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王都
6
魔法陣の光が、中心からゆっくりと脈打つ。
青でも、白でもない。
淡い――だが、底知れない深みを帯びた光。
はるは、中央に立ったまま息を整えていた。
足元から、温度とも圧力とも違う“何か”が伝わってくる。
「……はる、無理はするな」
アルバートの声が、すぐ近くにある。
振り返らなくても、そこにいると分かる距離。
「うん……」
はるは小さく返事をし、胸の奥に意識を向けた。
――いつも、勝手に溢れてきた力。
助けたいと思った瞬間に、流れ出てしまったもの。
(……どうやって、使ったんだろう)
考えようとした、そのとき。
『力を“使う”な』
あの声が、はっきりと響いた。
『お前は器だ。
流れを許すだけでいい』
はるの呼吸が、一瞬止まる。
(……流れを、許す……?)
怖さはあった。
けれど――不思議と“拒否する理由”がなかった。
はるは、そっと肩の力を抜く。
すると。
魔法陣の中心から、音もなく凄まじい光が立ち上った。
「っはる!」
「……っ!?」
セナが即座に一歩前へ出る。
「結界、最大展開!
ミエル、波形を見ろ!」
「はい!」
ミエルが魔道具を操作した瞬間、彼の目が大きく見開かれた。
「……ありえない……
魔力総量が、測定不能です。
増減じゃない……“循環”している……!」
「循環、だと……?」
カエルスが、低く唸る。
魔法陣に刻まれた古代文字が、一斉に浮かび上がり、次々と書き換えられていく。
――まるで、魔法陣そのものが“上書き”されているかのように。
「……構造を、書き換えている…のか……?」
セナの声に、緊張が走る。
「はる、聞こえるか!
今、何を感じている!」
はるは、ゆっくりと目を閉じたまま答えた。
「……あったかい……
でも……深くて……
落ちたら、戻れなくなりそう……」
その言葉に、アルバートの表情が強張る。
「――中断だ」
「待て」
鋭く遮ったのは、カエルスだった。
「……陛下は、この結果を待っている」
「命より優先するものじゃない」
セナやミエルも魔道具を操作しながら視線だけアルバートへ向けて頷く。
アルバートは一歩踏み出し、はるの前に立つ。
「これ以上は危険だ。
はる。戻ってこい。」
緊迫した空気の中、
アルバートがはるへ手を伸ばそうとした
――その、瞬間。
はるの体が、ふらりと揺れた。
「……っ」
「はる!」
アルバートが即座に支える。
魔法陣の光が、すっと収束し、静まり返る。
はるの意識が、現実に引き戻される。
「…あ、れ?…ごめん……」
掠れた声。
セナがすぐに額に手を当てる。
「……大丈夫だ。
魔力は……減ってないな。むしろ、安定してる」
ミエルも、呆然としたまま頷いた。
「はい……
今まで見たどんな魔力とも違う……
枯渇もしないし、暴走もしていない……
ただ……深すぎる」
その言葉に、カエルスは静かに息を吐いた。
(……これが、“黒”……)
王が求めた力。
国を救う切り札。
だが同時に――
人が抱え込むには、あまりにも重い。
アルバートは、はるを抱き寄せるように支えながら、きっぱりと言った。
「これ以上、今日は無理だ。」
カエルスは一瞬だけ黙り込み、やがて頷いた。
「……いいだろう。
報告は、私とミエル、第二騎士団の治癒師でまとめる」
その声には、先ほどまでの硬さはなかった。
魔力測定室を後にする一行。
はるは、アルバートの外套の端を、無意識に掴んでいた。
「……ねえ」
「どうした」
「ぼく……
この力……ほんとに、役に立つのかな……」
アルバートは、歩みを止めないまま答えた。
「立つ。
だが――使い方を決めるのは、お前だ」
その言葉に、はるは少しだけ胸が軽くなる。
その背後で
誰にも聞こえない声が、静かに笑った。
『……いい選択だ』
黒の力は、まだ眠っている。
だが確実に――王城という舞台で、物語は次の段階へと進み始めていた。
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