全寮制男子高校 短編集

天気

文字の大きさ
19 / 28

体力測定 千早




体育館に入った瞬間、皇千早は空気の温度を測るように、静かに周囲を見渡した。
冬の冷えた空気。床のきしむ音。整然と並べられた測定器具。
――体力測定。
彼にとっては、得意でも苦手でもない、ただ「結果を出すべき場」だった。

「次、反復横跳び」

淡々とした教師の声。
千早は眼鏡の位置を指で直し、指定された位置に立つ。

笛が鳴る。

一歩目から無駄がなかった。
派手さはない。だが、足の運びは正確で、軸がぶれない。
左右への切り返しも一定のテンポを保ち、疲労を最小限に抑えている。

「……静かにすごくない?」
「数、かなりいってます!!」

終了の合図。
記録係が数値を確認し、小さく頷いた。

「満点」

小さなどよめき。
千早は特に反応せず、次の種目へ向かう。

立ち幅跳び。
助走も気合いもない。
呼吸を整え、膝を沈め、必要十分な力だけを出す。

――着地。

ラインは、ちょうど最高点の位置を越えていた。

「……狙った?」
「ぴったりじゃない?」

握力測定では、機械を強く握りしめることはしない。
指全体を均等に使い、力を逃さず伝える。

表示された数値は、やはり最高点。

「副会長、全部安定してるな……」
「会長タイプとは別の怖さある」

上体起こしでは、回数を数える声が途中で追いつかなくなる。
呼吸は一定、動きは正確。
無駄な反動は一切使わない。

長座体前屈では、ゆっくりと体を倒し、無理なくラインを越える。
柔軟性すら、計算のうちだった。

最後のシャトルラン。

千早はスタートラインに立ち、深く息を吸う。
目線は前。
周囲の声は、すでに耳に入っていない。

電子音。
走り出す。

蓮とは違う。
爆発力や圧倒的な余裕ではなく、一定のペースで、確実に。
フォームは崩れず、歩幅も変わらない。

回数が進むにつれ、周囲が一人、また一人と脱落していく。
それでも千早の足取りは乱れなかった。

「……まだ余裕あるよな」
「顔色変わらないし」

最後の音が鳴る。

終了。

千早はその場で立ち止まり、静かに息を吐いた。
額にうっすらと汗は滲んでいるが、肩で息をすることはない。

教師が記録表を見て、眼鏡越しに告げる。

「皇。全種目、最高得点。オール10だ」

「……やっぱり」

拍手と小さな歓声。
派手な声は少ないが、感嘆の視線が集まる。

「副会長、綺麗だな……」
「無駄が一切ないのが逆にかっこいいです…!」

千早は一礼するように頭を下げ、タオルを手に取る。

「以上ですか」

「あぁ。お疲れ」

淡々としたやり取り。
だが、その背中には、生徒会副会長としての信頼と、静かなカリスマが滲んでいた。

(……会長は目立つ。だが)

千早は一瞬だけ、蓮の方を見る。

(支える役目も、悪くない)

そう心の中で呟き、次の指示へ備えるように姿勢を整えた。

静かで、正確で、揺るがない。
皇千早の体力測定は、そうして派手に語られないまま、
確かな「オール10」を刻んでいた。







感想 0

あなたにおすすめの小説

光と瘴気の境界で

天気
BL
黒髪黒眼の少年・はるは、ある日下校途中にトラックに轢かれると、瘴気に侵された森で倒れていた。 彼を救ったのは、第二騎士団長であるアルバート。 目を覚ましたはるは、魔法や魔物も瘴気も知らず… アルバートの身に危険が迫ったその瞬間、 彼の中で眠っていた“異質な力”が覚醒する。 古来より黒目黒髪は“救世主の色”であり、膨大な力を持っているとされている。 魔物と瘴気で侵されているエクリシア王国の国王ははるの存在を知るとその力を彼の体が壊れようとも思うがままに使おうとする。 ーー動き始めた運命は、やがて大いなる伝承の核心へと迫って行く。

笑わない風紀委員長

馬酔木ビシア
BL
風紀委員長の龍神は、容姿端麗で才色兼備だが周囲からは『笑わない風紀委員長』と呼ばれているほど表情の変化が少ない。 が、それは風紀委員として真面目に職務に当たらねばという強い使命感のもと表情含め笑うことが少ないだけであった。 そんなある日、時期外れの転校生がやってきて次々に人気者を手玉に取った事で学園内を混乱に陥れる。 仕事が多くなった龍神が学園内を奔走する内に 彼の表情に接する者が増え始め── ※作者は知識なし・文才なしの一般人ですのでご了承ください。何言っちゃってんのこいつ状態になる可能性大。 ※この作品は私が単純にクールでちょっと可愛い男子が書きたかっただけの自己満作品ですので読む際はその点をご了承ください。 ※文や誤字脱字へのご指摘はウエルカムです!アンチコメントと荒らしだけはやめて頂きたく……。 ※オチ未定。いつかアンケートで決めようかな、なんて思っております。見切り発車ですすみません……。

風に立つライオン

壱(いち)
BL
BL非王道全寮制学園の生徒会役員の主人公。王道転入生によって学校内の秩序や生徒会の役割だとかが崩壊した。金、地位、名誉、名声、権力、全てを手にしている者になったつもりでいたのは誰だったのか。 王道を脇役に主人公は以前出会った生徒会長の父との再会、恋人だった義父の病んでそうなカンジに眩暈がしそうだった。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処刑される悪役令息に転生したらなぜか推しの騎士団長がグイグイ近づいてくる

猫に小判
BL
交通事故で死んだはずの会社員・田中悠人は、気がつくとBL小説『恋と陰謀~はじまりは夜に~』の世界に転生していた。 しかも転生先は、原作で処刑される悪役令息エリオット。 当然そんな未来は回避したい。 原作知識を頼りに慎重に立ち回るつもりだったのに、気づけば王宮を揺るがす事件に巻き込まれていき――。 さらに困ったことに、原作で一番の推しだった騎士団長ガイウスがやたらと距離を詰めてきて……? 平穏に生きたい元悪役令息と、過保護な騎士団長がじれじれ距離を縮める話。 ガイウス(騎士団長)×エリオット(元悪役令息)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

魔性の男

久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。 最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。 そう、思っていた。