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副会長と不良
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昼下がりの中庭は、授業中とは思えないほど静かだった。
木陰に落ちる光が揺れ、風が落ち葉を転がしていく。
皇千早は、その静けさを乱す存在に気づき、わずかに眉を寄せた。
(……またですか)
中庭の隅。
フェンスにもたれかかるように座り、片膝を立てている男子生徒。
ネクタイは緩く、シャツの第一ボタンは外れ、
ブレザーは羽織っているだけで、袖も通していない。
衛藤柊。
学園内で知らぬ者はいない名だ。
「一匹狼」「不良」「危険」
そんな言葉が、必ず後ろに付いて回る生徒。
千早は眼鏡の位置を整え、歩み寄った。
「――衛藤くん」
衛藤 柊(えとう しゅう)は、顔を上げない。
前髪の影から、こちらを見る気配だけがある。
「授業中です。教室に戻ってください」
事務的で、丁寧な声。
感情を挟まないのが、千早の流儀だった。
「……生徒会は、巡回係じゃねぇだろ」
低く、掠れた声。
だが、敵意はない。拒絶も、どこか力が抜けている。
「規則違反を見過ごすわけにはいきません」
「規則、ね」
柊は短く笑った。
嘲るようでもあり、諦めているようでもある。
「俺がいなくても、授業は回る」
「そういう問題ではありません」
千早は一歩、距離を詰める。
「制服の着崩し。無断欠席。授業態度。
……何度注意すれば、理解していただけますか」
「理解してる」
即答だった。
柊はゆっくり顔を上げる。
切長の目が、千早を捉えた。
「理解した上で、やってる」
その視線に、千早は一瞬、言葉を失った。
噂通りの鋭さ。
だが、そこにあるのは反抗心よりも、冷えた諦観だった。
「……なら、なおさら問題です」
千早はそう返しながら、胸の奥に違和感を覚える。
(…この人は……反抗しているわけではない)
「衛藤くん」
「名前、呼ぶな」
ぴしりと、拒絶の言葉。
千早は動きを止めた。
「……失礼しました」
謝罪は早かった。
だが、その丁寧さが、柊の眉をわずかに動かす。
「副会長サマは、誰にでもそんな感じか」
「立場上、当然です」
「……疲れそうだな」
ぼそりと呟かれた言葉に、千早は反射的に答えた。
「疲れておりますよ」
自分でも驚くほど、率直な返答だった。
柊が一瞬、目を見開く。
そして、ふっと口元を緩めた。
「……は」
短い笑い。
「真面目すぎ」
「よく言われます」
千早は淡々と返す。
だが、胸の奥に、小さな揺れが生まれていた。
(……笑う人、なのですね)
それは、噂にも、周囲の評価にもなかった一面。
「今日は見逃します」
千早はそう告げた。
「次は、正式に指導しますので」
「……へぇ」
柊は立ち上がり、千早よりわずかに高い位置から見下ろす。
「優しいな、副会長」
「規則は守ってください」
「努力する」
そう言い残し、柊は校舎の裏へと消えていった。
残された中庭で、千早はしばらく立ち尽くす。
(……衛藤 柊)
名前を呼ぶことすら拒まれた相手。
なぜか胸に残った。
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