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オーランドの悶々
しおりを挟む「ふむ……。やはりコブに薬効が集中しているな……」
オーランドは研究の結果を紙にカリカリと書きつけ、ふぅ……と息をついた。
オーランドは一言で言って、ミリィを気に入っていた。なんというのか、ミリィがそばにいてくれると心が休まるのだ。程よい距離感も、研究の合間に一緒に飲む紅茶も食事も実においしい。なんならこのままここに就職して助手を続けてくれないか、なんて思うくらいには。
それになんといっても、オーランドは自分の良き理解者を渇望していた。ミリィならば、良き理解者としてともに植物研究の道を歩んでくれるような気がして――。
それに観察眼やひらめきという点においてもミリィは優れていた。それが今回の発見につながったのだ。
大きく成長したメギネラには、成長段階のものと比べ薬効が少なくなると考えられていた。けれどミリィがふと口にした言葉をきっかけに、成長後のメギネラを再度しっかりと分析し直して見たのだ。その結果――。
メギネラの地上部においては、これまでの研究通り薬効は成長段階のものより減少している。けれど地下の根っこの部分――特に根についたコブ部分に、素晴らしい薬効が集中していることがわかったのだ。これは世紀の大発見だった。
「コブをもっと有効活用できれば、特効薬になること間違いない……! 完成まであと一歩だな……」
オーランドの口元に笑みが浮かんだ。そしてふと思ってしまったのだ。このままミリィが自分のそばにいてくれたらいいのに、と。なんなら研究の助手としてだけでなく、人生をともに歩んでくれるパートナーとして、と。
そんな馬鹿げたことを考えた自分にはっと気が付き、慌てて首を振った。
「何を考えているんだ。私は……。ミリィはただ、ランドルフを助けたいから薬をほしがっているだけで……」
ミリィは植物研究がしたくて、王立薬学院の門を叩いたわけじゃない。それにそもそもミリィは、あのランドルフ・ベルジアの婚約者なのだ。
(守り神ランドルフの婚約者……か。あれが……な)
オーランドは、国の守り神として知られる大男ランドルフの姿を思い浮かべた。王宮に上がった時に何度か顔を合わせたことはある。直接の接点は当然ないが。
額に残る大きな傷跡。まるで壁のような分厚い筋肉に覆われた体。鋭い眼光。その男の隣に並ぶミリィを想像してみた。
「……ちっ!!」
なぜだろう。なんだか非常におもしろくない。オーランドは荒々しくペンを置き、大きなため息を吐き出した。そしていまだミリィがメギネラを採りに行き戻らないことに気がつき、首を傾げた。
「ええいっ!! ミリィは一体何をやっているんだ……。薬草を採りに行って大分たつぞ?」
すっかり集中力の切れたオーランドは、ガタンッと勢いよく椅子から立ち上がった。
ここのところ、コブにとんでもない薬効があると判明したことで研究に熱が入り過ぎていた感は否めない。そのせいか、ミリィにも少し無理をさせてしまっていたのかもしれなかった。今朝研究室にやってきたミリィは、どこか顔色が悪かったのだ。だから今日は帰って休め、と言ったのだが――。
(まったく……何をしているんだか……。やはり朝のうちに無理矢理にでも帰すべきだったか……。今からでも遅くない。すぐに馬車を呼んで――)
胸に走る嫌な予感に、オーランドは急ぎ足でミリィがいるはずの薬草園へと向かったのだった。
そしてその先でオーランドが見たものは――。
「……っ!! おいっ!! ミリィ、どうしたんだっ!?」
見れば地面の上に、ミリィが力なく横たわっていた。顔色もひどく悪い。
オーランドは慌ててかけ寄り、その見た目よりはそれなりに筋肉のついた腕でミリィの体を担ぎ上げた。
「おいっ! ミリィ、大丈夫か? まったく世話の焼ける助手だな……」
頬に触れてみれば、驚くほどに冷たかった。その冷たさに小さく舌打ちをすると、オーランドはミリィの体を抱き上げた。そしてそのあまりの軽さに、ようやくミリィが自分とは違う女性という存在であることに気がついたのだった。
オーランドは腕の中のミリィをじっと見つめ、大事そうにそっと抱きしめると薬草園をあとにしたのだった。
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