある日のこと、アルミアがたずねた。

「ねぇ、ミリィ。そういえば私最近気がついたんだけれど……。マリアンネって最近絡んでこなくなったと思わない? 取り巻きもなんだか静かだし??」
「そういえばこの間、バザーへの足しにって不要になった衣類やなんかを寄付してくれたわ。マリアンネ様も取り巻きさんたちも」
「は……!? あの……マリアンネたちがっ!? あんなにバザーを馬鹿にしてたのに??」

 愕然とした顔で驚くアルミアに、ミリィはこくりとうなずいた。

 確かにあの時は驚いた。まさかあのマリアンネがバザーに協力してくれるなんて思いもしなかったから。ドレスにクッションに、ちょっとした小物まで提供してくれて、大層助かったのだ。

「あのマリアンネがねぇ……。どういう風の吹き回しかしら……?? やっとランドルフ様の婚約者があなただって認める気になったのかしら?」 
「さぁ……?? でも確かにいわれてみれば、意地悪なことも言ってこなくはなったわね……。なんでかしら??」

 アルミアと顔を見合わせ首を傾げていると、そこにリーファ会の一員でもある友人が勢いよく飛び込んできたのだった。

「ミリィ!! アルミア!! 大変よっ。町が噂で大変なことになってるのっ! きてちょうだいっ!!」
「噂!? 一体何の??」
「町に出てみればすぐにわかるわよっ!! もう大騒ぎなんだからっ!!」

 勢いよく連れ出された町でミリィとアルミアが見たものは――。



 ざわざわ……!!
 どよどよ……!!

「おいっ!! 大変だっ。あのランドルフ様が町の踊り子とミリィちゃんを両天秤にかけてたんだとよっ!!」
「踊り子って……あのユリアナかいっ!? まさかあんな女に?? 何かの間違いだろうっ!?」
「それがさ、その当人のユリアナがこの噂を広めてんだとよっ! なんでも婚約が決まって、ランドルフの旦那がユリアナを捨てたとかなんとか……。大層ご立腹らしいぞ?」
「ランドルフ様は腰のホクロに口づけるのがお好きなんだとよっ!! くぅぅぅっ!! ランドルフ様もやるねぇ」
「なに言ってんだいっ!! あのランドルフ様があんな尻軽女を相手にするもんかいっ!! 何かの間違いに決まってるさっ」

 町はユリアナとランドルフの恋の噂でもちきりだった。
 ランドルフがミリィと婚約する前にユリアナと恋仲で、婚約が決まったことでユリアナがひどい捨てられ方をしたのだという、醜聞が――。しかもミリィと結婚した後は愛人として屋敷を用意して囲ってやると言っていたとかなんとか。

「そんな……なんで、こんな……」

 ミリィは呆然とつぶやいた。立ち尽くすミリィの耳に、町行く人たちのひそひそ声が聞こえてきた。 

「ほら、見て。あの方よ? ランドルフ様の婚約者様って子……。かわいそうにねぇ。ゆくゆくは愛人と二股なんですって。私、ランドルフ様を見損なったわ! そんな不実な方だったなんて!!」
「でももしかしたらよっぽど不誠実な別れを切り出したのかもしれないわよ? 今になってそんなに怒って自ら噂を振りまくくらいだものっ!」

 若い少女たちが、ミリィを遠巻きに見ながらひそひそ同情の視線を投げかけていく。と思えばこちらでは、男たちがなんとも言えないだらしのない表情でつぶやく。
 
「しょせんはランドルフ様もただの男ってことさ! ユリアナってのはずいぶん豊満な身体つきの色気たっぷりの女らしいじゃねぇか。守り神もやっぱりそういう女には弱いんだなぁ……」
「色気には敵わないってか? でもあのユリアナとはねぇ……。あちこちで男と色々問題を起こしてるって話じゃないか。そりゃああの婚約者って子は、女性としての色気みたいなのはないかもしれないけどさ……」 

 ミリィの胃がキリキリと痛みだした。

(どうして……?? なんでユリアナ様自らそんな噂を……!?)

 確かに婚約が決まったせいで、別れを切り出され泣く泣く別れたのだと言っていた。そのことに恨みを感じていてもおかしくはない。でもだからってこんな噂を流したら、ランドルフの印象が悪くなるばかりだ。

(このままじゃ、ランドルフ様がすっかり悪者扱い……。ランドルフ様は二股なんて考える方じゃないわ! 婚約だってきっと陛下からのお話を断れなかっただけで……)

 すっかり噂は町中の隅々にまで広まっていた。こんな話が陛下の耳にもしも届くようなことがあれば、いざランドルフとユリアナの仲を取り持とうとしたところで陛下にふたりの結婚を許してもらえなくなるかもしれない。それじゃあこれまでつかの間の婚約者として頑張ってきたことも、無駄になってしまう。
 
 ミリィはぐっと拳を握りしめ、声を上げた。

「私、ちょっとユリアナ様に会ってくるわ……!! きっと何かの勘違いに決まってるものっ。ユリアナ様がそんなひどい噂を流すはずないのよっ」
「ええっ!? ちょ……ちょっと、ミリィ!?」
「じゃあね、アルミア!!」

