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「転校生だってさ」
誰かが言ったその一言が、生徒会室の空気を変えた。
松風 空(まつかぜ そら)
小柄な体に、もじゃもじゃの髪。度の強い丸眼鏡の奥から、遠慮なく他人を値踏みするような視線を向けてくる少年だった。
「へえ、生徒会に興味あるんだ?」
湊翔が軽く声をかけると、空は即座に笑った。
「あるある!だってここ、面白そうじゃん。ね、先輩たち」
距離の詰め方が異様に早かった。
敬語も使わず、遠慮もない。
それでいて、人懐っこい笑顔を貼り付けるのが上手い。
1週間もしないうちに、気づけば空は生徒会室へ入り浸るようになっていた。
朝陽は一歩引いた位置から、その様子を見ていた。
——少し、苦手かもしれない。
そう思ったが、口には出さず生徒会の仕事をこなしていく。
空は我儘だった。
気に入らないことがあればすぐに顔に出し、欲しいものは欲しいと言う。
「今日は仕事?つまんな。ねえ、会長、屋上行こうよ」
「今は——」
「えー、つまんない!」
蓮が困ったように笑いながらもしょうがないと腰を上げる。それに空は満足そうに頷く。
その様子を見て、朝陽は胸の奥がざわついた。
理由はわからない。ただ、何かがずれていく感覚だけがあった。
文化祭が近づくにつれ、生徒会は本来最も忙しい時期に入る。
しかし、役員たちは次第に仕事から離れていった。
「あとでやるから」
「今日は空が——」
そんな言葉が増え、書類は朝陽の机に積み上がっていく。
「……あの、皆さん」
朝陽は意を決して声をかけた。
「文化祭の準備、遅れていて……少し、お手伝いを」
その瞬間だった。
「は?」
空が、鋭く朝陽を睨みつけた。
「俺から友達取るのか?」
室内が凍りつく。
「それならお前は敵だ!!!」
一拍置いて、吐き捨てるように言われた言葉。
「お前なんか、いなければいい!」
言葉の意味を理解するより先に、朝陽は息を呑んだ。
「まあまあそこまで言わないで。」
と空を宥める悠真。
その他の役員は沈黙し、その場をやり過ごした。
——ああ、そうか。
朝陽はその時、初めて理解した。
自分は、ここにいてはいけない存在になったのだと。
それでも、文化祭は待ってくれない。
朝陽は一人で仕事を続けた。
いつの間にか生徒会室には朝陽1人。
生徒会の特権である授業免除を使い、授業中も放課後も残り、寮に持ち帰って書類を整理する。
眠る時間は削られ、食事も簡単なもので済ませる。
それでも、文句は言わなかった。
——台無しにしてはいけない。
それだけが、彼を動かしていた。
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