隠れ御曹司の恋愛事情

秋月朔夕

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 あれから数日経った月曜日の朝。なんだか早く起きてしまって、駅の中にあるお気に入りのパン屋さんで朝食をとっても時間が余ったから、そのまま会社に行くことにした。

 就業時間よりかなり早い時間に到着したからか、まだ誰も来てはいない。
 のんびりとした気分で給湯室でコーヒーを沸かしながら、桐山くんのことを思い出す。


(桐山くんはあの時なんて言おうとしたんだろう?)

 あれから数日が経つというのに、未だに彼の言葉がわたしの耳から離れなくて、気が付けば彼のことばかり考えている。


『花咲さん。なんで、見合いなんてするんですか?』
『僕は、ずっと、貴女を……』

 たった二言の訴え。
 なのに、どうしてか思い出す度にソワソワと落ち着かない気分にさせる。
 こういった時、年齢相応に異性と経験のある人ならどうしているのだろう。


(あー。誰かに相談したい)

 直接好意を伝えられたわけでもないのに、グルグルと考えこむ自分が馬鹿みたいだ。
 そんな嫌な気持ちを誤魔化すようにマグカップにコーヒーを入れようとすれば、無意識の内に手が震えていたせいで溢してしまう。

「大丈夫ですか?」
「桐山くん……」


 なんでこんなタイミングで現れるのか。
 ドジなところを見られた恥ずかしさからつい八つ当たり染みたことを思う。

(というか、最近桐山くんによく会うな)

 そんなことを考えながら、挨拶する。


「おはよう。ちょっと手が滑っちゃって。すぐに拭くから大丈夫よ」

 なんでもないように取り繕って、さっと台布巾で汚れた場所を拭く。布に染みたコーヒーの汚れを水で濯ぎきつく絞れば、何故か横で桐山くんがこちらを見つめていた。
 痛いくらいの視線に耐えきれなくて、コーヒーも持たないまま「それじゃあ」と声を掛けて給湯室から出ようとすれば、ぼそりと彼が声を掛ける。


「花咲さん」
「なに」
「……もうお見合いはしたんですか?」 


 不意打ちの質問にギクリと身体が強張った。
 突然のことに動揺し、ついつい言わなくていいことを口走らせる。

「……まだ。今週の土曜日に予定しているの」

 なんで素直にお見合いの日にちまで言ってしまうのか。どうしようもない気まずい沈黙が降りて、後悔する。


「…………花咲さん」
「うん」
「お見合いなんて……」


 続くはずの言葉は廊下から女子社員達の声が聞こえて、最後まで吐き出されることはなかった。
 わたしは彼女らに見られないようにと立ち去れば、彼も追ってくることはない。
 だけど取り残された彼はこの時ある決意をしたらしい。


 そのことをわたしが知るのはもう少し後のこととだった。


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