 ぽかんと口を開いたままのアルミアたちを残し、ミリィは急ぎユリアナがいるであろう町の劇場へと向かったのだった。 



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】長い眠りのその後で

maruko
恋愛
伯爵令嬢のアディルは王宮魔術師団の副団長サンディル・メイナードと結婚しました。 でも婚約してから婚姻まで一度も会えず、婚姻式でも、新居に向かう馬車の中でも目も合わせない旦那様。 いくら政略結婚でも幸せになりたいって思ってもいいでしょう? このまま幸せになれるのかしらと思ってたら⋯⋯アレッ?旦那様が2人!! どうして旦那様はずっと眠ってるの? 唖然としたけど強制的に旦那様の為に動かないと行けないみたい。 しょうがないアディル頑張りまーす!! 複雑な家庭環境で育って、醒めた目で世間を見ているアディルが幸せになるまでの物語です 全50話(2話分は登場人物と時系列の整理含む) ※他サイトでも投稿しております ご都合主義、誤字脱字、未熟者ですが優しい目線で読んで頂けますと幸いです ※表紙 AIアプリ作成

【完結】婚約者が好きなのです

maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。 でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。 冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。 彼の幼馴染だ。 そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。 私はどうすればいいのだろうか。 全34話(番外編含む) ※他サイトにも投稿しております ※1話〜4話までは文字数多めです 注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)

あなただけが私を信じてくれたから

樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。 一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。 しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。 処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。

【完結】この胸が痛むのは

Mimi
恋愛
「アグネス嬢なら」 彼がそう言ったので。 私は縁組をお受けすることにしました。 そのひとは、亡くなった姉の恋人だった方でした。 亡き姉クラリスと婚約間近だった第三王子アシュフォード殿下。 殿下と出会ったのは私が先でしたのに。 幼い私をきっかけに、顔を合わせた姉に殿下は恋をしたのです…… 姉が亡くなって7年。 政略婚を拒否したい王弟アシュフォードが 『彼女なら結婚してもいい』と、指名したのが最愛のひとクラリスの妹アグネスだった。 亡くなった恋人と同い年になり、彼女の面影をまとうアグネスに、アシュフォードは……  ***** サイドストーリー 『この胸に抱えたものは』全13話も公開しています。 こちらの結末ネタバレを含んだ内容です。 読了後にお立ち寄りいただけましたら、幸いです * 他サイトで公開しています。 どうぞよろしくお願い致します。

放蕩な血

イシュタル
恋愛
王の婚約者として、華やかな未来を約束されていたシンシア・エルノワール侯爵令嬢。 だが、婚約破棄、娼館への転落、そして愛妾としての復帰──彼女の人生は、王の陰謀と愛に翻弄され続けた。 冷徹と名高い若き王、クラウド・ヴァルレイン。 その胸に秘められていたのは、ただ1人の女性への執着と、誰にも明かせぬ深い孤独。 「君が僕を“愛してる”と一言くれれば、この世のすべてが手に入る」 過去の罪、失われた記憶、そして命を懸けた選択。 光る蝶が導く真実の先で、ふたりが選んだのは、傷を抱えたまま愛し合う未来だった。 ⚠️この物語はフィクションです。やや強引なシーンがあります。本作はAIの生成した文章を一部使用しています。

「君以外を愛する気は無い」と婚約者様が溺愛し始めたので、異世界から聖女が来ても大丈夫なようです。

海空里和
恋愛
婚約者のアシュリー第二王子にべた惚れなステラは、彼のために努力を重ね、剣も魔法もトップクラス。彼にも隠すことなく、重い恋心をぶつけてきた。 アシュリーも、そんなステラの愛を静かに受け止めていた。 しかし、この国は20年に一度聖女を召喚し、皇太子と結婚をする。アシュリーは、この国の皇太子。 「たとえ聖女様にだって、アシュリー様は渡さない!」 聖女と勝負してでも彼を渡さないと思う一方、ステラはアシュリーに切り捨てられる覚悟をしていた。そんなステラに、彼が告げたのは意外な言葉で………。 ※本編は全7話で完結します。 ※こんなお話が書いてみたくて、勢いで書き上げたので、設定が緩めです。

【完結】祈りの果て、君を想う

とっくり
恋愛
華やかな美貌を持つ妹・ミレイア。 静かに咲く野花のような癒しを湛える姉・リリエル。 騎士の青年・ラズは、二人の姉妹の間で揺れる心に気づかぬまま、運命の選択を迫られていく。 そして、修道院に身を置いたリリエルの前に現れたのは、 ひょうひょうとした元軍人の旅人──実は王族の血を引く男・ユリアン。 愛するとは、選ばれることか。選ぶことか。 沈黙と祈りの果てに、誰の想いが届くのか。 運命ではなく、想いで人を愛するとき。 その愛は、誰のもとに届くのか── ※短編から長編に変更いたしました。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

処理中です...